離婚相手に連子がいた場合に養育費の支払い義務はあるのでしょうか。また、実子がいる場合、その実子に対する養育費の金額に影響はあるのでしょうか。
以下、連子に対する養育費に関する問題と、権利者に連子がいる場合の実子に対する養育費の問題の二つについて、説明をします。
連れ子に対する養育費
まず、連れ子に対する養育費についてです。
たとえば、元配偶者の妻に連れ子がいたケースを想定します。
養子縁組をしていなければ養育費の支払い義務はない
元配偶者の妻に連子がいた場合においても、夫が養子縁組をしていなければ、その連子に対する親子関係が発生せず、扶養義務が生じません。
そのため、夫が元配偶者の連れ子との間で養子縁組をしていない場合、その子に対する養育費は発生しません。
この場合、その子の扶養に要する費用は、連れ子のいる妻との離婚の前後を問わず、実父が負担するということになります。
養子縁組をしている場合
養子縁組をしている場合、夫と元配偶者の連れ子との間に親子関係が生じます。
その結果、夫は、その連れ子に対して、扶養義務を負います(半面、実父は、養育費の負担を免れ得ます)。
この場合において、単に元配偶者との間で離婚が成立したというだけでは、扶養義務は消失しません。
夫の連子に対する養育費の負担義務が離婚後も継続します。
養育費の支払いを免れるには離縁が必要
上記のケースで、夫が、連れ子に対する養育費の支払い義務を免れるためには、離婚だけでなく、夫と連れ子との間での離縁の成立が必要です。
通常、離婚に際して、養親側(この場合は夫)は今後、離婚が成立した場合に養育費を支払うことはしたくない、という気持ち・心境にあることが多く、そのため、連れ子がいる夫婦の離婚の場合、離婚協議や調停・審判・訴訟などの手続と同時並行的に離縁の手続を進めることになるケースが多いです。
連れ子との離縁の手続
養子縁組した連れ子との離縁の手続は次の3つです。上記の通り、これらの手続きは、離婚の手続と同時並行的に進めることが多いです。
- 協議離縁
当事者の話し合いで離縁する手続きです。 - 調停・審判離縁
家庭裁判所の調停手続・審判手続で離縁をする手続きです。なお、調停成立には当事者の合意が必要です。審判手続は、家庭裁判所の裁判官が離縁させるか否かを判断します。 - 裁判上の離縁
訴訟手続きによる離縁です。「悪意の遺棄」「3年以上の生死不明」「縁組を継続しがたい重大な事由」があることが法律上の要件となります。
なお、ケースバイケースでの判断となりますが、実務においては、裁判所において、夫婦の婚姻関係が破綻していると判断される場合、連れ子との縁組関係も破綻している(縁組を継続しがたい重大な事由がある)との判断がなされやすい傾向にあります。
連子がいる場合の養育費
次に連れ子がいる場合の実子の養育費についてです。
夫が未成年の連れ子が一人いる妻と離婚したとします。また、その妻との間に実子が一人いた、というケースを念頭に置きます。
離縁が成立していない場合
離縁が成立していない場合、夫は、元配偶者となる妻の連れ子と実子二人分の養育費を支払う義務を負います。
夫は実子に対する扶養義務を負う他、養子たる連れ子に対しても扶養義務を負っているからです。
離縁が成立している場合
では離縁が成立している場合はどうでしょうか。
この場合、夫は、連れ子に対する養育費の支払い義務を免れ、実子一人分の養育費を支払う義務を負います。
権利者に連れ子がいる場合、実子に対する養育費の金額は大きくなる傾向
この場合において、夫の実子に対する養育費は、元妻に連子が居ない場合と比較すると金額が大きくなる傾向にあります。
元妻は、元妻の収入において、連れ子の生活を支えなければならないという負担を有しており、養育費の算定に際しては、その事情を加味しなればならないからです。
権利者に連子がいる場合の養育費算定の考え方
家庭裁判所は、標準算定方式と呼ばれる方法により養育費を定めます、端的に言えば、夫の収入と妻の収入を比較してその収入比に応じて金額を定める方法です。
他方で、連れ子がいる場合、権利者側が実子の不要に支出できる費用は、連れ子が居ない場合と比較して少なくなります。上記標準算定方式に基づく考え方につき、一部修正が必要と考えられます。
この場合、たとえば、実子A子の養育費については、「➀妻の収入の中で算出される子全員の養育に充てるべき費用」から「②連れ子に充てるべき費用」を控除し、その上で、実子A子に振り分けるべき費用を按分比で算定するという方法が考えられます(※1)。
いずれにせよ、標準的な算定方式・算定表を用いて養育費を算定すると、養育費の金額に相当程度の差が生じうる(権利者側不利な結果となる)ため、注意が必要です。
なお、多分に私見も混じりますが、連れ子がいる場合に、上記の修正した考え方をとる場合に、連れ子の実親(男性)の養育費支払義務やその履行の有無について、斟酌しなければならないか、という点はさらに争点として生じえそうです。