養育費をあとから請求できるか。過去分を遡って請求することの可否

離婚に際して、養育費の支払いについて決めていなかった、というケースは少なくありません。

この場合でも、これからの分は、子供が未成熟子である限り、請求可能です。

では、この養育費をあとから離婚のときまでに遡って請求することができるでしょうか。

たとえば、離婚をしてすでに1年たっている、この場合に、この1年分の養育費をさかのぼって後から請求できるか、という問題です。

これは弁護士がしばしば受ける法律相談の一つです。

原則として、過去分の養育費をあとから請求することはできない

現在の実務において、養育費を過去分に遡ってあとから請求することは、原則としてできないという考え方が一般的です。

この点、養育費は、親子関係に伴って発生する扶養義務の一つであり、離婚時から義務自体は存在する以上、あとから離婚のときまでさかのぼって請求できる、とも考えられます。

しかし、他方で、➀養育費は、子供の生活をその時点、その時点で支えていく費用であり、あとから支払われたとしても、過去にさかのぼって子供の生活を支えることはできない、➁後から多額の養育費を請求するのは、非監護親にとって不意打ちとなってしまう、などの理由により、過去に遡って請求することは現状難しいとされています。

家庭裁判所に対して、過去分に遡って養育費の支払いを求める調停・審判を申し立てたとしても、調停申立時からの請求に限って認められる、という裁判所の心証・判断が開示されることが多いです。

例外的に後から請求できる場合~請求意思が明確にされたとの事情が重要~

もっとも、例外的にあとから過去分を請求できる場合もあります。

もちろんケースバイケースの判断ですが、過去分だからと言って、全く請求するチャンスがない、というわけではありません。

多分に感覚的な話になってしまいますし、この二つの要素がそろったからと言って必ず認められるというものでもないのですが、養育費を後から請求する場合、次の二つの要素が重要なように思われます。

  1. 過去に請求意思を明確にしたことがある
  2. 養育費の分担を求める調停・審判の申立てを、適宜のタイミングで行った(養育費の分担手続をとることを怠っていなかった)

こうした事情が認められれば、一定期間分遡って過去分の養育費を支払え、との結論を得られる可能性があると考えられます。

なお、請求意思の明確化するために弁護士が一般的に用いるのは、「内容証明郵便」です。また、離婚協議におけるメールやLINEなども「請求意思を明確にした」ことを証する証拠として価値を有する場合があります。

離婚協議に際して、養育費の支払いを継続的に求めていたことが明確である場合

離婚協議に際して、親権者となるべき親が養育費を具体的に請求しており、継続的にその支払いを求める意思を有していたことが明確である、というケースでは、離婚時に遡って、養育費の支払いが認められる可能性があります。

離婚に際して、請求意思が明確にされた結果として、養育費を後から請求しても、監護親に対する不意打ち性が減退するため、過去分の養育費の請求が認められやすくなるのです。

もっとも、この場合においても、過去分の養育費を請求するための法律上の手続(養育費分担調停・審判)を起こすタイミングが遅くなると、法的手続をとった段階で、過去分の養育費の金額が大きくなってしまう結果、裁判所に全額の支払いを認めさせるのが、なお難しくなります。

そのため、離婚時に遡って養育費を請求するためには、早期に養育費の分担調停などの手続を行うことが必要と考えられます。

当事者間で前提となっていた養育費不払いの理由が消滅した場合

また、離婚後、養育費の支払いにつき、協議・話し合いがなされていたところ、非監護親が無職であったことを理由に、養育費の金額が定まらなかった、というケースではどうでしょうか。

このケースでは、協議・話し合いの当時、非監護親の収入がなかったことを理由に、養育費の金額が定まらなかったにすぎず、その後に、非監護親が安定収入を得られるようになった場合には、非監護親は養育費の支払い義務を負う、とするのが公平に資するともいえそうです。

この場合も、請求意思が明確に示されていたことが前提になりますが、上記のケースでは、非監護親が就職をした時点以降の養育費、つまり、非監護親の就労開始時点まで遡って後から養育費の請求をすることも可能とする余地があるのではないかと考えられます。

したがって、監護親は、相手方の就労開始を知り得た段階で、適宜に、養育費の分担調停・審判の申立てをすることで、家庭裁判所において、過去分の養育費の支払いを認めてもらえる可能性があります。

認知を求めていた場合

最後に、特殊なケースを紹介します。母親が認知を求めていたというケース(大阪高決平成16年5月19日)があります。

この事案は、父親が子の認知をしていなかった、という場合において、母親が父親に対して、認知を求める審判手続を行っており、これが確定した後、すぐに養育費の請求をした、という事案です。結論において、家庭裁判所は、出生時にまで遡って養育費の請求を認める結論をだしました。

この結論の理由として、裁判例は次の二つを挙げています。

  • 認知審判確定前に養育費の支払いを求める法律上の根拠がなかった
  • 認知には遡及効(遡って効力を発生させる力がある)

実務感覚では、認知請求は養育費請求の前提としての位置づけであり、認知請求に、これが認められれば養育費を請求するとの意思を有形・無形に含めている場合が少なくないように思います。つまり、認知請求に「養育費も請求する」との意思が読み込まれるのです。

その意味では、養育費の請求を出生まで遡らせる、という上記の審判例は、その当事者感覚に沿う判断なように思われます。

 

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