今回は、婚姻費用や養育費の基礎となる総収入についてです。これは、算定表における縦軸・横軸の「年収」としても利用されます。
なお、年収と基礎収入の概念の違いや、本稿で登場する基礎収入割合の考え方については、次のページをご参照ください。
参照:婚姻費用・養育費の基礎収入とは?~基礎収入割合と控除経費一覧~
総収入を基礎とする
婚姻費用や養育費の算定に際しては、夫及び妻の1年間の総収入を基礎とします。
通常は、直近年度の収入が「総収入」を認定するための数字として利用されます。
参照:婚姻費用・養育費算定表|いつの年収・所得を用いるか(原則と例外)
給与所得者の場合
給与所得者の場合は、公租公課など控除される前の給与所得が対象です。
認定資料
源泉徴収票や所得証明書(課税証明書)が総収入を認定するための資料となります。
【給与所得の総収入】
- 源泉徴収票⇛「支払金額」の欄記載の金額
- 所得証明書(課税証明書)⇛所得の種類・金額欄記載の給与収入の金額
多くの場合、上記源泉徴収票や所得証明書(課税証明書)記載の金額が総収入として認定されます。
基礎収入は、この認定額に基礎収入割合を乗じることで算定されます。
給与所得者についての算定表の利用
裁判所の算定表を用いて婚姻費用の額や養育費を把握したいという場合には、上記の源泉徴収票や所得証明書(課税証明書)記載の金額にて、算定表の縦軸・横軸を見ていくことになります。
自営業者の場合
次に、自営業者の場合の総収入についてです。
認定資料
自営業者の場合、確定申告書を基礎として、「総収入」を認定します。
具体的には、確定申告書記載の「所得金額」から「社会保険料控除」の金額を引き、そこに、「青色申告特別控除」の額と「(現実に支払がされていない)専従者給与額の合計額」を加算した金額が認定されることが多いです。
基礎収入は、この認定額に基礎収入割合を乗じて算定します。
なお、減価償却費や各種の引当金を収入に加算するか、実際に支出されていない費用の水増しの処理などについては、個別の事案において、ケースごとに審理対象となります。
自営業者についての算定表の利用
自営業者につき、算定表を用いるときも上記にて計算された数字を利用します。
【自営業者の総収入】
=確定申告書記載の「所得金額」-「社会保険料控除額」+「青色申告特別控除額」+「(現実に支払がされていない)専従者給与額の合計額」
この計算で得られた数字につき、算定表の縦軸あるいは横軸を見ていくことになります。
給与所得と自営所得が混在する場合
次に、給与所得と自営所得が混在する場合について説明をします。
基礎収入について
まず基礎収入について。
給与所得と自営所得が混在する場合、一般的に説明される方法は、両所得につき、それぞれに対応する基礎収入割合を乗じて、各基礎収入を算定し、これを合計して婚姻費用や養育費を計算する方法です。
たとえば、夫に給与所得と事業所得とがある場合、「給与所得にかかる基礎収入」+「自営所得にかかる基礎収入」にて、全所得にかかる基礎収入を把握します。
この場合、全所得にかかる基礎収入の算定方法は、次のとおりとなります。
全所得にかかる基礎収入=給与にかかる「総収入」×基礎収入割合(給与)+自営にかかる「総収入」×基礎収入割合(自営)
(なお、上記の説明につき、「冒頭で「一般的な方法」と書いたのは、基礎収入割合の乗じ方などにつき、別論もありうるからです。)。
自営・給与混在型の算定表の利用
次に、算定表の利用についてです。
給与所得と自営所得が混在する場合、算定表をそのまま用いることはできません。ピタッとくる算定表が無いためです。
ただ、この場合でも、自営所得を給与所得に換算し、又は給与所得を自営所得に換算することで(どちらでもよい)、実際に基礎収入を用いて婚姻費用や養育費を計算するのとほぼ同様の結論を導くことができます。
「給与所得200万円+自営所得256万円の所得を得ている人」を例に、給与所得へ関する方法にて説明します。
このケースでは、自営所得256万円は、算定表上、おなじ段にある給与所得の350万円に換算することが可能です。
そして、本来の給与所得200万円に、自営所得⇛給与所得へと換算した後の金額である350万円を加算した場合、合計額は550万円となります。
そこで、このケースでは、この方にに550万円の給与所得があると仮定して、算定表を利用することができます。
本来は、基礎収入に立ち戻って計算をするのが筋ですが、簡易に算定したい、という場合には、この方法を用いてみてください。
そのほかの収入について
上記のほか、所得あるいは収入として考えられるものに、年金収入や利子収入などが考えられます。
これらの収入を養育費や婚姻費用の算定の基礎とする場合あるいは加算する場合には、年金ないし利息にかかる現実収入を基礎に、基礎収入を把握することが必要となります。
ただ、年金や利子所得については、「職業費」を必要としないため、概して、基礎収入の算定に際しては、職業費分は控除されません。
そのため、個々のケースごとの判断にはなるものの、給与所得の場合と比較すると、基礎収入の算定に際して用いられる基礎収入割合は、15パーセント程度高くなるものと思われます。