不貞行為に関する慰謝料請求の時効とその起算点

不貞行為を原因とする慰謝料請求については、期限があります。法律上は「消滅時効」と呼ばれているものです。

この消滅時効についてですが、不貞・浮気の場合、配偶者に対して請求をするのか、浮気相手に対して請求をするのか、で区別して理解するのが便宜です。

浮気相手に対する請求と時効

浮気相手に慰謝料請求をする場合の時効は、二つです。この二つのどちらかが到来した場合、時効が消滅し、事実上、浮気相手に慰謝料を請求できなくなります。

  1. 不貞行為及び浮気相手を知った時から3年
  2. 不貞行為の時から20年

3年の起算点は不貞行為及び浮気相手を知った時から

従前、不貞行為があったものの、3年以上もの間離婚が成立していなかったという事案において(不貞行為・加害者を知ってから3年は経過)、被害者が離婚成立後に配偶者と浮気相手を訴えた事案に関しては、見解が分かれていました。

現在は、最高裁は、後述のように判示し、原則としてこれを否定しています。

したがって、基本的には、被害者が浮気及び浮気相手を知った時から3年がたてば、離婚が成立していまいが、離婚が成立していようが、時効により、原則として、浮気相手に対する慰謝料請求はできない、という結論になります。

【最高裁平成31年2月19日判決】
夫婦の一方と不貞行為に及んだ第三者は、これにより当該夫婦の婚姻関係が破綻して離婚するに至ったとしても、当該夫婦の他方に対し、不貞行為を理由とする不法行為責任を負うべき場合があることはともかくとして、直ちに、当該夫婦を離婚させたことを理由とする不法行為責任を負うことはないと解される。

第三者がそのことを理由とする不法行為責任を負うのは、当該第三者が、単に夫婦 の一方との間で不貞行為に及ぶにとどまらず、当該夫婦を離婚させることを意図してその婚姻関係に対する不当な干渉をするなどして当該夫婦を離婚のやむなきに至 らしめたものと評価すべき特段の事情があるときに限られるというべきである。

同棲している場合の起算点

浮気相手が配偶者と同棲している場合はどうでしょうか。

この点、同棲が続いている間は、時効期間は進行しない、という考え方もありえますが、最高裁は、やはり、不貞行為(ここでは同棲)及び加害者を知った時から、と判断しています。

【最高裁平成6年1月20日判決】
夫婦の一方の配偶者が他方の配偶者と第三者との同せいにより第三者に対して取得する慰謝料請求権については、一方の配偶者が右の同せい関係を知った時から、それまでの間の慰謝料請求権の消滅時効が進行すると解するのが相当である。

けだし、右の場合に一方の配偶者が被る精神的苦痛は、同せい関係が解消されるまでの間、これを不可分一体のものとして把握しなければならないものではなく、一方の配偶者は、同せい関係を知った時点で、第三者に慰謝料の支払を求めることを妨げられるものではないからである。

 

配偶者との関係

配偶者との関係において、時効は、不貞行為のときから20年の経過をもって完成しますが、3年の時効については、事実上、次のように整理されます。

「不貞行為を知った時から3年」していても、「離婚時から3年」が経過していなければ、事実上、慰謝料請求をすることが可能

3年の起算点について

民法の規定では、3年の時効期間の起算点は、「加害行為及び加害者を知った時」とされています。

しかし、実務上は、配偶者との関係においては、離婚に際してはその原因となった行為(ここでは不貞行為)に対する慰謝料(離婚原因慰謝料)のほか、「離婚慰謝料」の請求という離婚させたこと自体を理由とする請求が認められています。

そして、実務的には、離婚自体の慰謝料請求に際して、離婚原因が斟酌されます。

そのため、不貞が原因で離婚に至った場合、「不貞行為を知った時から3年」が経過していても、「離婚時から3年」が経過していなければ、事実上、慰謝料請求をすることが可能です。

民法159条について

なお、講学的な話となってしまいますが、離婚原因慰謝料についても、「夫婦の一方が他の一方に対して有する権利については、婚姻の解消の時から6箇月を経過するまでの間は、時効は、完成しない。」という規定がありますので、離婚前に時効で消えることはありません。

消滅時効に対する対抗策

不貞行為の場面で、被害者に、時効進行をとめるための手段として考えられるのは、主として次の二つです。これは、配偶者・浮気相手双方に対する対抗策として共通です。

  1. 裁判上の請求をする(訴えを起こす)。
  2. 配偶者や浮気相手に損害賠償義務があることを承認させる。

被害者は、この二つの手続をとることで、時効の進行を止めることが可能です(なお、裁判上の請求(訴訟提起)の場合、判決を得れば、時効期間は10年となります)。

なお、上記とは別に、「催告」という手段(裁判外での慰謝料請求)もありますが、これは6カ月間、時効の完成が一時的に猶予されるにすぎず、時効期間の進行を確定的にとめるためには、別途、上記の手段をとることが必要です。

実務的には、催告は、一旦裁判外で請求をしておいて(内容証明郵便を用いることが多い)、一旦猶予を得た上で、その後、半年以内に訴訟提起を行う、という形で利用されることが多くなっています。

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