婚姻費用と学習塾費用・習い事代について

婚姻費用の算定に際して、子供・未成年者の習い事が問題となる場合があります。

一方配偶者が子を養育している場合に支出する学習塾やピアノ・水泳といった習い事の費用につき、婚姻費用を支払うべき者が、通常算定される金額とは別に、さらに負担しなければならないか、という形で問題となります。

たとえば、父親が非監護親であり、母親が子供を養育している、というケースで考えてみます。

学習塾の費用について

母親が養育している子供を学習塾に通わせている場合に、夫は婚姻費用とは別に学習塾の費用を負担する義務を負うでしょうか。

婚姻費用は夫婦の合意で決められますが、家庭裁判所にて、判断を求める場合、基本的には消極判断(負担させないとの判断)になることが多いように思われます。

学習塾の塾代を負担させるとの判断を得るのは、私学の授業料負担を認めさせるケースよりも難しいです。

学習塾の費用は、私立学校の通学費用等の支出と比べて、支出の必然性、必要性が低いとも考えられ、非監護親の費用負担として認められにくいためです。

 

一概に否定されるわけではない

他方で、一概に否定されるかというと、そうと言い切れる訳でもありません。

非監護親に婚姻費用とは別に塾代などを負担することになるかは、次のような事情を勘案して決定されます。

  • 双方の経済状況
  • 子供を学習塾に通学させる必要性
  • 別居に先立つ従前の経過(義務者の承諾の有無)
  • 義務者が子供の時に学習塾を利用して進学したか否か

考慮要素について

たとえば、子供に知的障害がある、あるいは、標準的な学力水準に大幅に追いついていない、といった事実は、子供を学習塾に通わせる必要性を基礎づけます。

また、別居前から、学習塾や予備校などに通わせていたとの事実は、その費用につき、義務者(ここでは夫)に一部負担させるべきとの要素として働きます。

反対に、別居開始後に監護親(ここでは母親)が、父親に相談なく、学習塾に通わせるようになった等の事実は、その費用支出につき、夫の承諾がないため、夫の費用負担を否定する要素として働き得ます。

家庭裁判所の総合考慮

家庭裁判所は、上記のほか、父親の生活状況や学歴(及び学習塾利用の歴の有無)などを総合的に考慮して、非監護親に婚姻費用とは別に塾代などを負担させるかを判断します。

原則論的に認められくい費用ではあるものの、個別のケースにおける判断は、上記のような考慮要素を積み重ねた検討がなされます。

参考事例

たとえば、東京高裁の裁判例では、軽度の知恵的障害を有する子について、子供が軽度の障害を有していたこと、別居開始前から、夫が学習塾通学につき、承諾があったと推認できることなどを理由に、学習塾の通塾費用の一部を父親に負担させることが相当と判断した事例があります。

習い事について

では、ピアノや水泳などの習い事についてはどうでしょうか。また、英会話やプログラミングはどうでしょうか。

非監護親にも負担させるべきとされるのは限定的なケース

上記のような習い事についても、基本的には消極です。

ピアノや水泳など、純然たる習い事ついて

また、学習塾が、基本教育にかかる「学力」を補強する、あるいは「進学」を支えるための施設であるのに対して、ピアノや水泳などの習い事には学力補強などの意味合いはなく、学習塾のケースよりも、非監護親にこれを負担させるべき必然性、必要性は小さいと考えられます。

したがって、通常算定される婚姻費用の金額に加え、習い事の費用が非監護親の負担とされるケースは、相当限定的です。

習い事と学習塾の中間領域にある教育費用について

では、英会話やプログラミングはどうでしょうか。

これらの教育費用は、その一面において、純然たる習い事と学習塾との間の中間的な領域に位置する教育費用ともいえそうです。

こうした教育費用は、学習塾よりは、やや必要性を基礎づけにくい一方で、ピアノや水泳などと比較すると、必要性は基礎づけやすいともいえそうです。

ただ、それでも、こうした費用につき、通常算定される婚姻費用の金額に加え、非監護親の負担とされるケースは、やはり限定的な場合にとどまると思われます。

子どもが専門領域への進学を希望しているような場合

では、次のようなケースではどうでしょうか。

【両親がピアニストで、両親の希望で子供も音楽家に育てるためにピアノのレッスンに通わせていた、子供もピアニストになることを望み、現在は音楽高校に進学している、といったケース。】

このケースでは、純然たる習い事の場合と比較して、そのピアノレッスン費用の位置づけは、子供の将来にとって、あるいは両親にとっても大きく異なると言えます。

こうしたケースでは、学習塾と同等あるいはそれ以上に、費用支出の必要性が高いといえ、非監護親にも婚姻費用としてその費用を負担させるべき、と判断される具体的な可能性があるように思われます。

まとめ:習い事について

習い事に関する費用につき、通常算定される婚姻費用の金額に加算してが、非監護親の負担とされるケースは、概して限定的といえます。

他方で、上記のピアニストの家庭のように、習い事であっても、その費用負担が認められる一定の蓋然性があるケースも存在します。

結局のところ、いかなる費用をどの程度負担させるべきかはケースバイケースで判断していくことになります。ぜひ弁護士にご相談いただけますと幸いです。

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