婚姻費用・養育費の基礎収入とは?~基礎収入割合と控除経費一覧~

今回は、婚姻費用・養育費の基礎収入と新算定表の基礎収入割合についてです。

基礎収入とは

婚姻費用・養育費の基礎収入とは、総収入から、収入の多寡に応じて通常必要となる➀公租公課、➁職業費、➂特別経費の3つを控除したものです。平たく言えば、収入の内、通常必要となるであろう費用を控除した残額であり、夫または妻が、生活のためにその使い道につき、コントロールできるお金、ということになります。

なお、ここでいう➀公租公課、➁職業費、➂特別経費には、以下の費用が含まれていますが、その金額は、統計資料に基づく「平均的・水準的な費用」が用いられていますので、個々の家庭の実情等と乖離するケースもあります。

公租公課職業費特別経費
  • 所得税
  • 住民税
  • 復興等特別税
  • 社会保険料
  • 被服費及び履物
  • 交通費
  • 通信費
  • 書籍・他の印刷費
  • 諸雑費
  • 小遣い
  • 交際費
  • 住居関係費
  • 保険医療費
  • 保険掛金

 

給与所得者の基礎収入割合

上記のとおり、基礎収入は、総収入から、収入の多寡に応じて通常必要となる➀公租公課、➁職業費、➂特別経費の3つを控除したものであり、各費用については、その収入の多寡に応じた平均的・水準的な金額を計算に用います。

そのため、収入の多寡に応じて、基礎収入がどの程度になるのかが、個別の事情の考慮無くして計算できます。これが基礎収入割合です。

令和元年度裁判所標準算定方式を前提に、給与所得者の基礎収入割合を一覧にすると、基礎収入割合は次のとおりとなります。

たとえば、給与所得者の給与所得(総収入)が1000万円であるとするなら、その基礎収入は、1000万円×40%の400万円となります。

 

自営業者の基礎収入割合

自営業者の基礎収入割合も、収入の多寡に応じて、個別の事情の考慮無くして計算できます。後期のとおりです。

なお、自営業者の総収入については、確定申告書の「課税される所得金額」を用います。そして、この「課税される所得金額」は、その計算の段階で、すでに必要経費及び社会保険料が控除されています。

そのため、基礎収入を算定する段階では、総収入から、所得税・住民税・特別経費のみが控除されることとなり、給与所得者と比較して、基礎収入割合が高くなります。

基礎収入算定に際して控除される費用

上記にて、基礎収入は、収入から、収入の多寡に応じて通常必要となる➀公租公課、➁職業費、➂特別経費の3つを控除したものと説明しました。ぞの計算の結果が上記の基礎収入割合です。

以下、それぞれ、控除の対象となった経費の内容を簡単に説明します。これらの費用は、簡易迅速に判断をするための理論値であって、個々の家庭・実際の家庭における支出と数字が異なります。

標準算定方式は、簡易・迅速判断の為、いわば「合理的フィクション」を設定し、これにより基礎収入を導出し、婚費や養育費を算定する方式と捉えていただくのがいいかもしれません。

公租公課

公租公課は、所得税、住民税、復興等特別税、社会保険料を指します。その金額は、税法などによる所定の率によって、収入に応じた控除率が設定されています。

概して、高額所得者の方が、総収入に占める公租公課の割合は大きくなります。その割合幅は、おおむね8%~35%とされます。

なお、基礎収入の算定に際して、理論的な額ではなく、実額にて所得税、住民税、復興等特別税、社会保険料を控除すべき、との意見もありえますが、審理の簡易迅速性が損なわれるとの理由から、実学を用いるべきとの主張につき、家庭裁判所の理解を得るのは難しいところです。

職業費

職業費は、「就労のために必要な経費」です。中には「こづかい」との項目もありますが、これの実質的な意味合いは、「使途が分からない、特定できない費用」を指すと説明されます。

職業費の金額については、平成25年~平成29年の家計調査年表の平均値が用いられています。次の表を見てもらえれば分かりますが、実収入との関係において、職業費の割合は、必ずしも反比例はしていません。

 

養育費、婚姻費用の算定に関する実証的研究 法曹会 令和元年12月23日 第1版 28頁より引用

職業費につき、たとえば、仕事のための「交通費」「通信費」につき、上記表中の金額よりも大きな費用がかかる、ということもあり得るところではあります。他方で、上記の項目の中には、私的な利用部分も含まれている、との指摘もあたりうるところです。

ここにいう職業費は、個々の家庭において、「統計値」を用いること自体を良し、とする判断のもとに、採用された項目・数字であり、家庭裁判所は、個々の家庭における実際の数値とこの統計値とが異なることは、承知の上で、婚姻費用や養育費を算定しています。

そこには、実数値を用いることよりも、簡易迅速に結論を得るべき、との価値判断が働いています。

特別経費

特別経費というのは、住居関係費、保険医療費、保険掛金です。継続的就労・生活の維持に必要な費用として、基礎収入算定に際して、総収入から除外されます。

ここにいう住居関係費・保険医療費・保険掛金も、実支出額ではなく、統計値が用いられます。実支出額を用いる方が、「家庭において自由になるお金」を把握しやすい、という批判はありえますが、やはり、簡易迅速性の観点から、標準算定方式は、統計値を用いて、基礎収入を算定することとしています。

なお、特別経費についても、実収入との関係では、必ずしも費用割合は反比例はしていません。

養育費、婚姻費用の算定に関する実証的研究 法曹会 令和元年12月23日 第1版 31頁より引用

基礎収入の概念や内容を理解することの意味

最後に、基礎収入の概念や内容を理解することの意味についてです。

経費などにつき実額を主張しても、家庭裁判所の判断は簡単には変わらない

本稿では、基礎収入の意味や、総収入から控除される費用等につき解説をしました。また、控除される費用については、統計値が用いられており、実際の家庭における支出とは数字が異なる、とも解説しました。

標準算定方式は、実際の数字とは異なることを前提とした上で、なお、簡易・迅速判断の為、統計値を用いて婚費・養育費を算出するほうが望ましい、との価値判断に基づくものです。

そのため、経費などにつき「実額」を主張しても、家庭裁判所の判断は、簡単には変わりません。

簡易・迅速判断を優先する、という価値判断自体に重きが置かれているからです。

但し、「特別事情」があれば変わり得る

もっとも、個々の事案において、「個別の事情」が全く考慮されないかというとそうでもありません。

「簡易・迅速に判断する」というメリットを脇においてでもなお斟酌しなければ、著しい不公平が生じる、といった「特別事情」がある場合、当該事情は、審理対象に含まれ、婚費や養育費の金額に影響を及ぼしえます。

このことは、養育費、婚姻費用の算定に関する実証的研究 法曹会 第1版50頁でも言及されています。

総収入を前提に、標準算定表を使えば、婚姻費用や養育費の目安はすぐに分かります。

参考:婚姻費用・養育費の基礎となる総収入とは?算定表における「年収」について

ただ、この「特別事情」が有るか無いか、有るとした場合にどの程度の金額是正が必要となるかは、算定表を見ていても答えはでてきません。また、給与所得や、事業所得以外の所得については、算定表に一切記載がありません。

「基礎収入の概念」や「控除される費用の項目・金額・内容」を理解しておくことで、ある事情が、「特別事情」と言えるのか、あるいは、その事情は既に算定方式にて斟酌済みであり、特別事情とは言えないのか、他の所得がある場合にこれをどう扱えばいいのか、といった点を検討していくことが可能となるのです。

ここに、基礎収入の概念や内容を理解することの意味があります。

>北九州の弁護士ならひびき法律事務所へ

北九州の弁護士ならひびき法律事務所へ

CTR IMG