今回は、婚姻費用と養育費の両方を請求することの可否やその切り替えについて説明をします。
なお、そもそも未成年ないし未成熟子がいないと、「養育費の請求」ということ自体がなりたちませんので、本稿では、夫婦間に未成年ないし未成熟子がいる、ということを前提とします。
同時請求は不可、順次請求は可能
婚姻費用は、離婚前の一方配偶者の生活費とその配偶者が監護している子の生活費(育児費用)です。養育費は、離婚後の子の生活費(育児費用)です。
この婚姻費用と養育費の両方を同時に請求することはできません。
なぜなら、離婚前に請求する婚姻費用の中には、子供の生活費分(養育費分)がすでに含まれているからです。
他方で、離婚前に婚姻費用を請求し、離婚後に養育費を請求するという順次の請求は可能です。
離婚が成立すると婚姻費用の分担請求ができなくなるため、離婚が成立した場合、生活費などを請求する側は、請求内容を婚姻費用から養育費へと切り替えることとなります。
参照:婚姻費用と養育費の両方を請求することはできるか。離婚後に切り替える?
参照:どちらが得?離婚をせず婚姻費用を貰うor離婚をして養育費を貰う
婚姻費用分担請求と養育費請求との切り替え
上記のように婚姻費用と養育費とは、同時に請求できません。離婚前は婚姻費用、離婚後は養育費、まずは、こう覚えてください。以下、その切り替えの話をしていきます。
離婚協議における切り替え
概念上は、「離婚前は婚姻費用」「離婚後は養育費」の請求をする、という整理になるのですが、離婚前に貰っていた婚姻費用は、自動的には「養育費」に切り替わりません。
両者は、離婚前時点において、経済的概念上は包摂関係にある一方で、法律上は、離婚前の権利、離婚後の権利として別と扱われるからです。
そのため、離婚に際して、何もしないと、適正な養育費の支払いがなされない可能性も生じえます。
離婚前に婚姻費用を貰っていたとしても、離婚後に養育費のスムーズな支払いを開始するためには、離婚の時までに養育費の金額等につき、協議を整えておくことが重要です。
離婚前に婚姻費用を貰っていたというケースでは、離婚後にしばらくたってから養育費の請求をする、というのでは、養育費請求のタイミングとして時期に遅れる可能性があります。
調停における切り替え
婚姻費用については、夫婦間での話し合いが成立しない場合、家庭裁判所における婚姻費用分担調停という手続にて、協議を行うことが可能です。
また、養育費については、離婚趙手という調停手続にて、離婚に付随して、協議を行うことが可能です。
参照:婚姻費用について
参照:離婚調停の進行と流れ
この二つの手続が両方とも取られるのは、次の二つのケースです。
- 夫婦別居中、離婚は望むが、現在婚姻費用が支払われていない、という場合に「婚姻費用分担調停の申立てと離婚調停の申立てとを並行して行う」ケース
- 夫婦別居中、婚姻費用は受け取りたいが、離婚はまだしたくない、と言う場合に、「婚姻費用分担調停のみ先行して申し立てを行い、一定の別居期間を経て離婚調停の申し立てを行う」ケース
いずれのケースでも、婚姻費用分担調停の申立てにて、離婚前の婚姻費用の請求を行い、離婚調停の手続にて、離婚後の養育費を審理対象に乗せる、という形になります。
上記の各ケースで、離婚調停で離婚が成立する場合、通常、養育費の支払い開始時期は離婚時とされますので、「離婚前の婚姻費用」の支払終期と「離婚後の養育費」の支払始期につき、タイムラグが生じません。
事実上、離婚調停の成立によって、婚姻費用の請求と養育費の請求との切り替えが行われることとなります(※)。
※ 強制執行・差押えなどの執行手続は別論です。