夫婦が別居した場合、夫と妻の生活の原資となる給料などの所得をどう分け合うか、が問題となることがあります。
これは主として、「婚姻費用」の分担という形で問題となります。この婚姻費用の金額をどう決めるか、という点につき、裁判所は、標準算定方式という算定方法を採用しています。
今回は、標準算定方式に基づく婚姻費用の計算式・計算方法を解説します。なお、本稿では、説明の便宜のため、夫が婚姻費用を払うべき義務者であると仮定して説明をします。
前提となる基礎収入
さて、冒頭から、計算式の説明に入りたいところですが、その前に理解しておくべきことがあります。
それは、「基礎収入」という概念です。総収入から所定の経費を除いたものとして観念され、通常は、総収入に一定の割合を乗じて算出します。
概して、所得全体から一定の経費を控除したあとの「生活のためのコントロールできるお金」のことを指すとイメージしてください。
参照:婚姻費用・養育費の基礎収入とは?~基礎収入割合と控除経費一覧~
給与所得の基礎収入について
給与所得者の場合、多くのケースで、直近年度の源泉徴収票の「支払金額」の欄記載の金額などが総収入として認定されます。この源泉徴収票記載の支払金額につき、次の割合を乗じて算出される金額が基礎収入となります。
たとえば、昨年度の源泉徴収票の支払金額が、550万円という場合、特別な事情が無ければ、基礎収入は、550万円に42%を乗じた231万円と認定されます。
参照:婚姻費用・養育費算定表|いつの年収・所得を用いるか(原則と例外)
自営業者の基礎収入について
自営業者の場合は、確定申告書記載の「所得金額」から「(社会保険料控除」の金額を引き、そこに、「青色申告特別控除」の額と「(現実に支払がされていない)専従者給与額の加算した合計額が、総収入と認定されることが多いです。
参照:婚姻費用・養育費の基礎収入とは?~基礎収入割合と控除経費一覧~
特別な事情が無い場合、上記にて算出される金額に次の割合を乗じた金額が基礎収入となります。
婚姻費用の計算式・方法(子供がいないケース)
上記基礎収入の概念を前提に、婚姻費用の計算式を紹介します。
まず、子供がいないケースについてです。
夫から妻に対して、婚姻費用を支払う場合の計算式は次の通りとなります(子供がいないケース)
婚費(年額)=(夫の基礎収入+妻の基礎収入)×(100/200)-(妻の基礎収入)
この計算の結果につき、12で割ると、月額の婚姻費用の金額が算出されます。
計算式の説明
この計算で何をしているかという点につき、補足します。
基礎収入の合計値
上記の計算式では、まず、前段部分の「夫の基礎収入+妻の基礎収入」の部分で、「夫と妻の収入のうち、コントロール可能な収入」=夫婦の基礎収入合計値を出しています。
妻の取得割合
「×(100/200)」の部分は、夫と妻とで、夫婦の基礎収入合計値の「半分」つまり妻の取り分を計算している部分です。
つまり、夫婦はともに対等であり、基礎収入につき、大人一人を100とした場合の200分の100を妻が取得する、ということを表す計算式です。
ちなみに、子供がいる場合、この「×(100/200)」の部分が変化します(後述。その計算のために、ここでは単に2分の1とせず、200分の100としています。)。
妻への支払分
上記までの「(夫の基礎収入+妻の基礎収入×100/200)」の計算で、「世帯の基礎収入の半分」の金額が算出されています。
ここで計算された金額から、妻が自分で稼いできた基礎収入を差し引きます。これにより、夫から妻に渡すべき金額を算出します。「-(妻の基礎収入)」の部分がこの計算に該当する部分です。
子供がいないケースの具体例
上記につき、具体例で説明をします。
なお、冒頭述べた通り、婚姻費用算定のため、基礎収入は、冒頭の「総収入×基礎収入割合」により計算して算出しますが、ここでは、その結果として、夫の基礎収入が300万円、妻の基礎収入が100万円という計算結果がでたと仮定して説明をします(子供無しのケース)。
上記のケースで婚姻費用の計算をすると、次のようになります。
(夫の基礎収入300万円+妻の基礎収入100万円)×(100/200)-妻の基礎収入100万円=100万円
上記計算結果により、このケースでは、夫は妻に対して、年間100万円(月々にして8万3333円ずつ)を支払うという結論になります。
なお、理解のキーとしては、基礎収入300万円の夫が100万円を妻に渡すことで、夫と妻の基礎収入値が、それぞれ200万円ずつとなり、対当となる、という点です。
婚姻費用の計算(子供がいるケース)
次に、夫婦の間に子供がいるケースにつき、婚姻費用の算定式を説明します。説明の便宜のため、ここでは、妻が子全員を監護していることを前提とします。
子供の生活費分を考慮して計算をする。
上記にて、子供がいないケースで婚姻費用は次のように計算すると説明しました。
(夫の基礎収入+妻の基礎収入)×(100/200)-妻の基礎収入=年間の婚姻費用
子供がいるケースでは、この計算式中、「×(100/200)」の部分が変化します。抽象的には次の通りの式で表せます。
婚費(年額)=(夫の基礎収入+妻の基礎収入)×(100+子供の生活費分/200+子供の生活費分)-妻の基礎収入
子供の生活費分について
子供がいないケースでは、「×(100/200)」の部分で、妻の取り分を表していたのですが、子供がいて、妻が監護しているという場合、両辺(≒100の部分と200の部分)について子供の生活費分を足します。
左辺(赤マーカー部分)は子供の生活費分を含めた妻側の生活費分を、右辺(青マーカー部分)は、家族全体の生活費分を表す部分となります。
ここで足すべき数字は、14歳以下の子一人につき「62」、15歳以上の子一人につき、85です。これは、子供の生活費指数として、裁判所が設定している数字と理解していください。
計算式(子供の生活費を加算して計算)
たとえば、妻が14歳以下の子一人、15歳以上の子一人を監護している場合の計算式は次の通りです。
婚費年額=(夫の基礎収入+妻の基礎収入)×((100+62+85)/(200+(62+85))-妻の基礎収入
この計算式で何をしているかというと、子供がいない場合と同様、まず、夫婦の基礎収入合計値(夫の基礎収入+妻の基礎収入)を算出しています。
ここに「×((100+62+85)」の部分で、「妻の生活費(100)、14歳以下の子の生活費(62)と15歳以上の子の生活費(85)」を乗じ、さらにその計算結果につき、「/(200+(62+85)」の部分で、夫の生活費を含む家族全体の生活費(200(夫と妻分)+62(子供)+85(子供))で割って、全体の生活費の中における妻側の取り分を算出しています。
ここから、妻が自分で稼いできた基礎収入を差し引き(「-妻の基礎収入」の部分)、夫から妻に渡すべき金額(年間)を算出します。
計算式のパターン(子1人~3人まで)
上記では、妻が14歳以下の子一人、15歳以上の子一人を監護している場合の計算式を示しましたが、ルール自体は「監護している子の生活費分を足す」という点で共通です。
ここで、裁判所が算定表を公表している子供1人から3人までのケースの婚費計算のパターンを示すと、次のとおりとなります。
たとえば、子供が二人、ともに15歳以上の場合において、夫の基礎収入を300万円、妻の基礎収入を100万円とする場合、年間の婚姻費用の金額は次のとおりとなります。
(夫の基礎収入300万円+妻の基礎収入100万円)×((100+85+85)/(200+85+85))-妻の基礎収入100万円=191万8918円(≒月額約16万円)
婚姻費用の計算~応用編~
上記の標準算定方式を利用して、応用的な問題につき、説明をします。次の3点です。
- 子供が4人以上いる場合の計算方法
- 夫と妻いずれもが子を監護している場合の計算方法
- 義務者が子を監護している場合の計算方法
子供が4人以上いる場合の計算方法
裁判所が公表している婚姻費用算定表は、子供が3人までのものしか準備されていませんが、上記算定方式に従えば、子供が4人以上いる場合でも、婚費の算定が可能です。
計算式において、妻側の取り分を計算する部分(赤マーカー部分と青マーカー部分)につき、14歳以下の子一人を62、15歳以上の子を85として、付け加えていけばよいのです。
子供が4人、うち3人が14歳以下、一人が15歳以上という場合
たとえば、子供が4人、うち3人が14歳以下、一人が15歳以上という場合の計算式は次のとおりとなります。
婚費(年額)=(夫の基礎収入+妻の基礎収入)×((100+62+62+62+85)/(200+62+62+62+85))-妻の基礎収入
子供が4人、うち二人が14歳以下、二人が15歳以上という場合
また、子供が4人、うち二人が14歳以下、二人が15歳以上という場合は、次のようになります。
年間婚姻費用の額=(夫の基礎収入+妻の基礎収入)×((100+62+62+85+85)/(200+62+62+85+85))-妻の基礎収入
夫と妻いずれもが子を監護している場合の計算方法
夫と妻いずれもが子を監護している場合、妻側の取り分を計算する部分(赤マーカー部分)の左辺につき、「妻と妻が監護している子供の分」のみを代入します。
【修正前】
たとえば、夫婦の間に子供が二人いて、一人が14歳以下、一人が15歳以上、というケースにおいて、全員を妻が監護している場合、計算式は次の通りでした。
婚費(年額)=(夫の基礎収入+妻の基礎収入)×((100+62+85)/(200+62+85))-妻の基礎収入
【修正後】
このうち、たとえば、14歳以下の子のみを妻が監護している、というケースでは、妻の取り分を計算する赤マーカー部分につき、妻の生活費と妻が監護している14歳以下の子の生活費分(65)のみ計算式で考慮します。右辺は、家族全体を示す部分ですので、変更有りません。
その計算式は次の通りとなります。
婚費(年額)=(夫の基礎収入+妻の基礎収入)×((100+62)/(200+62+85))-妻の基礎収入
義務者が子を監護している場合
最後に義務者が子を監護している場合についても説明をします。
この場合、妻の取り分を計算する部分の左辺につき、妻の取り分である100のみ代入をします。妻側に振り分けるべき生活費を示す部分である赤マーカー部分から子供の生活費分を除くわけです。
たとえば、たとえば、夫婦の間に14歳以下の子が一人だけいるというケースで、妻が子を監護しておらず、夫が子を監護しているというケースでは、計算式は次の通りとなります。
婚費(年額)=(夫の基礎収入+妻の基礎収入)×((100)/(200+62))
まとめ
本稿では、標準算定方式による婚姻費用の算定方法を紹介しました。
この方法だと算定表では補足し来れない5000円以下の婚費額も算定できます。また、義務者も子を監護しているといった事情があっても、婚費を算定できる点にメリットがあります。
ただ、婚費の金額決定に際しては、実際の調停や審判では、基礎年収の認定や住宅ローンの支払い状況、その他の特別事情なども考慮され得ます。
そのため、具体的な婚費の請求については、弁護士に相談されることをお勧めします。