今回は、婚姻費用と養育費につき、その理解を深めるために、両者の共通点や違いを比較しながら説明します。
なお、説明の便宜のため、この記事では、夫が義務者、妻が権利者であると仮定しています。
婚姻費用と養育費の共通点
まず、婚姻費用と養育費の共通点についてです。
参照:婚姻費用について
参照:養育費について
月々継続的な支払いが求められる
婚姻費用と養育費は、毎月支払われる継続的な給付(定期金給付)であるという点で共通します。
例外的に、養育費につき、「一括払い」などが行われることもありますが、たいていのケースでは、「毎月○○円」という形で、義務者が権利者に対して、月々の支払いを行っていく、という形になります。
夫が義務者、妻が権利者である場合、夫が月々、所定の金額を妻に支払っていくこととなるわけです。
手続きについて(合意・調停・審判)
婚姻費用・養育費の金額は、夫と妻との合意によって金額を定めることができます。この点で両社は共通です。
また、夫と妻との間で、話し合いがまとまらない場合には、家庭裁判所の調停や審判手続を通じて、金額を定めていくこととなります。
家庭裁判所は、その金額の計算につき、婚姻費用・養育費いずれについても、標準的な算定方式を設けており、家庭裁判所の実務では、当該算定方式によって金額を算定していくことが基本となります。
婚姻費用と養育費の違い
次に、婚姻費用と養育費の違いについてです。
婚姻費用は「婚姻期間中の生活費・育児費用」であるのに対して、養育費は「離婚後の育児費用」です。
両者には、①請求できる時期と、②請求できる金額に違いがあります。
請求できる時期の違い
婚姻費用と養育費の違いの一つ目は、請求できる時期の違いです。
婚姻費用が請求対象となる時期
婚姻費用は、夫と妻が「婚姻中の夫婦」であることが前提となる費用であり、請求可能な時期は、離婚成立までとなります。
主として、別居開始から離婚成立までの期間に発生する婚姻費用が権利者から義務者への請求対象となります。
家計における主たる収入を夫が稼いでいる、というケースでは、妻は夫との別居期間中、離婚が成立するまでの間、夫に婚姻費用の分担を求めていくことになります。
参照:財産分与に際し、過去の婚姻費用・生活費の不払いを考慮できるか
養育費が請求対象となる時期
他方で、養育費は、親権者ないし監護親が子供を養育していくための費用であり、離婚後に請求対象となる権利です。
離婚後、妻が子を養育している場合、妻は、元夫に対して、「離婚後」の育児に要する費用として、養育費の請求をしていくことになります。
なお、その終期は、子供が成熟するまで、と言われることが多いですが、現状では、20歳までとされることが多いです。
請求できる金額について
婚姻費用と養育費の違いの二つ目は、請求できる金額の違いです。
以下述べる通り、金額算定の基礎とされる人・人数がことなるため、えてして、婚姻費用のほうが養育費よりも請求できるおお金額が大きくなります。
婚姻費用の金額算定について
婚姻費用は、「権利者一人+子供の人数」が金額算定の基礎となります。
たとえば、夫と妻が別居し、妻が未成年の子二人を監護している、というケースを想定します。
このケースにおいて、夫が婚姻費用を支払う義務者である場合、その金額の計算は、妻一人分+子供二人分、という形で、夫が妻にいくら分担しなければならないか、を計算します。
養育費の金額の算定について
他方で、養育費は、離婚後の育児のための費用であり、「子供の分」だけが金額算定の基礎となります。
上記のケースにおける婚姻費用の算定に際しては、「妻の分」+「子供二人の分」として、夫がいくら分担しなければならないのか、。を計算したのに対して、養育費の場合、「子供二人の分」としていくら夫が支払わなければならないか、を計算します。
養育費の計算に際して、夫が支払うべき金額計算に際して、「妻の分」が除かれるため、通常は、養育費のほうが婚姻費用よりも金額が小さくなります。
「婚姻費用」には「養育費」分が含まれている
上記に関し、若干補足をすると、家庭裁判所が採用している標準的な算定方式において、夫に妻に婚姻費用を払うべき、とされる金額には、養育費に相当する分が含まれています。
そもそも、婚姻費用の算定に際して、「子供一人」に必要とされる生活費指数と養育費の算定に際して、「子供一人」の育児に必要とされる生活費指数は同一とされています(なお、標準算定方式には、年齢ごとに2区分あるが、その区分ごとの子の生活費指数も同じです。)。
そのため、同一条件で「婚姻費用」を計算した場合と「養育費」を計算した場合とでは、子供のための分(育児の分)として算定される金額は同じとなります(逆に言えば、婚姻費用は、「育児のための費用」として算定される金額に「権利者本人の生活のための費用の一部」(上記ケースでは妻本人の分)が上乗せされたものいうことができます。)
したがって、家庭裁判所において、別居期間中、夫が妻に対して「婚姻費用として月々〇〇円を支払え」などという判断が示される場合、通常、ここには当該別居期間中における子供の「養育費」分も含まれています。
婚姻費用と養育費の比較
以上を前提に、婚姻費用と養育費につき、比較をしておきます。
婚費・養育費の比較表 | 婚姻費用 | 養育費 | 相違点 |
基本的な概念 | 夫婦の生活費・子供の育児費用 | 離婚後の子どもの育児費用 | 異なる |
支払の方法 | 通常は、月々の定期金給付となる(月々一定の額を支払う) | 共通 | |
金額の決定・決定の手続 | 夫婦(父母)双方の合意による。合意できない場合、家庭裁判所の手続を利用 | 共通 | |
請求対象となる時期 | 夫婦の婚姻期間中(離婚成立まで) | 離婚後、成熟子となるまで | 異なる |
請求対象の基礎となる人・人数 | 夫または妻本人分+未成年者の人数分 | 未成年者の人数分 | 異なる |
ところで、離婚の前後で違うもとして、さらに、行政による支援(ひとり親世帯への支援)を挙げることができます。
この支援の差は、婚費と養育費との差というよりは、ひとり親世帯とそうでない世帯との差ですので、本稿からは除外していますが、離婚するかしないかを検討する際には、事実上、重要な考慮要素となりえます。
ケースによっては、離婚後の生活・育児につき、自治体による支援のウェイトが大きくなることもありますので、併せて検討することが必要です。