再婚は、養育費の額等に影響を及ぼすか、こうした趣旨の相談を受けることがあります。
- 養育費を支払っている義務者が再婚した場合
- 養育費の支払い相手である権利者が再婚した場合
以下、次の二つのケースについて、それぞれ見ていきます。
養育費を支払っている義務者が再婚した場合
たとえば、夫が元配偶者の妻に対して、養育費を支払っていたとします。
この場合に、夫の結婚は、養育費の額に影響を及ぼすでしょうか。
再婚だけでは、原則として養育費は減額されない
まず、義務者たる夫が、単にほかの女生と結婚をしたとしても、それだけでは養育費は減額されない、というのが一般的な考え方です。
再婚相手の女性が働いており、収入がある場合はもちろん、その女性に稼働能力、働ける能力がある場合には、通常、養育費の減額を求めることはできないと思われます。
他方で、再婚相手の女性に、障害などがあり、働ける能力がないといった場合は、夫がその収入の範囲で生活を扶養しなければならず、その女性の就労収入も見込めないため、養育費が減額となる可能性が生じます。
義務者が再婚して子が生まれた場合
義務者が再婚して子が生まれた場合、扶養すべき子が増えますので、養育費を減額できる蓋然性が高くなります。
夫は、元配偶者との間の子だけでなく、自身の子をも扶養する必要があるので、自身の子の扶養分を考慮して養育費を算定する必要があるのです。
ただ、裁判例によっては、子が生まれたとしても、直ちにその後の養育費の減額を認めるのではなく、再婚相手の就労の可能性を考慮して、養育費減額の可否・程度を判断する例もあります。
養育費減額の程度
どの程度養育費が減額されるかは、ケースバイケースになります。
養育費を減額する場合の考え方
養育費を減額する場合の一つの考え方を示します。
再婚+出生により養育費に宛てうる金額が変わる
養育費算定に際しては、まず、義務者たる夫の基礎収入の内、再婚相手とその間の子の生活費(第一図の下図オレンジ色部分)を控除した金額(元配偶者との間の子の養育費にあてうる金額(第1図下図青色部分)を割り出します。
ただ、この金額には、元配偶者の収入で賄うべき養育費用が考慮されていません。
そこで、上記で割り出した「元配偶者との間の子の養育費にあてうる部分」について、夫と元妻との収入で按分比例(第1図下図の左右←→矢印部分)させます。
この案分比例によって算定される夫側の金額が、妻に支払うべき養育費部分となります(第1図の下図の青②の部分)。
具体的な金額の算定は、個別に判断となるため、明示は困難ですが、上記のような方法で養育費を割り出すのが一つの考え方です。
養育費減額となる根拠の整理
この場合、養育費が減額となる根拠は次のようになります。
- 夫・再婚相手・その間の子に充てられる生活費分(第1図オレンジ色部分)が増える。
↓ - 夫の収入の中から、元配偶者との間の子の養育にあてうる金額(第1図青色部分)が減少する。
↓ - 結果として元配偶者に支払うべき支払額が減少する。
再算定に際して考慮されうること
個別の事案で養育費減額の程度がケースバイケースとなるのは、再婚・出生以外の事実も再算定に際して考慮対象となるためです。
そもそも、当初養育費を定めたときよりも、義務者の収入が大きく増えていたというケースでは、第1図の基礎収入(全体的な高さ)が増加します。その場合、第1図青色部分(養育費にあてうる部分)も増加しえます。
また、元配偶者が働きうるとされた場合、再婚相手・その相手の子に対して支払うべき費用負担部分(第1図オレンジ色部分)が減少する結果、養育費にあてうる金額(青色部分)が減少しないということもありえます。
加えて、養育費を再算定するときの妻との収入比(第1図案分比例の矢印部分)も、今後支払うべき養育費の額に影響を与え得ます。
これらの事情を勘案しなければならないため、どの程度の減額になるかは、ケースバイケースの判断とならざるをえない、ということになります。
元配偶者が再婚した場合
次に、子供を監護養育している元配偶者が再婚した場合についてです。
単に再婚しただけのケース
子どもを監護・養育している元配偶者が再婚しただけのケースでは、その子に対する養育費の金額には影響は生じないと考えています。
元配偶者の再婚相手が子を養育する義務を負わないからです。
元配偶者が再婚し、子と養子縁組をしたケース
元配偶者が再婚し、その相手が子と養子縁組をしたケースはどうでしょうか。
養育費の減額・支払停止まで考えうる
元配偶者が再婚し、その相手が子と養子縁組をしたケースでは、養育費が減額される蓋然性が高まります。場合によっては、その支払いの停止まで考えうるところです。
実父の養育費の支払いが減額される、又は免れうる理由
元配偶者の再婚相手が養子縁組をした場合、養親が、その子を扶養する第一次的な責任を負い得ます。
そのため、たとえば、実父が負担すべき養育費部分(第2図青①部分)を養親に負担させることができるケースでは、実父の負担を無しとすることも考えられます。
また、養親に実父が負担すべき養育費部分(第2図青①部分)のすべてを負担させることが難しいという場合でも、実親が負担すべき金額は、養親が、その収入において負担しうる金額を控除した金額とする、という考え方が成り立ちうるところです。
養育費減額の手続が必要
上記のように、義務者が結婚して子が生まれた場合や、権利者の再婚相手が養子縁組をした場合、養育費の金額は減少しえます。
ただ、再婚などを理由に、従前、すでに定まっていた金額が何らの手続無しに減額されるわけではなく、減額を実現するには、次の各手続いずれかを経る必要があります。
- 話し合いによる減額合意、
- 家庭裁判所による減額調停・減額審判
減額交渉や家庭裁判所の手続には、法律上の知見が必要です。養育費の減額ができるか否かにお悩みなら、ぜひ、弁護士にご相談ください。