不貞の慰謝料請求とその相場・金額について

今回は、不貞の慰謝料を請求する手続と、その金額・相場について解説します。

不貞行為について

浮気・不貞行為は、慰謝料の発生原因です。不貞行為とは、自由な意思に基づいて、第三者と肉体関係を持つことを言います。

不貞は、夫婦間においては、貞操義務に違反する行為に該当します。また、相手方との関係では、夫婦の一方の貞操権の侵害との評価を受けます。

その結果、浮気をされた配偶者の一方は、もう一方の配偶者及び浮気相手に対して、慰謝料、すなわち精神的苦痛を慰謝するための賠償金を請求することができます。

これに対して、配偶者や浮気相手等からは、たとえば「婚姻関係破綻の抗弁」など、その責任を争う主張が為されうる他、責任を認める場合でも、その金額が争われるのが常です。

以上の点につき詳細はこちらをご参照ください。

 

不貞の慰謝料の請求手続

不貞の慰謝料の請求は、話し合いでこれを行っても構いません。話し合いでの解決を図る場合には、しばしば示談書や誓約書が作成されます。

参照:不貞の慰謝料の示談書や誓約書の文例・テンプレート

他方で、話し合いで解決しない場合、一般的な請求手続は次のとおりとなります。

請求手続

  • 配偶者に対して⇒離婚手続(離婚調停・離婚訴訟)に付随して請求又は民事訴訟において請求
  • 浮気相手に対して⇒民事訴訟において請求

民事訴訟とは

離婚慰謝料は、離婚前であれば、配偶者に対しては、離婚調停や離婚訴訟に付随して請求を行うことが可能です。

他方で、配偶者との離婚後にこれを請求する場合には、民事訴訟手続によることになります。

また、浮気相手に対する関係では、話し合いで解決する場合は別として、そうでなければ民事訴訟によるのが一般的です。

民事訴訟手続は、平たく言えば、個人間の権利義務に関係に請求を行う訴訟手続です。

不貞行為の慰謝料請求は、通常は地方裁判所に係属し、訴えの提起⇒審理⇒和解又は判決という流れで、結論を得ます。

なお、不貞の事実が認められた場合でも、一定の期間内に慰謝料請求をしないと、以後できなくなってしまうという仕組みもあります。留意が必要です(請求期限について詳しくはこちら)。

 

慰謝料の金額・相場(離婚した場合/しない場合)

不貞慰謝料の金額相場は、一般に次のように説明されます。

一般に目安とされる金額

  • 不貞行為が原因で離婚・夫婦関係が破綻した場合
    100万円~300万円程度
  • 不貞行為があったものの、夫婦関係は破綻せず離婚しない場合
    50万円~100万円程度

判例/裁判例の紹介

もっとも、上記の相場は、あくまで目安でしかありません。実際の慰謝料がどの程度となるのかは、その他諸般の事情が考慮されます。

したがって、実際の判断に際しては、生の事例を基に推定していくしかありません。

実際の慰謝料の算定に際しては、たとえば、次のような要素が斟酌されます。

以下、いくつか判例/裁判例を紹介します。

東京地方裁判所令和4年8月31日判決

【判示内容】
前記前提事実及び認定事実によれば、原告夫婦は、結婚して以来12年間にわたり婚姻生活を継続していたところ、Aが被告と不貞行為に及んで原告と別居するに至ったことにより、原告夫婦の婚姻関係は破綻し、その修復は困難な状態に至っていることが認められる。また、原告夫婦にはBという未成熟子がいること、被告はAとの間に子をもうけていること、Aと被告はBが通う小学校の行事に連れ立って参加していたことも認められ、被告の不貞行為が原告に与えた精神的苦痛は大きい。

他方で、原告夫婦の関係は、被告との不貞が問題になる前から、Aが朝帰りを繰り返してスナックのママとの浮気を認めるなど、やや円満を欠く部分があったことは否定できない。

以上に加え、本件訴訟に顕れた一切の事情を考慮すると、被告の不貞行為により原告に生じた精神的損害に対する慰謝料は200万円とすることが相当である。

この裁判例では、婚姻期間が長かったこと、不貞が原因で別居・破綻に至ったこと、未成熟子がいること、不貞相手に子が生まれたこと等が慰謝料の増額要素として考慮され、他方で、不貞前から、夫婦仲がやや円満を書く状態あったことが、慰謝料減額の要素として考慮されています。

東京地方裁判所令和4年7月20日判決

【判示内容】
被告とAが2人で会ったのは平成30年8月7日から同月30日までの4回、期間にして1か月弱であり、比較的短期間といえること、証拠上認定することができる同人らの性交渉の機会は一度だけであることからすると、被告の不貞行為を重く評価することは相当ではない。また、平成30年8月7日、最初に2人で会うことを提案したのはAからであって、被告からAに対して積極的に交際を求めたと評価できる事情は認められないことからすると、被告の責任の程度もAと比較して大きいとはいえない。

他方、上記(1)のとおり、原告とAとの婚姻関係は被告とAとの不貞行為を契機として不安定なものとなり、修復に至らないまま破綻するに至っていることからすると、婚姻関係の破綻に対する被告の責任は相当程度重いといえる。これらの事情に加えて、不貞行為発覚後、被告が原告に対して直接謝罪し、慰謝料支払の意思を示していたことなどの事情も総合考慮すれば、被告の負担すべき慰謝料額を100万円とするのが相当である。

この事案では、夫婦関係が破綻したことが慰謝料増額の要素として評価されている一方で、交際期間の短さ、不貞の回数が1回しかないこと、不貞発覚後に謝罪意思・慰謝料の支払い意思がしめされていたことが、慰謝料の減額要素として機能しています。

東京地方裁判所地判令和4年7月14日判決

【判示内容】
原告とAとの婚姻関係は、本件不貞行為が始まった平成28年4月当時、既に破綻していたと断定することはできないものの、上記2(2)の事情を総合すれば、原告とAとの婚姻関係は、本件不貞行為が始まった平成28年4月時点で、破綻に近い状態であったと推認される。そして、既に認定してきた事実を総合すれば、原告とAとの婚姻関係は、本件不貞行為及びそれによってAが妊娠したことによって完全に破綻したと認められる。

上記の原告とAの婚姻関係が破綻した経緯のほか、原告とAの婚姻期間、本件不貞行為の期間及び回数、本件不貞行為によってAが妊娠・出産したことなど本件に顕れた一切の事情を勘案すれば、本件不貞行為による原告の慰謝料額は50万円、本件不貞行為と相当因果関係のある弁護士費用は5万円と認めるのが相当である。

この事案では、不貞行為の時点で既に夫婦関係が破綻に近い状態であったことが慰謝料減額の要素として評価されています。

東京地方裁判所令和4年6月13日判決

【判示内容】
以上認定したところによれば、被告は、Aが既婚者であることを知りながら、Aと約1年4か月にわたって不貞関係にあったものと認められるから、原告に対して不法行為責任を負うことが明らかである。その上で、被告とAとの間の不貞行為が開始した当時、原告とAとの間の婚姻期間は既に5年以上に及んでおり、その間には当時3歳という幼い子がいたこと、被告とAとの間の不貞関係は約1年4か月にわたっており、その間、Aは被告との間の子を妊娠し、中絶をするに至ったこと、被告とAとの間の不貞行為によって、原告とAとの間の約6年8か月にわたる婚姻関係は破綻し、離婚をするに至ったこと、その他本件に顕れた一切の事情を考慮すれば、被告とAとの間の不貞行為により原告が被った精神的苦痛を慰謝するに足りる慰謝料の額は、180万円と認めるのが相当である。

この事案では、婚姻期間が5年に及んでいたこと、不貞期間が1年4カ月に渡っていたこと、配偶者が妊娠したことを慰謝料増額の要素として評価しています。

 

慰謝料額の算定の考慮要素

上記のように、実際の裁判では、不貞によって離婚した/離婚していないという事情だけではなく、諸々の事情が考慮されて慰謝料が算定されています。

最後は裁判官の裁量ですが、各種事案を見て抽出すれば、その判断に際しては、次のような事情が斟酌されることが多くなっています。

  • 交際期間・不貞の頻度
  • 交際期間における夫婦の関係が良好だったか
  • 婚姻期間の長短
  • 別居機関の長短
  • 未成年の子供の有無
  • 浮気相手の妊娠・出産の事実
  • 不貞発覚後の経緯(不貞を行った配偶者や相手方の反省・謝罪などの有無)
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