養育費と財産分与に関する一考

今回、取り扱うのは、「財産分与に際して、子供の未払いの養育費は、財産分与に際して斟酌できるか」という点です。

「養育費は財産分与と別の制度であり、財産分与の対象にはならない」という趣旨の説明が一般的ですが、紋切り型にこのように言ってよいのか、という点に関する一考です。

財産分与の性格

財産分与の中核的な性格は、「夫婦財産の清算」を可能ならしめる制度であるという点です。

この点、「清算的財産分与」という言葉が使われることもありますが、これは、夫婦共同生活において発生した「財産」を分け合うという場面で機能します。

もっとも、財産分与の性格は、相当程度広がりを見せており、「扶養的な財産分与」「慰謝料的な財産分与」という言葉もあるように、「夫婦財産の清算」という場面でも財産分与は機能します。

これに加え、財産分与は、過去の「婚姻費用(≒夫婦間の継続的な生活費)を指します。)の清算」という機能も果たしうることから、このホームページでは、これらの財産分与につき、「4つの種類の財産分与」という形で整理をしました。

参照:4つの財産分与(3種類+1種類)

財産分与の性格と婚姻費用と養育費の性格の整理

上記に、財産分与は、過去の「婚姻費用(≒夫婦間の継続的な生活費)の清算」という機能も果たしうる、と書きましたが、これは、最高裁の判示に照らしても明らかです。

婚姻費用は、「離婚前」の夫婦の生活費を指しますから、「財産分与」の仕組みの中でその清算を図り得ることは、腑に落ちやすい面があります。

【昭和53年11月14日最高裁判決】
離婚訴訟において裁判所が財産分与の額及び方法を定めるについては当事者双方の一切の事情を考慮すべきものであることは民法七七一条、七六八条三項の規定上明らかであるところ、婚姻継続中における過去の婚姻費用の分担の態様は右事情のひとつにほかならないから、裁判所は、当事者の一方が過当に負担した婚姻費用の清算のための給付をも含めて財産分与の額及び方法を定めることができるものと解するのが、相当である。

他方で、「養育費」は、通常は、離婚後に発生する子供の養育費用と整理されます。

「離婚後に発生する費用である」という点は、「夫婦生活における財産の清算」という財産分与の中核的な性格からは離れてしまうため、婚姻費用とは別異に考えなければなりません。

ただ、次に述べるように、養育費の清算・分担の問題も財産分与の対象としうる、という見解は概念上、成り立ちえると思われます。

養育費の清算・分担も財産分与の対象としうるとの見解は成り立ちうる

上記に述べたとおり、養育費を、離婚後に発生する権利と整理すれば、「夫婦共同の財産の清算」という性格から外れてしまいます。

もっとも、前掲のように、財産分与の性格は、相当程度広がりを見せており、「扶養的な財産分与」すなわち、「離婚後に発生する費用の給付」も対象に含みうるとすれば、「離婚後に発生する費用」であることを理由に「養育費の清算」を財産分与の対象から外す必要は無くなります。

また、民法が、「離婚訴訟において裁判所が財産分与の額及び方法を定めるについては当事者双方の一切の事情を考慮すべきものである」としていることからすれば、「養育費の清算」を財産分与から外すことは、文言上難しいところでもあります。

したがって、養育費の清算・分担も財産分与の対象としうるとの見解は成り立ちえます。

宮﨑家庭裁判所平成5年2月12日審判

ここで、宮﨑家庭裁判所平成5年2月12日審判を紹介します。

この事案は、離婚前、別居中に「夫が子供の学費などを負担することとし」かつ、離婚後に、夫が子供らが大学を卒業するまでの学費などを負担する、との取り決めがあった事案ですので、必ずしも一般化はできませんが、次のように述べている点が参考になります。

【宮﨑家庭裁判所平成5年2月12日審判】
離婚後も一方が負担した子供の生活費、教育費及び今後も負担していくことが予想される同費用の負担も民法768条3項の「一切の事情」に含められるかが問題となるところ、これらの点は、本来、子の養育費の分担(あるいは扶養)の問題であり、特に将来の分担の問題は、過去の夫婦財産の清算とは若干性格の異なる側面もあるが、広い意味では、夫婦関係における経済的分担問題であり、紛争解決の効率性などに照らすと、これらの点も同条項の「一切の事情」に含まれ、財産分与において、これらの諸事情も斟酌しうると解する。

「斟酌しうると解する」との言葉を使っている点に、「裁判官が相当悩んだのではないか」と思われる判断内容ですが、この点はさておき、将来の養育費の分担の問題は、広い意味では、夫婦関係における経済的分担の問題であると述べており、養育費の清算を財産分与の対象として斟酌しうることを示すものと言えます。

対象となり得る場面

養育費を、離婚後に発生する費用であり、養育費に関する合意・財産分与に関する合意と離婚とが同時に行われている場合には、財産分与の制度の枠組みで養育費の問題を考える必要性はあまりないのかもしれません。

ただ、たとえば、離婚成立時、養育費・財産分与の取り決めもなく、後になって財産分与の請求がなされた、と言う場合、その時点までに発生した過去の養育費を、財産分与の枠組みで判断・検討する必要性が生じえます。

過去に生じた養育費について、過去に遡って請求することにつき、一定の法律上の障害があるからです。

なお、仮に未払養育費・過去の養育費を財産分与の枠組みで斟酌するならば、監護親の非監護親に対する分与額の減額あるいは、非監護親の監護親に対する分与額の増額などという処理で、2分の1ルールの修正が図られることとなると思われます。

参照:養育費をあとから請求できるか。過去分の請求の可否

参照:財産分与の清算割合(2分の1ルールとその例外)

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