婚姻費用の算定に対する住宅ローンの影響

婚姻費用と住宅ローンの支払いについて

婚姻費用の分担額を定めるに際して、当事者の一方あるいは双方が「住宅ローン」を支払っている場合、その負担を考慮すべきか、というのは、実務上の大きな論点の一つです。

婚姻費用の権利者・義務者と居住者・住宅ローンの支払者の組み合わせ

婚姻費用と住宅ローンの問題を考える際、婚姻費用の権利者で義務者と居住者・住宅ローンの支払人との組み合わせが複数あり、思考の整理が大変です。

パターンは様々

婚姻費用の支払い義務者・権利者・居住者、ローンの支払者、これらの組み合併せにつき、例を挙げてみると、たとえば次のようなものがあります。

  • 夫が婚姻費用の支払義務者かつ住宅ローンの支払者で、妻が婚姻費用の権利者でその建物に居住している、というケース
  • 夫が婚姻費用の支払義務者かつ住宅ローンの支払者で、妻が婚姻費用の権利者で、ローン対象との建物には夫が居住しているというケース

他にも、婚姻費用の義務負担者とローンの支払者が同一のケースや、双方がローンの支払者となっているケースなど、組み合わせは様々です。

夫婦の一方どちらかが住宅ローンを払っているケースに限定すればシンプルに整理可能

ただ、実際上、双方が住宅ローンを個別に負担している、というケースはそこまで多くはなく、これを除外すれば、次のように整理をすることが可能です。


概して言えば、①住宅ローンの支払人と居住者とが異なる場合、夫婦のどちらか一方が住宅ローンを支払っており、かつ家庭内別居の場合、住宅ローンの負担は、婚姻費用算定に際して考慮されるとの結論になります。

語弊を恐れずに言えば、住宅ローンの支払者と居住者とが同じ場合以外は、住宅ローンの支払いは、婚姻費用の額に影響を与える、との整理が思考経済にとってはよいかもしれません。

資産形成の側面について

住宅ローンの支払いには、資産形成の意味合いがあるとされます。

ただ、住宅ローンをどちらが負担してきたか、その建物にどちらが居住してきたかは、財産分与に際して考慮可能です。

そのため、上記各分類に関する婚費への影響を考えるに際して、そこまで重視すべき事情ではないと思われます。

義務者が住宅ローンの支払者の場合

上記各場面につき、たとえば、夫が婚姻費用の支払義務者であると仮定して、以下、原則的な考え方をそれぞれ説明します(次の表の水色の部分3つのケースを左から順にみていきます。)

夫(義務者)が居住しているケース

この住宅ローンににつき、夫が住んでいるという場合、夫は自分の負担で自分の居住費を賄っていると言えますので、特段、婚姻費用の算定に際して、これを考慮する必要はありません。

妻(権利者)が居住しているケース

夫が住宅ローンを支払っており、かつ婚姻費用の権利者である妻が居住している、という場合、妻は、夫のローン支出によって、住居費相当額の支出を免れます。

そのため夫がローンを支払っている事実は、夫が妻に支払うべき婚姻費用の算定に際して、これを減額する方向で考慮する必要が生じます。

なお、この類型は、婚姻費用と住宅ローンとの調整が問題となる事案でもっとも多い類型です。

家庭内別居のケース

家庭内別居の場合も、夫が住宅ローンを払うことにより、妻が居住費の支出を免れている、という評価が当たりえます。

そのため、夫がローンを支払っている事実は、夫が妻に支払うべき婚姻費用の算定に際して、これを減額する方向で考慮する必要があります。

権利者が住宅ローンの支払者の場合

次に、権利者が住宅ローンの支払人である場合の原則的な考え方について見ていきます。

あまり例は多くないかもしれませんが、たとえば、夫が婚姻費用の義務者である一方で、妻が住宅ローンの支払人というケースです(次の表の水色の部分3つのケースを左から順にみていきます。)

夫(義務者)が居住しているケース

この場合、妻が支出する住宅ローンの負担によって、夫の居住費が賄われているという関係に立ちますので、夫は、その居住の利益を妻に還元する必要が生じます。

そのため、このケースでは、夫が支払うべき婚姻費用を増額する方向で、住宅ローンが考慮されます。

妻(権利者)が居住しているケース

妻が婚姻費用の権利者で妻が居住しているという場合には、妻が自己の居住費を自分で負担しているに過ぎないともいえるため、婚姻費用の算定に際して、特段これを考慮する必要はありません。

家庭内別居のケース

家庭内別居の場合、婚姻費用の義務者たる夫は、妻が負担する住宅ローンの支出によって居住の利益を免れているといえるため、その利益を妻に還元する必要があります。そのため、通常算定される婚姻費用の金額を増額する方向で住宅ローンが考慮されます。

 

住宅ローンが考慮される場合の増減額の程度

上記のように、次の二つの場合には、婚姻費用の算定に際して、住宅ローンの支払いの事実が考慮され、通常算定される金額が増額又は減額されます。

  • ①住宅ローンの支払人と居住者とが異なる場合
  • ②夫婦のどちらか一方が住宅ローンを支払っており、かつ家庭内別居の場合

この増減額の範囲の定め方には種々の考え方があります。

住居関係費を増減算する方法

代表的な考え方の一つには、住居関係費を婚姻費用の額から増減額する方法があります。

たとえば、権利者が住居費を二重に得ていると評価されている場合には、通常算定される金額から住居関係費を控除し、義務者が住居費の支出を免れていると評価されるのであれば住居関係費を加算する、という考え方です。

家庭裁判所の判断は結論の妥当性重視

もっとも、実際、家庭裁判所は、これといった画一的な方法を採用しているのではないように思われます。

事案ごとに計算方法は使い分けており、結論の妥当性が先にあって、これが重視され、その結論を担保しうる計算方法を採用しているのが実情ではないかと思われるのです。

そうだとすれば、当事者としては、計算式にこだわるよりも、生活状況・別居に至った経緯など、事実面において何が妥当な結論かを裁判所に理解してもらう活動をすることの方が先決かもしれません。

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