4つの財産分与(3種類+1種類)

今回は、財産分与の種類について解説します。教科書的な説明だと、財産分与には、3種類の類型がある、と説明されますが、そのほか、婚姻費用との清算という視点を加えて、4種類に整理をしています。

 

3種類の代表的な財産分与

一般論として、財産分与には、次の3つの種類・類型があると言われています。

  1. 清算的財産分与
  2. 扶養的財産分与
  3. 慰謝料的財産分与

清算的財産分与について

清算的財産分与とは、夫婦が形成した夫婦の共同財産を離婚時に分け合うことを意味します。

制度全体の中では、中核となる考え方であり、一口に「財産分与」というときには、この清算的な財産分与を指すことがほとんどです。

たとえば、夫婦が10年の婚姻生活で、500万円の価値のある資産を形成していたところ、離婚に際して、この500万円を分け合うことを意味します。

考え方自体は、シンプルですが、夫または妻名義の財産につき、もともと婚姻前から存在した財産が含まれている場合は、何を財産分与の対象とするのか、をめぐってしばしば争点が生じます。

また、分与の割合につき、原則的には「いわゆる2分の1ルール」が採用されることが多くなっていますが、事案によっては、夫婦財産を50%ずつ分け合うのは不公平、といえるケースもあり、こうしたケースでは、分与の割合を巡って、争点が生じることもあります。

扶養的財産分与について

扶養的財産分与は、夫婦の一方の将来の生活のために、行われる財産分与です。

夫婦間において、収入のある側が、収入を得る見込みがなく、あるいは十分な収入を得る見込みの乏しい、他方配偶者に対して、離婚後一定期間金銭の支払いを行う形の財産分与となります。「共同財産の清算」ではないため、共同財産が無い場合にも妥当しうる概念です。

ただ、上記に述べたように、精度の中核となるのは、「清算的財産分与」であり、扶養的な財産分与が認められるのは、離婚後、幼い子を養育している妻に病気などの事情があり、すぐに経済的に自立のできる程度の収入を得られる見込みがない、といった事情がある場合など、比較的例外的なケースとなります。

また、離婚時の共同財産が潤沢にあり、これを分与すれば、収入が無い側の一方配偶者の生活を担保しうる、というケースでは、通常、扶養的清算分与は否定されます。

慰謝料的財産分与について

慰謝料的財産分与とは、夫婦の一方が被った精神的苦痛を加味して行われる分与のことを言います。

夫婦間で慰謝料問題が発生している場合に、共同財産の清算のなかで、慰謝料問題を一挙解決するのが当事者の意思に沿う、というような場合に採用されえますが、本来、財産分与請求と慰謝料請求は、別問題として扱うことも可能であるため、実務的な採用される例は多くないです。

慰謝料的財産分与が行われるケースとして想定されるのは、当事者間で、離婚協議書や離婚調停調書の「慰謝料の支払義務がある」などと明示されたくない、、これが明示されることに抵抗感がある、といった場合です。

 

婚姻費用の清算としての財産分与

上記に3種類の財産分与を紹介しました。その中核をなすのは、夫婦財産の「清算」であり、扶養的な視点・慰謝料的な要素がそこに入ることは多くありません。

むしろ、清算的な財産分与に加えて、+1として、別の要素を加味するとすれば、実務的には、次に述べる「婚姻費用の清算」という要素が多いのではないかと思われます。

財産分与では「一切の事情」を考慮しうる

民法は、離婚時の財産分与について、次のとおり定めています。

【民法768条3項】
「・・・家庭裁判所は、当事者双方がその協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮して、分与をさせるべきかどうか並びに分与の額及び方法を定める。」

概して言えば、裁判所は、分与の額や方法につき、「一切の事情」を考慮してこれを定めることができるのであり、この一切の事情として、未払いの婚姻費用を斟酌すべきではないか、という考え方です。

婚姻費用について

婚姻費用は、夫婦間の生活費のことを指します。通常、別居中、収入のある側は、収入のない側に対して、生活費の支払い義務を負担します。

この婚姻費用が、長期にわたって未払いであった場合、財産分与に際して、婚姻費用が未払いであったことが斟酌される余地が生じます。

ケースによっては、財産分与の割合(2分の1ルール)を変更すべき、という事案も生じます。

そのため、別居の上、離婚するというケースで、財産分与の額や割合を判断するに際しては、こうした過去の婚姻費用の支払状況なども、検討する必要が生じえます。

養育費についてはどうか

婚姻費用類似のものとして「養育費」があります。未払婚姻費用が財産分与に際して考慮されるなら、養育費も考慮されるのではないか、というのがここでの視点です。

まず、養育費は、非監護親(非親権者)が子を監護養育する親に対して支払うべきものですから、離婚と同時に財産分与が終わってしまっている、というケースでは、財産分与における「一切の事情」として加味することはできません。

他方で、離婚時に財産分与が行われていない、というケースでは、財産分与の額の判断時に未払養育費が存在することは観念されます。

そのため、未払養育費があることを財産分与の「一切の事情」として斟酌する余地も生じえます。ただ、未払養育費の清算は、婚姻生活中の財産の清算、という発想からは大きく離れるため、必ずしも婚姻費用と同列には扱えない面があります。

 

まとめ

以上、財産分与を類型化する際には、教科書などで説明される3種類に加え、婚姻費用の清算という視点を加え得ます。ご自身の財産分与について、検討される際には、上記の視点が思考の整理のお役にたてると幸いです。

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