夫婦が離婚した場合に、子供の育児に関してしばしば問題となるのが養育費です。
養育費については、裁判所が標準算定方式という算定ルールにしたがって、「養育費算定表」を公表しています。
今回、この標準算定方式に基づく養育費の計算式・計算方法について解説します。
なお、説明の便宜のため、本稿では、母親が子を養育しており養育費の権利者となるケース(夫が養育費を支払う義務者であるケース)を念頭において説明します。
算定の前提となる基礎収入について
さて、養育費の計算・計算式の解説に入る前に、「基礎収入」という概念を簡単に説明します。
「基礎収入」は、簡単に言うと、父親あるいは母親が「生活のために自分でコントロールできるお金」のことです。
総収入から所定の経費を除いたものとして観念されます。
裁判所の標準算定方式を利用する場合、「基礎収入」は、総収入に一定の割合を乗じて算出します。
参照:婚姻費用・養育費の基礎収入とは?~基礎収入割合と控除経費一覧~
給与所得者の場合の基礎収入
給与所得者の場合、多くの場合、①直近年度の源泉徴収票の「支払金額」の欄あるいは、②所得証明書(課税証明書)記載の所得の種類・金額欄記載の給与収入の金額が総収入として扱われます。
この金額に次の割合を乗じて算出される金額が基礎収入となります。

たとえば、昨年度の源泉徴収票の支払金額が、400万円の場合、特別な事情が無ければ、基礎収入は、400万円に43%を乗じた172万円と認定されます。
参照:婚姻費用・養育費算定表|いつの年収・所得を用いるか(原則と例外)
自営業者の基礎収入について
自営業者の場合は、次の金額が総収入と認定されることが多いです。
①確定申告書記載の「所得金額」-②「(社会保険料控除」の金額+「青色申告特別控除」の額+「(現実に支払がされていない)専従者給与額
参照:婚姻費用・養育費の基礎収入とは?~基礎収入割合と控除経費一覧~
特別な事情が無ければ、上記で算出された金額に次の割合を乗じた金額が、基礎収入となります。

養育費の計算式・方法(監護者側に基礎収入が無いケース)
上記基礎収入の概念を前提に、養育費の計算式を紹介します。
例は少ないかもしれませんが、理解のために、まずは、子供を養育している監護者側(ここでは母と仮定)に基礎収入が無いケースを説明します。
妻に基礎収入が無い場合、夫が子供に支払うべき養育費の計算式は、夫の基礎収入に子供の生活費指数を乗じて算出します。
養育費(年額)=父親の基礎収入×(子供全体の生活費指数/(100+子供全体の生活費指数))
この計算の結果につき、12で割ると、月額の養育費の金額が算出されます。
子供の生活費指数について
標準算定方式においては、子供の生活に要する費用を表す数値として、「生活費指数」という指数が使われます。
14歳以下の子の場合、生活費指数は62、15歳以上の子の生活費指数は85と設定されています。
子供全体の生活費指数
子供全体の生活費指数は、子供ごとの生活費指数の合計値です。
上記にて、養育費の計算方法につき、次の通りと説明しました。
養育費(年額)=(父親の基礎収入)×(子供全体の生活費指数/(100+子供全体の生活費指数))
以下、説明のため、いくつか計算例を示します。
子供が一人、14歳以下という場合
ある家庭において、子供が一人、14歳以下、という場合、計算式は次のようになります。
養育費(年額)=(父親の基礎収入)×((62)/(100+62))
14歳以下の子供が一人なので、単純に62を代入したものですが、仮に子の子が15歳以上であった場合には、「62」ではなく「85」を用います。
14歳以下の子供が二人という場合
では、14歳以下の子供が二人という場合はどうでしょうか。
この場合、計算式は次の通りとなります。
養育費(年額)=(父親の基礎収入)×((62+62)/(100+62+62))
赤マーク、青マークの部分ともに、子供の年齢に応じた生活費指数(ここではいずれも「62」)を、子供の人数に応じて、足していくことになります。
14歳以下の子供が二人、15歳以上の子が一人という場合
最後にもう一つだけ例を挙げます。14歳以下の子供が二人、15歳以上の子が一人という場合についてです。
この場合、計算式は、次の通りとなります。
養育費(年額)=父親の基礎収入×((62+62+85)/(100+62+62+85))
ここでの、子供の年齢に応じた生活費指数を子供の人数に応じて足していくのですが、今回は、15歳以上の子が一人いますので、その生活費指数として、85を足している、ということになります。
計算式の説明
上記の計算で何をしているかという点につき、補足します。
子供に振り分ける部分を算定
上記の計算式は、「父親の基礎収入」につき、子供に振り分ける部分を算定するための計算式です。
((子供全体の生活費指数)/(100+子供全体の生活費指数))」の部分は、父親が仮に子供と暮らしていた場合に、子供に要するであろう割合を計算している部分です。
青マーク部分は、「父親+子供」の生活費全体を示し、赤マーク部分は子供だけの生活費部分を示します。子供だけの生活費部分を「父親+子供」の生活費全体で割ることで、父親が仮に子供と暮らしていた場合に、子供に要するであろう割合を計算しています。
基礎収入を乗ずる
上記にて、基礎収入の内、子供に振り分ける部分が割合として算出されますので、子供の養育費は、ここに基礎収入を乗じて算定します。
それが黄色マーク「父親の基礎収入×」で表記している部分となります。
たとえば、父親の基礎収入200万円、母親基礎収入ゼロ、子供は14歳以下の子一人、15歳以上の子一人という場合、養育費の金額は次のように算定されます。
養育費(年額)=(200万円)×((62+85)/(100+62+85))
養育費の計算式・方法(監護者側に基礎収入が有るケース)
上記では、監護者側に基礎収入がないケースについて説明しましたが、次に、監護者側に基礎収入があるケースにつき、説明をします。
計算式の変化
上記にて、監護者側(本稿では母親側)に基礎収入が無いケースの計算式につき、次のとおり説明しました。
養育費(年額)=(父親の基礎収入)×((子供全体の生活費指数)/(100+子供全体の生活費指数))
もっとも、仮に、母に基礎収入が有る場合、母も子供を養育するための育児費用を負担する義務を負います(なお、特別な場合を除けば、母にも何らかの基礎収入が有ると認定されるケースの方が多いと思われます。)
こうしたケースでは、「父親が育児費用の100%を負担すべき」とはされず、母親も育児費用の一部を負担すべきとされます。そのため、「父親が負担すべき割合はどの程度なのか」という要素を計算式に反映させなければなりません。
そこで、上記計算式を次のように変化させます。
養育費(年額)=
父親の基礎収入×((子供全体の生活費指数)/(100+子供全体の生活費指数))
×(父親の負担すべき割合)
「父親が支払うべき養育費年額」につき、父親が負担すべき割合を乗じる形で計算式を変化させるのです。
父親の負担すべき割合
上記父親の負担すべき割合、父親側と母親側との基礎収入の比率で決定されます。
父母双方に子供を養育する義務があるとの前提に立ち、双方の基礎収入に応じて父親が負担すべき割合を定めるのです。
これを計算式で表すと、「父親の基礎収入/(父親の基礎収入+母親の基礎収入)となりますので、養育費の計算式にて展開すると、妻にも基礎収入が有る場合の養育費年額は次の式で計算されます。
養育費(年額)=
父親の基礎収入×((子供全体の生活費指数)/(100+子供全体の生活費指数))
×((父親の基礎収入)/(父親の基礎収入+母親の基礎収入))
具体例
以下、いくつか具体例を見てみましょう。過程として、父親の基礎収入を200万円、母親の基礎収入を100万円とします。
14歳以下の子供一人の場合
14歳以下の子供一人の場合、計算式は次の通りとなります。
養育費(年額)=
(200万円)×((62)/(100+62))
×((200万円)/(200万円+100万円))
14歳以下の子供2人の場合
14歳以下の子供2人の場合、計算式は次の通りとなります。
養育費(年額)=
(200万円)×((62+62)/(100+62+62))
×((200万円)/(200万円+100万円))
14歳以下の子供2人、15歳以上の子一人の場合
14歳以下の子供2人、15歳以上の子一人の場合、計算式は次の通りとなります。
養育費(年額)=
(200万円)×((62+62+85)/(100+62+62+85))
×(200万円/(200万円+100万円))
養育費の計算~応用編~
上記の標準算定方式を利用して、応用的な問題につき、説明をします。次の3点です。
- 子供が4人以上いる場合の計算方法
- 夫と妻いずれもが子を監護している場合の計算方法
子供が4人以上いる場合の計算方法
裁判所が公表している養育費算定表は、子供が3人までのものしか準備されていませんが、上記算定方式に従えば、子供が4人以上いる場合でも、養育費の算定が可能です。
計算式において、父親の基礎収入につき、子供に振り分けるべき割合を計算する部分(赤マーカー部分と青マーカー部分)につき、14歳以下の子一人を62、15歳以上の子を85として、付け加えていけばよいのです。
養育費:子供が4人、うち3人が14歳以下、一人が15歳以上という場合
たとえば、子供が4人、うち3人が14歳以下、一人が15歳以上という場合の養育費の計算式は次のとおりとなります。
養育費(年額)=
(父親の基礎収入)×((62+62+62+85)/(100+62+62+62+85))
×((父親の基礎収入/(父親の基礎収入+母親の基礎収入))
子供が4人、うち二人が14歳以下、二人が15歳以上という場合
また、子供が4人、うち二人が14歳以下、二人が15歳以上という場合、養育費の計算式は次のようになります。
養育費(年額)=
(父親の基礎収入)×((62+62+85+85)/(100+62+62+85+85))
×((父親の基礎収入/(父親の基礎収入+母親の基礎収入))
義務者も監護しているケース
また、、母親が監護している子が、監護を要する子の一部であるという場合(義務者側も子を監護している場合)、「母親が全員を監護しているケース」の計算式に修正を加えることで妻に支払うべき養育費の額を算出します。
【修正前】~母親が全員を監護しているケース~
まず、母親が、子全員を監護しているケースにおける計算式は次の通りとなります(上述)
養育費(年額)=
(父親の基礎収入)×((子供全体の生活費指数)/(100+子供全体の生活費指数))
×((父親の基礎収入)/(父親の基礎収入+母親の基礎収入))
【修正後】~母親が子の一部のみを監護している場合~
義務者も子を監護しているというケースでは、次の式に示すとおり、上記計算式に「母親が監護している子のみに振り分ける割合」を乗じる形で、計算式を修正をします。これにより、母が監護している子のみの養育費の金額を計算します。
養育費(年額)=
(父親の基礎収入)×((子供全体の生活費指数)/(100+子供全体の生活費指数))
×((父親の基礎収入)/(父親の基礎収入+母親の基礎収入))
×((母が養育している子のみの生活費指数)/(子供全体の生活費指数))
具体例
たとえば、母親が、14歳以下の子一人を監護し、父親がほかの二人(14歳以下一人、15歳以上一人)を監護している、というケースにおける計算式は、次のようになります。
養育費(年額)=
(父親の基礎収入)×((62+62+85)/(100+62+62+85))
×(父親の基礎収入)/(父親の基礎収入+母親の基礎収入)))
×((62)/(62+62+62))
参照;婚姻費用・養育費算定表|「一人当たりの金額」の算定・速算方法
まとめ
本稿では、標準算定方式による婚姻費用の算定方法を紹介しました。
この方法だと、算定表では補足し来れない子供4人のケースや義務者間監護のケース等においても、養育費を算定できるメリットがあります。
ただ、実際の養育費の算定に際しては、実際の調停や審判では、基礎収入の認定やその他の特別な事情をめぐって、争点が生じることも少なくありません。
そのため、具体的な婚費の請求については、弁護士に相談されることをお勧めします。