養育費・婚姻費用の標準算定方式の基本的な考え方

養育費や婚姻費用の算定方法を理解するに際して、まずもって理解しなければならないのは、養育費の額や婚姻費用分担額を決定する基本的な考え方です。

今回は、裁判所が作成・採用している標準算定方式において、これらの金額を決定するために用いられている基本的な考え方を紹介します。

計算の基礎となるお金=基礎収入

養育費や婚姻費用の算定に際しては、「基礎収入」という概念が重要となります。

この基礎収入は、金額算定の基礎となる概念であり、総年収から、税金や職業費など、その人の収入のレベルに応じて通常必要となると考えられる公租公課や費用などを控除したものを指します。

極大雑把に言えば、基礎収入は「収入の内、生活費支出としてコントロールができるお金」ということになります。

養育費や婚姻費用の算定に際しては、まず、「夫の収入の内、夫がコントロールできるお金」と「妻の収入の内、妻がコントロールできるお金」とを比較、按分して、金額を算定していくことになります。

婚姻費用算定の考え方

基礎収入の概念を前提に、まず婚姻費用算定の考え方について見ていきます。

夫婦それぞれの取分・分け合い方(夫婦のみの場合)

夫であるAさんには、年収が600万円あるとします。他方で、妻の年収は300万円だとします。婚姻期間中ですが、子供はいません。

ところが、夫には、払うべき税金や仕事の経費などが360万円あるため、生活のためにコントロールが効くお金(基礎収入)が240万円しかないとします。また、妻も、年収300万円のうち、妻にてコントロールできるお金(基礎収入)が120万円しかないとします。

日本の憲法あるいは民法においては、夫婦は平等ですから、この場合、夫と妻双方が使えるお金も同等のレベルに調整しなければなりません。

このケースでは、夫と妻双方が使えるお金を夫婦同等の金額に整えるとすれば、夫は妻に60万円(月5万円)を渡すという計算になります(夫から妻へ、60万円を支払うことにより、夫婦双方のコントロールできるお金が180万円ずつの「同等」となります。)

【夫1:妻1とするための分担】

基礎収入240万円の夫は、基礎収入120万円の妻に60万円を渡すと、夫と妻のそれぞれ生活に使えるお金の額が同等となる。

  • 夫がコントロールして使えるお金=180万円
    ∵240万円-60万円
  • 妻がコントロールして使えるお金=120万円+60万円
    ∵120万円+60万円

このように、婚姻費用や養育費を計算する際には、まず「夫又は妻がコントロールして使えるお金」≒基礎収入を概念することになります。そして、夫婦の間に子がいない場合、それぞれの取り分につき、割合を「夫=1」:「妻=1」として、婚姻費用を算定します。

夫婦それぞれの取分・分け合い方(子がいる場合)

監護親の妻の取り分の割合につき、子供の分を加算する。

上記のケースでは、夫と妻しかおらず、子供がいない、というケースを想定しました。そのため、夫と妻が使えるお金を「同等」「1対1」となるように調整をしたわけですが、このケースでさらに、夫婦の間に子供がおり、妻が子供と生活していた、という場合はどうでしょうか。

夫と妻が使えるお金を額面で「同等」「1対1」に分けても、子供の生活や監護に要する費用を考えると、不公平あるいは不平等な結論となります。子供の生活に要する費用の分だけ、妻が使えるお金が減るからです。

そこで、子供がいる場合には、お金の分配の仕方を変えなければいけません。夫婦一人ずつだった場合、「夫1」:「妻1」で分けていた分配割合につき、子供がいる場合には、「夫1」:「妻1+子供の分」という形で、分配の仕方を調整するのです。

子どもの分の加算の程度

では、「子供の分」の加算は、どの程度となるのでしょうか。

この点につき、いわゆる標準算定表においては、「子供の分」は、大人一人を100%とした場合、14歳までの子につき62%、15歳以上の子につき、85%を加算調整するとされています(一人当たり)。

これに従えば、上記夫婦に、11歳のA子がいるという場合、夫婦の分配割合につき、「夫=1」:「妻=1」ではなく、「夫=1」:「妻=1+子0.62」と調整するおととなります。

これを前提に、夫の収入600万円の内、夫がコントロールして使えるお金が240万円、妻の収入300万円のうち、妻がコントロールして使えるお金が120万円であるというケースを考えてみるに、「夫1」:「妻1+子供0.62」の比率となるように金額を整えるには、夫が妻に対して、約102万6000円(月々約8万5500円)を支払うことが必要という計算になります。

 【夫1:妻1+A子0.62の比率にするための分担】
 夫が妻に合計102万6000円を渡すと、ほぼ、上記の比率(1対1.62)となる。

  • 夫がコントロールして使えるお金=137万4000円
    ∵240万円-102万6000円
  • 妻がコントロールして使えるお金=222万6000円
    ∵120万円+102万6000円

上記のように、裁判所の婚姻費用算定方式は、子供がいる場合、子を監護するための生活費に相当する部分を取り分割合に反映させることで、子を監護する親とそうでない親との間の実質的な平等・公平をはかろうとしています。

 

婚姻費用の金額算定の考え方まとめ

数字がたくさん出てきて複雑かもしれませんが、一度理解できてしまえば、婚姻費用の分担額の考え方自体はそこまで難しいものではありません。

婚姻費用を算定するに際して際、まずは、「夫」と「妻」の基礎収入を割り出し、子供の有無・人数など家族構成に基づく分配割合に応じ、分配額を決めていくことになります。

 

養育費の金額算定の考え方

次に、養育費について見ていきます。思考の整理のため、まずは妻の基礎収入を0と仮定した場合を説明し、その後、妻にも基礎収入があるケースにつき説明をします。

なお、ここでは便宜上、父親を義務者・母親を権利者としていますが、その立場が逆になったとしても、基本的な考え方には相違は生じません。

母親の基礎収入を0と仮定した場合

まず、母親の基礎収入を0と仮定した場合の考え方を見ていきます。

親と子が同一水準の生活ができるようにする、との考え方

「親と子が一緒に生活をしている場合と同一の生活水準を確保しましょう」、これが養育費算定の根幹にある考え方です。

これは、子供と離れて暮らすこととなった親も、自分の子に対しては、自分と同じレベルの生活ができるよう、養育費を負担しなければならない、という考え方になります。

子どもに振り分けるべき比率

もっとも、大人と子供とでは、生活に必要な費用の程度に差があり、社会生活を送る上では、得てして大人の方が、お金がかかります。そのため、親と子の生活水準を同一水準にするとは言え、親が稼いできたお金につき、親と子できれいに半分ずつ分けるという訳にはいきません。

婚姻費用の算定において夫婦間では「夫=1:妻=1」と説明しましたが、親子間では「親=1:子=1」とはならず、子に振り分けるべき金額の比率を引き下げる必要があります。

この「子の比率」につき、裁判所の標準算定表は、14歳までの子につき62%、15歳以上の子につき、85%としました(一人当たり)。

ケースで説明

14歳以下の子が一人いる、というケースで、仮に、父親の総収入が600万円、このうち父親がコントロールできるお金(基礎収入)が240万円であるとする場合、この240万円を、「親=1:子0.62」の割合で分け合うことになります。

この比率で計算した場合、子に振り分けるべき養育費の金額は、約91万8500円(年額)であり、月額養育費は、これを12か月で割った約7万6500円となります。

【「父親=1:子0.62」の比率にするための振り分け】
父親は、自分の収入の中から91万8500円を養育費として渡すことにより、、父親が生活に使えるお金と子供への振り分け金額を1対0.62の比率とすることができる。子に振り分けるべき金額=91万8500円=240万円×0.62/1.62にて計算

母親に基礎収入がある場合

母親に応分の負担がある。

上記は、妻に基礎収入が無い場合を想定しましたが、夫婦が離婚した場合、離婚後、妻が自分で生計を立てているのであれば、妻にも基礎収入があることが多いです。

この場合、夫であった父親に、「親と子が一緒に生活をしている場合と同一の生活水準を確保する」ことが求められるとしても、母親にも子供の生活レベル確保のための応分の負担があると考えられます。

父母双方の負担割合は、基礎収入の案分比例による

そこで、離婚時の妻(母親)にも基礎収入がある場合には、子供に振り分けられるべき金額につき、父親と母親とで応分の分担をしあう必要が生じます。

そして、その妻の分担額は、妻の基礎収入の額に見合う金額とするのが公平です。

そのため、妻に基礎収入がある場合、妻の負担部分は、子供に振り分けられるべき金額につき、夫と妻との基礎収入とを比較・案分比例して決めていくこととなります。

 

ケースで説明

先ほど、母親に基礎収入がなく、14歳未満の子が一人、父親の総収入が600万円、このうち父親がコントロールできるお金(基礎収入)が240万円であるとする場合において、子に振り分けるべき金額につき、金91万8500円と算定しました。

このケースで、妻であった母親の収入が300万円であり、コントロールして使えるお金(基礎収入)が120万円であるとする場合、父親と母親が負担すべき割合は、「父親=2:母親=1」(⁻≒父親240万円:母親120万円)となります。

そのため、子に振り分けるべき金額91万8500円のうち、父親が負担すべき金額は、そのうちの3分の2となり、月額養育費の金額は、さらに、これを12か月で割った金額約5万1000円(1000円以下四捨五入しています。)と算定されます。

【月額養育費の算定】
父親が月額約5万1000円を支払えば、子供に振り分けるべき91万8500円につき、父親と母親の負担割合をほぼ「父親=2:母親=1」の割合とすることができる。5万1000円≒91万8500円÷3×2(父親負担割合)÷12か月

 

 

養育費の金額の算定の考え方まとめ

養育費の金額の算定は、義務者(上記の例では父親)が、子供に自己と同一の水準の生活をさせるために、基礎収入の中から「子供に振り分けるべき金額」がいくらかを算定することが出発点となります。

「権利者(上記例では母親)に基礎収入がない」との仮定の下では、その金額が養育費の額(年額)となります。

他方で、権利者(上記例では)にも基礎収入がある場合には、上記「子どもに振り分けるべき金額」から、権利者と義務者の基礎収入の割合に応じて権利者の負担すべき部分を控除します。

その控除後の残余の部分が、義務者(上記例では父親)が支払うべき養育費の額(年額)となります。

 

留意点(本稿についてのお断り)

本稿では、裁判所の算定方式による婚姻費用・養育費算定の基本的な考え方を説明しました。

実際には、個別の事情が考慮される

実際の事例では、子供につき、高額な治療費が常態的に必要なる、といった事情や、一方当事者の住居の提供など婚姻費用や養育費の額を訂正・修正すべき個別の事情が生じえます。

ここで紹介したのは、裁判所の算定方式による婚姻費用・養育費算定の基本的な考え方であり、個別の事情があれば、金額が変わり得る、という点についてはご留意ください。

基礎収入も変動しうる

また、本稿では、父親総収入600万円、そのうちの基礎収入240万円という仮定、母親の総収入300万円、そのうち基礎収入120万円という仮定を何度も用いています。

この基礎収入の数値につき、上記説明では、「双方の所得が給与所得による場合」をベースに、総収入との関係において、裁判所で認定されうる数値にある程度近い数字を用いていますが、説明のため、数字を丸めている部分もありますし、実際の事案では、個別の事情により「基礎収入」自体も変動し得ます。

本稿は、あくまでも、婚姻費用や養育費算定の基礎となる考え方を紹介したものとの点、ご留意をいただけますと幸いです。

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