半分に折半?財産分与の割合(2分の1ルールとその例外)

離婚時の財産分与の基本的な機能は、夫婦が共同で形成してきた財産を清算する点にあります。

この清算的な財産分与の割合に関し、現在の実務では、いわゆる2分の1ルール、が原則的な考え方になっています。

2分の1ルールとは ~共同財産は半分ずつ~

財産分与における2分の1ルールとは、夫婦が共同で形成してきた財産に関して、夫婦の清算割合を50%対50%とする原則を指します。

2分の1ルールは、法律で明記された考え方ではありませんが、裁判や調停の実務においては、不文法といえるほど機能しています。

個別事情に応じて、これが変更されることはあるものの、特別の事情がない限りは、妻と夫が取得する財産の割合は相等しく50%、つまり半分ずつと判断されるのが実務の趨勢です。

民法の改正に際しては、財産の形成・維持に対する当事者双方の寄与の程度が明らかでない場合は、相等しいものとする、趣旨の改正がなされようとしたこともあるほどです。

根拠

夫婦には、専業主婦型・共働き型、家業従事型の3つがあると言われています。

このいずれの類型においても、その強弱こそあれ、2分の1ルールが妥当します。

では、実務が2分の1ルールに依拠するのはなぜでしょうか。

民法には具体的規定はない

まず、財産分与の清算割合に関して、民法では具体的指定はありません。民法にあるのは、次の規定のみです。

民法768条3項
(前項の場合には)家庭裁判所は、当事者双方がその協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮して、分与をさせるべきかどうか並びに分与の額及び方法を定める。

対等・平等な立場にある夫婦の合意

法律上、上記の規定しかないのに、離婚に際して、夫婦共同財産を2分の1の割合で折半しなければならないのは何故でしょうか。

 

その根拠としては、たとえば次のような説明が考えられます。

夫婦間において、夫婦のどちらかが働くのか、二人ともが働くのか、家事・育児との役割分担をどうするかは、夫婦の話し合い・合意で決められており、夫婦関係が維持されている間は、その合意の上で互いに協力をしあっていると考えられる。

双方が対等・平等と評価されるべき夫婦が、合意の上で、互いに協力しあっているのであるから、その協力に対する評価は、その協力の形が就労であれ、家事の形であれ、対等と評価すべきである。

あてはめ(半分に折半する場合)

具体例で2分の1ルールを当てはめてみます。

たとえば、夫婦で形成した財産として、妻名義の預貯金が500万円、100万円の価値のある保険があり、他に財産がないといった場合はどうでしょうか。

この場合、財産の総額は600万円ですから、2分の1ルールを当てはめると、夫と妻は、600万円を半分ずつの割合で折半する、ということになります。

そのため、このケースでは、夫が妻に300万円を請求できる、ということになります。夫婦の総財産を合算の上で2で割った数字が一方当事者の取得分になるわけです。

ただし、実務では、こんなにシンプルな例はありません。

清算割合の他、実際には、そもそも夫婦の共同の財産と言えるものは何か(特有財産性)、いつからいつまでに形成された財産が対象となるのか(基準時の問題)、第三者名義の財産(子どもの名義の財産や会社名義の財産等)は対象となるのか、などと言った点が問題となります。

参照:特有財産とは?離婚時の財産分与の対象とならない財産

参照:財産分与の基準時とは

2分の1ルールの例外・修正

上記に、2分の1ルールを具体的に定めた規定は民法には無い、と書きました。

2分の1ルールは、あくまでも、どう清算するのが平等・公平か、という点に対する「解釈・考え方」にすぎませんから、2分の1で折半することが、平等・公平とは評価し得ないほどの事情があれば、修正の対象となります。

なお、後述する通り、夫婦が納得して合意した場合も、2分の1で分け合う必要はありません。

2分の1ルールが例外的に修正されうるケース

以下、2分の1ルールが例外的に修正されうるケースをいくつか紹介します。

考え方のポイントは、そこに、2分の1で分け合うのが「平等・公平とはとても言いえない」事情があるか否かです。

夫婦の一方の特別な才能・才覚/努力によって多額の収入が得られたケース

2分の1ルールの修正を図るべき最も典型的な例は、夫婦のどちらか一方の属人的な能力や努力によって、多額の財産が形成されたというケースです。

裁判例では、大坂高等裁判所平成26年3月13日判決は、一般論として次のような内容を判示しています。

【大坂高等裁判所平成26年3月13日判決】
「民法768条3項は、当事者双方がその協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮して分与額を定めるべき旨を規定しているところ、離婚並びに婚姻に関する事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して制定されなければならないものとされていること(憲法24条2項)に照らせば、原則として、夫婦の寄与割合は各2分の1と解するのが相当である」

ただ、次のような事情がある場合には、「そうした事情を考慮して寄与割合を加算することをも許容しなければ、財産分与額の算定に際して個人の尊厳が確保されたことになるとはいいがたい」
  1. 夫婦の一方が、スポーツ選手などのように、特殊な技能によって多額の収入を得る時期もあるが、加齢によって一定の時期以降は同一の職業遂行や高額な収入を維持し得なくなり、通常の労働者と比べて厳しい経済生活を余儀なくされるおそれのある職業に就いている場合など、高額の収入に将来の生活費を考慮したベースの賃金を前倒しで支払うことによって一定の生涯賃金を保障するような意味合いが含まれるなどの事情がある場合
  2. 高額な収入の基礎となる特殊な技能が、婚姻届出前の本人の個人的な努力によっても形成されて、婚姻後もその才能や労力によって多額の財産が形成されたような場合
夫婦の一方が特別な才能・才覚により多額の収入を得たケース

たとえば、年収数億円も稼ぐトップアスリート、アーティスト、棋士などのほか、一部上場企業の代表取締役や大きな病院を経営している医師などが多額の資産を形成した、といったケースがこれに該当し得ます。

上記のような才能・才覚によって収入が得られている場合、属人的な能力が財産形成へ寄与・貢献しているといえる面があるため、夫婦生活中に形成された財産を2分の1で分け合うことが「対等・平等」とはいえず、清算割合が修正され得るのです。

参照:事例:財産分与割合=夫95%:妻5% ~夫のビジネス上の才覚と妻の間接的貢献を評価~

特別な努力などによって、多額の財産が形成されたケース

また、現に就労する側の特別の努力や過酷な就労環境に耐えて勤務を行い、多額の収入を得ていた、といったケースも、その努力や就労が財産形成に大きく寄与したものと評価されえます。

その結果、分与の割合が修正される可能性があります。

参照:事例:財産分与割合=夫70%:妻30%~夫の資格取得の努力・就労態様を考慮~

参照:事例:財産分与割合=夫60%:妻40% ~夫の医師資格や労力を評価~

 

夫婦の一方の固有の財産を元手に多額の財産が形成・維持されたケース

夫婦の一方の固有の財産を元手に多額の財産が形成されたケースでも、清算割合が修正され得ます。

たとえば、夫婦の一方がもともと有していた不動産から継続的な賃料収入があり、これが夫婦財産と混在してしまっている、と言う場合(特有財産としての切り分けができない場合)、現存する夫婦の財産を2分の1ずつで分け合うのは必ずしも対等・平等ではないため、清算割合が変更され得ます。

不動産でなくとも、夫婦の一方が婚姻前から有していた財産が、夫婦財産の形成・維持に大きく寄与したと認められる場合も清算割合が変更される可能性があります(なお、この場合、特有財産との切り分けが前提問題として生じることが多いです)

参照:事例:分与割合夫64%:妻36% ~夫の固有の財産が原資であることが考慮された事例~

夫婦の一方が、全く財産形成に寄与せず、かえって、財産を浪費していたと評価されるケース

さらに、夫婦の一方が、全く財産形成に寄与せず、かえって、財産を浪費していたと評価されるケースでも、財産分与の割合は変更され得ます。

教科書のような例で申し訳ないのですが、たとえば、妻が日夜働き、家事・育児もこなす一方で、夫が、趣味やパチンコなどのギャンブルで資産を食いつぶしている、といったケースがこれに該当します。

ここまで行かなくとも、たとえば、妻が家事の他・就労を行い、夫が、司法試験の勉強をするも、一向に受からない、といった場合も、財産分与の清算割合が変更される事情となるかもしれません。

参照:事例:財産分与割合=夫30%:妻70% ~妻の労働・養育の労を高く評価する一方で、夫の貢献の低さを考慮~

夫婦がほとんど同レベルにおいて就労しているものの、家事・育児については、夫婦の一方のみが引き受けているケース

2分の1ルールの修正に関して、重要なのは、夫婦財産の形成に関し、その修正を図らなければならない、といえるほどの事情があるか否かです。

そこでは、夫婦の財産形成に対する寄与・貢献度が対等・公平と言えるかが評価されます。

夫婦共働きの家庭では、一見、原則を維持して、清算割合を2分の1ずつとするのが公平なようにも思えますが、必ずしもそうではありません。

専業主婦型、つまり一方が就労して、一方が家事・育児を行うという家庭でも、2分の1ルールが妥当するのですから、共働き型家庭において、夫婦のどちらか一方のみが家事・育児の全てあるいは殆どを行っている、というケースでは、夫婦のどちらか一方が、「就労+家事・育児」をしている分、2分の1ルールを修正することが必要という考え方が生じてきます。

そのため、夫婦がほとんど同レベルにおいて就労しているものの、家事・育児については、夫婦の一方のみが引き受けているケースでも、財産分与の割合が変更され得ます。

参照:事例:財産分与割合=夫40%:妻60% ~共働き夫婦における妻の家事・育児を評価~

長期にわたり婚姻費用が支払われていないケース/養育費不払いのケース

また、婚姻費用や養育費の不払いが、財産分与に影響を与えることもあります。

婚姻費用について

夫婦別居後に本来支払われるべきであったはずの婚姻費用が長期にわたり支払われていなかった、ことを理由に財産分与の清算割合が変更されることがあります。

この点については、次の記事を参考にしていただけますと幸いです。

参考:財産分与に際し、過去の婚姻費用・生活費の不払いを考慮できるか

養育費について

また、婚姻費用ほど議論は進んでいませんが、別途、養育費についても、ケースによっては、検討の対象になり得ます。

参考:養育費と財産分与に関する一考

修正する場合の清算割合

次に清算割合を修正する場合の、修正の仕方について説明をします。

割合自体を修正する。

修正の仕方として一般的なのは割合自体を修正する方法です。

2分の1ルールを修正する場合、多くの裁判例を見る限り、5%・10%刻みで修正していることが多いのではないかと思われます。

たとえば、50%対50%を、45%対55%と修正する、40%対60%と修正する、といった方法です。

どの程度修正されるかは、個別の事情によることになります。

たとえば、その人の才覚・能力によって得られている金額が顕著に大きいといった場合(野球選手として年収5憶等を継続的に稼いでいるといった場合)、分与割合が90%対10%などと判断されることもあり得ます。

分与の対象となる財産を切り分ける

また、例として余り無いものの、分与の対象となる財産を切り分けた上で、清算割合を変更する、などの判断がなされることもあります。

たとえば、1000万円の価値のある不動産に関して、分与割合を夫25%、妻75%とし、それ以外の財産について、50%ずつ折半とする、といった方法です。

こうした判断が為されること自体稀ですが、ある特定の財産(上記例では不動産)の取得の経緯が、他の財産と明確に切り分けられ、その財産の形成・維持に関しては当事者の貢献度・寄与度が違う、といった場合に、こうした処理・主張ができないかが検討対象となり得ます。

参照:財産分与割合:財産全体の修正と特定財産の修正について

清算割合の決定・修正の方法

最後に割合の決定・修正の方法についてです。

夫婦の合意で決定することが可能

財産分与の割合は、夫婦間の話し合いで決定をすることができます。

夫婦の合意ができれば、たとえば、不動産を夫に帰属させ、預貯金を妻に帰属させる、といったことも可能ですし、残財産を夫あるいは妻に帰属させる、といったことも可能です。

夫婦が納得していれば、清算割合を2分の1にすることに拘る必要はありません。

同じことは調停手続においても言えます。離婚調停手続においても、財産分与に関する話し合いをすることが可能であるところ、調停の場で夫婦の合意ができれば、2分の1ルールに縛られることはありません。

夫婦間の合意ができなかった場合

夫婦間の話し合いや調停でも合意ができなかった場合、家庭裁判所に清算割合を判断してもらうこととなります。

離婚前の段階における手続

夫婦間の話し合いや調停でも合意ができなかった場合、離婚成立前であれば、離婚裁判へと手続が進むこととなります。

財産分与を求める側は、同離婚訴訟の中で、公平・平等な財産分与が何か、という点に関し、自己の主張を行っていくこととなります。

裁判所は、当事者の主張・証拠を吟味し、清算割合の修正の可否を判断します。

離婚後の段階における手続

また、既に離婚が成立している場合には、財産分与に係る家事審判手続により、家庭裁判所に判断を求めていくこととなります。

弁護士にご相談ください

上記のように、話し合いや調停手続で財産分与の精算割合につき、合意ができなかった場合、家庭裁判所の判断を仰ぐことになります。

ただし、冒頭述べた通り、裁判所では、夫婦が共同で形成してきた財産に関して、夫婦の清算割合を50%対50%とする考え方が趨勢となっていますので、清算割合の修正がなされる判断を得るのは決して容易ではありません。

清算割合の修正・変更が争点となる場合には、その見通し・行うべき訴訟対応を含めて、弁護士に是非ご相談ください。

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