事例:財産分与割合=夫60%:妻40% ~夫の医師資格や労力を評価~

離婚に際して、夫婦の協力によって得られた財産は、2分の1ずつで清算し、50%ずつを夫と妻が取得する、という2分の1ルールが原則的には機能しています。今回は、その2分の1ルールが例外的に修正された事案を紹介します。

清算割合は個人の才覚等の寄与があれば修正

今回紹介する、大坂高等裁判所の判決は、「原則として、夫婦の寄与割合は各2分の1と解するのが相当である」と明示しています。

この判示は、他の裁判例や実務の趨勢と同様、夫婦財産は、原則として、2分の1ずつとするの考え方を出発点としています。

参考:財産分与の清算割合(2分の1ルールとその例外)

その上で、この判決は、夫婦財産の形成につき、婚姻前・婚姻後の個人の努力や、個人の才能が大きく寄与している場合、その割合を修正することも許容されると判示し、次に記載するように述べて、2分の1の清算割合を修正しました。

 

【大坂高等裁判所平成26年3月13日判決】

大坂高等裁判所平成26年3月13日判決の事案は、医師であった夫(控訴人)とこれを支えた妻(被控訴人)との財産分与の割合が問題となった事案です。

結論 夫6割(控訴人=医師)、妻4割(被控訴人)

同判決は、以下のように述べ、医師であった夫(控訴人)の取得分を6割、これを支えた妻(被控訴人)の取得分を4割としています。

【大坂高等裁判所平成26年3月13日判決】

「控訴人が医師の資格を獲得するまでの勉学等について婚姻届出前から個人的な努力をしてきたことや、医師の資格を有し、婚姻後にこれを活用し多くの労力を費やして高額の収入を得ていることを考慮して、控訴人の寄与割合を6割、被控訴人の寄与割合を4割とすることは合理性を有する」

「被控訴人も家事や育児だけでなく診療所の経理も一部担当していたことを考えると、被控訴人の寄与割合をこれ以上減ずることは、上記の両性の本質的平等に照らして許容しがたい。」

「他方、被控訴人は、被控訴人の寄与割合が5割を下ることはない旨主張する。しかし、かかる主張は、控訴人が平成4年2月3日に被控訴人との婚姻届出をするまでに、医師の資格を取得し、技能を身に付けるため、大学医学部に入学するための受験勉強、入学後の勉学、昭和61年に医師資格を取得するまでの勉学及び医師資格を取得した後のいわゆるインターンとしての厳しい勤務経験などの被控訴人の協力を得ずにしてきた努力によって培われた知識、技能、及び、婚姻後に身を粉にして必死に稼働し費やしてきた多大な労力や経験が高額の収入確保に繋がっている面があることを不当に軽視するものであって、採用することができない。」

理由:婚姻前後の夫(医師)の努力によって培われた知識・技能などを評価

夫側の取得割合(60%)が妻よりも大きくなった理由として挙げられているのは、夫(医師)の婚姻前の医師免許資格に向けた勉学の努力、勤務経験を得るためのインターンでの努力、婚姻後に身を粉にして必死に稼働し費やしてきた多大な労力や経験です。

他方で、裁判所は、妻側の取得割合(40%)に関して、妻側が家事・育児のみならず、診療所の経理を一部担当していたとの事情を認定しています。

婚姻前の資格取得に向けた努力について

このケースでは、上記の内、夫の婚姻前の努力と婚姻後の努力・労力は、評価としては分離させて考えることができます。

婚姻前の資格取得に向けた努力は、妻の協力ない状況で費やされたものですので、ストレートに、夫単体の寄与として評価が可能です。そして、多くの場合、医師全般に、一般論として妥当しうる事情が認定されており、医師の離婚に際して多くの場合にこの判例は引用され得ます。

婚姻後に資格取得に向けた努力が開始された場合

もっとも、たとえば、夫と妻が結婚後、夫が一念発起して、資格取得に向けた努力が開始され、夫が妻の協力の下で、医師免許など難関資格を取得した、というようなケースでは、この判決の事例とは別に考えなければなりません。

こうしたケースの場合には、資格取得自体が夫婦の協力による一種の無形資産あるいはこれと類似のものと評価され、大阪高裁の上記判断とは別の判断が為される可能性が高いと言えます。(かえって、資格取得の利が離婚後、資格取得者に残存することまで評価の対象としなければならないかもしれません。)。

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