今回は、婚姻費用・養育費算定表の見方・使い方についてです。
婚姻費用・養育費算定表とは
婚姻費用・養育費算定表とは、裁判所が公表している資料のひとつで、子供3人までの世帯の婚姻費用・養育費の金額の目安表です。
婚姻費用や養育費の金額を簡易・迅速に把握するために利用されます。
算定表は、標準算定方式という方法によって得られる結果をもとに、婚費や養育費の金額の目安を表にしています。
その金額につき、算定表は、実情に合わせて夫婦あるいは父母の協議を行いうるよう一定の幅を持たせています。
算定表の選択
算定表を使うには、まず、利用する算定表を選択しなければなりません。
算定表は下記裁判所のHP上にPDFとして公表されています。
婚費/養育費の別
夫婦の離婚前の生活費の請求については、婚姻費用算定表を用います(上図水色線)。離婚後の子どもの育児費用については、養育費算定表を用います(上図濃青線)。
参照:婚姻費用に養育費は含まれるか(概念・共通点・違いを比較)
参照:婚姻費用と養育費は別?両方を請求できる?離婚後に切り替え?
子どもの人数・年齢に応じて選択
婚姻費用算定表・養育費算定表は、子供の人数・年齢区分に応じてどれを使うかを選択することになります。
たとえば、夫婦離婚前で、14歳以下の子が二人、というケースで婚姻費用を把握しようとする場合、「(表13)婚姻費用・子2人表(第1子及び第2子0~14歳)」を使うことになります。
また、夫婦離婚を前提に、14歳以下の子3人というケースで離婚後の養育費を把握しようとする場合、「(表6)養育費・子3人表(第1子,第2子及び第3子0~14歳)」を選択することになります(上図ドラッグ場所参照)。
算定表が使えない場合
婚姻費用・養育費算定表は、子供がいるケースにおいては、父母のどちらか一方が、その父母間の子全員を養育していることを前提に作成されています。
また、費用を支払う側に連れ子など、他に養育する子がいるような場合を想定していません。
そのため、夫が長男と生活し、妻が長女と生活している、あるいは、夫婦間の子は、いずれも母が養育しているが、義務者が夫が前妻との間の子を養育している、といったケースでは算定表を眺めていても養育費の金額が割り出せません。
また、再婚して義務者が扶養すべき子がいるという場合も、この算定表では再婚相手との間の子の扶養につき考慮できません。
こうしたケースでは、標準算定方式という計算に立ち戻って、金額を算定していく必要があります。
算定表の見方
次に、算定表の見方についてです。
「(表6)養育費・子3人表(第1子,第2子及び第3子0~14歳)」を例に説明をします。
縦軸と横軸の確認
この算定表の左下には、「給与」「自営」という文字があります。
義務者の年収(縦軸)
養育費や婚費の金額を割り出すとき、これらの金銭を支払う側(義務者側)の年収については、その者が給与所得者であれば、給与欄の縦軸を、自営であれば自営欄の縦軸を見ます。
そして、たとえば、養育費を支払う者の年収が1100万円だった場合、給与欄の1100万円のところを確認し、そこから右に水平に線(義務者年収水平線)を引きます。
上図で言えば、緑の横線です。
権利者の年収(横軸)
次に、婚姻費用や養育費を貰う側の年収について、横軸を確認します。給与所得者・自営業者の別に、横軸の年収を確認していくことになります。
たとえば、権利者の給与所得が250万円だった場合、そこから垂直に線(権利者年収垂直線)を引きます。
上図で言えば、緑の縦線です。
直線同士が交わるポイントが目安となる。
上記のように義務者の年収につき、水平に線を引き、権利者の年収につき、垂直に線を引くと、線が交差するポイントが出てきます。
上図で言えば、縦緑線と横緑線が交差するポイントです。
ブロックカバー領域(灰色・白)記載の金額が目安
養育費算定表上に出来上がる交差ポイントは、「灰色」か「白」どちらかのブロック領域でカバーされてます。
このカバー領域に記載されている金額が費用の目安となります。
上記の例では、18万円から20万円が養育費の目安です。
ブロックの数と交際位置も参照にできる
上記算定表の図で、18万円から20万円の幅につき、縦に4つの灰色ブロックがあるのが分かりますでしょうか。
このブロックですが、「灰色」又は「白」のカバー領域枠内においては、上に行けば行くほど、算定表記載の目安金額の上限(ここでは20万円)に近い数字が、標準算定方式における計算結果と近似します。
また、下に行けば行くほど、算定表の目安金額の下限(ここでは18万円)に近い数字が標準算定方式における計算結果と近似します。
上記ケース例では、緑の交差ポイントが、18万円から20万円の灰色ブロックの内、上から二つ目に位置しますので、「19万0000円~19万5000円」程度が、より具体的な金額の目安となります。
【上記のケース(18万円~20万円の領域)での参考値】
- 最上ブロック=19万5000円~20万円
- 上から二つ目=19万0000円~19万5000円
- 上から三つ目=18万5000円~19万0000円
- 最下ブロック=18万0000円~18万5000円
ただ、ブロックは一応の目安にすぎません。細部までこだわるのであれば、基礎収入から直接計算して婚姻費用や養育費の金額を割り出すことを勧めます。
参照:婚姻費用・養育費の基礎収入とは?~基礎収入割合と控除経費一覧~
算定表を使用する際の注意事項
ここで3つほど、注意事項を記載します。
「年収」は手取りではない。
上記算定表記載の「年収」(冒頭図赤丸記載の部分)は手取りではありません。
給与所得者においては、税引き前の給与所得全額を指し、自営業者については、確定申告書記載の金額につき、次の計算処理を行った結果の数字を年収として利用します。
参照:婚姻費用・養育費の基礎となる総収入とは?算定表における「年収」について
また、通常は、直近年度の年収を利用して、養育費・婚費を算定しますが、数年間分の平均年収を用いたり、賃金センサスを用いて年収を認定するケースもあります。
参照:婚姻費用・養育費算定表|いつの年収・所得を用いるか(原則と例外)
記載金額は人数分の月額である。
先ほどの例で、「(表6)養育費・子3人表(第1子,第2子及び第3子0~14歳)」の場合、算定表上、養育費の額は、18万円から20万円となると記載しました(冒頭図算定表内の水色丸部分)。
これは、子供全員分(ここでは3人分)の金額であり、子供一人当たりの金額ではありません。
このケースで算定表に従う場合、夫は、妻に対して、子供3人分として1か月あたり18万円~20万円を支払う、ということになります。
なお、子供一人当たりの金額を求めたい場合には、次の記事をご参照ください。
婚姻費用・養育費算定表|「一人当たりの金額」の算定・速算方法
特別事情は考慮されていない
また、養育費算定に際しては、特別事情は考慮されていません。
養育費算定に際して、私学加算が問題となるケースや婚姻費用に関して、住居関係費の処理が問題となるケースなどは、算定表を見ていても答えがでません。
こうしたケースでは、基礎収入や標準算定方式に立ち返って、適正な結論を探っていくことが必要となります。
特別事情が問題となるケースの例については、たとえば以下のような記事をご参照ください。