特有財産とは?離婚時の財産分与の対象とならない財産

離婚の財産分与に際して、しばしば問題となるのが「特有財産」です。後述のとおり、特有財産は、財産分与の対象から除外されうるため、夫婦が有している財産の内、何が特有財産で、何が分与の対象となる財産なのか、を巡ってしばしば問題が生じるのです。

特有財産とは

特有財産とは、夫婦の一方が、相手方配偶者の寄与・貢献なく、個人で有する財産を指します。

特有財産となる財産の種類・種別は問われません。その財産の種類を問わず、その財産の取得経緯によっては、預貯金・金融資産・不動産その他の財産いずれも、特有財産となり得ます。

特有財産は財産分与の対象から除外される

財産分与は、夫婦の共同の財産を清算する仕組みであるところ、夫婦の一方が相手方配偶者の寄与・貢献なく個人で有する財産は、特有財産として、財産分与の対象から除外され得ます。

たとえば、夫婦で有している財産が300万円あり、このうち、100万円が妻の特有財産であるとすると、財産分与の対象となるのは、300万円から100万円を控除した200万円となります。

いわゆる2分の1ルールで処理すると、夫の取り分は200万円÷2で100万円となり、妻の取り分は100万円(分与額)+100万円(特有財産)で合計200万円となります。

特有財産の典型例

特有財産の典型例としては、たとえば、次のようなものが挙げられます。

結婚前から夫婦の一方が有していた預貯金・金融資産

結婚前から夫婦の一方が有していた預貯金・金融資産は、原則として特有財産として、財産分与の対象にはなりません。

結婚前から夫婦の一方が預貯金を有していた、というケースについては次の記事でも解説していますので、ご参照いただけますと幸いです。

参照:結婚前からの預貯金と離婚時の財産分与

結婚後、両親が他界した際、相続によって得られた財産

また、夫婦の一方が相続によって得た財産も、原則として、財産分与の対象にはなりません。

この点については、高松高裁昭和63年10月28日決定が端的に次のように述べています。

【高松高裁昭和63年10月28日決定】
一般に、夫婦の一方が相続によつて得た財産は、夫婦の協力によつて取得されたものでないから、夫婦が婚姻中に取得した他の財産と同一視して、分与の対象物件に含ませることは、特段の事由がない限り、許されないというべきである。

 

特有財産性の発生原因など

以下、特有財産の形成原因原因などについて説明をします。

特有財産の基本的な形成原因

「特有財産」は、夫婦の協力・貢献無くして形成された財産です。

夫婦の協力とは無関係に得られた財産であれば、それは当該個人の資産・財産と扱われます。

上記典型例で示した結婚前の預貯金や、相続財産は、夫婦生活とは無関係に、夫婦の協力とは関係なく得られた財産であるため、特有財産と評価されます。

※ なお、相当特殊な例ですが、婚姻後の就労によって得た利益が原資であるにもかかわらず、当該財産が個々人の特有財産とされることもあります。

参考:婚姻後の就労収入が原資であるのに、その財産が分与の対象外となるケース

一部につき特有財産性があるとされる場合

さらに、複雑なことに、ある財産の一部に特有財産としての性質が認められることがあります。

退職金の一部について

たとえば、夫が退職金制度のある会社で結婚前から働いており、結婚後も働いていた、というケースでは、退職金の一部に特有財産性があると評価されます。

結婚前の会社に対する貢献によって得られるべき退職金部分の請求権は、夫婦の協力とは無関係に得られた請求権だからです。

参照:財産分与の対象となる退職金の範囲

不動産の一部について

また、結婚前の預貯金を頭金に、結婚後、不動産を購入したという場合、不動産の価値の一部に特有財産性が認められ得ます。

不動産の価値の一部は、夫婦の協力とは無関係な結婚前の預貯金によって形成・維持されていると評価し得るためです。

なお、この場合においても、頭金の額がそのまま特有財産として評価されるのではなく、不動産の残存価値全体のなかで、頭金部分がどの程度寄与しているか、という観点で、特有財産の価値の評価が行われます(一例につき、後述)。

特有財産性が失われる場合

反対に、本来特有財産であったはずの財産につき、その後の経過により特有財産性が失われることもあります(あるいは特有財産の立証ができなくなってしまう場合も含む)。

たとえば、結婚前の段階で、一定額の預貯金があったとしても、婚姻期間中に、夫婦の共同財産に混在してしまい、特有財産が他の資産と切り分けられなくなってしまったケースです。

なお、この場合、当初の預貯金が特有財産として特定し、これを財産分与の対象から除外するという処理をすることはできません。

そこで、その手当として、その財産を財産分与の対象とする一方で、財産分与の「割合」(2分の1ルール)を修正する、という処理が行われることもあります。

参照:財産分与の清算割合(2分の1ルールとその例外)

参照:事例:分与割合夫64%:妻36% ~夫の固有の財産が原資であることを考慮~

また、ある財産、ここでは例えば、不動産としますが、結婚前から夫が有していた家屋につき、妻が、一人でこれを維持・管理するための努力を行っていた、というケースではどうでしょうか。

この場合、結婚当初は完全な特有財産であったとしても、離婚時に際しては、夫婦の協力で価値が維持・形成されていたものとして、その一部につき、特有財産性が失われたとの判断がなされることがあります。

なお、このようなケースにおいても、当該不動産を特有財産性の問題として処理しきれなくなるため、さらに、公平担保のため、財産分与の清算割合を変更するとの対応にての処理の要否が検討の対象となります。

 

特有財産に関する一般論を述べた判例

上記「特有財産」の概念につき、一般論を論じた裁判例がありますので、紹介します。特有財産の形成原因などが端的に示されています。

東京高判平成7年4月27日判決です。

【東京高判平成7年4月27日判決】

「婚姻期間中に得られた収入等により夫婦のいずれかの名義又は子供名義で取得した財産は、夫婦の共有財産に当たるもので、財産分与の対象となることは明らかである。」
「また、特有財産の換価代金と婚姻中に蓄えられた預金等を併せて取得した財産も夫婦の共有財産に当たるもので、財産分与の対象となるものであり、ただ、財産分与の判断をするに当たって、その財産形成に特有財産が寄与したことを斟酌すれば足りるものと言うべきである。」
「もちろん、婚姻中に取得されたものであっても、親兄弟からの贈与や、相続による取得物あるいは婚姻前から所持していた物又はそれらの買替物は、それを取得した配偶者の特有財産であって、財産分与の対象となるものではないことは当然であるが、他の配偶者がその維持管理に貢献した場合には、その事情も財産分与に当たって考慮されなければならない。」
上記の判断内容の内、「子供名義の財産」がについては、次の記事でも解説しています。

特有財産性をめぐる争いが生じた場合

夫婦の婚姻中に取得された財産あるいは財産の一部について、特有財産か否か、あるいは、ある財産の一部について、特有財産と評価すべき部分があるか否かが争いになった場合、その証明は、その財産ないしその価値の一部が特有財産であると主張・評価する者が証明責任を負います。

夫婦のいずれに属するか明らかでない場合は、夫婦の共有に属するものと推定されてしまうからです(民法762条2項)。

そのため、実際の実務に際して、特有財産性を主張する場合には、その主張をする側が、結婚前に当該財産を有していたこと、そこから財産が支出されていること等を金銭・キャッシュの動きを詳らかにしていく立証活動が必要となります。

この立証・証明ができない場合、婚姻中に取得された個々の財産は、夫婦の共有財産に属するものとして、財産分与の対象となります。

この点に関し、参考となるのは、前掲東京高等裁判所平成7年4月27日判決です。

前掲東京高等裁判所平成7年4月27日判決
「婚姻中に取得した個々の財産が各配偶者の特有財産であるか、それとも夫婦の共有財産に該当するかを判断するに当たっては、取得の際の原資、取得した財産の維持管理の貢献度等を考慮して判断しなければならないが、特段の事情が認められない場合には、夫婦の共有財産に属するものとして、財産分与の対象となるものと言わねばならない。」
民法762条(夫婦間における財産の帰属)
夫婦の一方が婚姻前から有する財産及び婚姻中自己の名で得た財産は、その特有財産(夫婦の一方が単独で有する財産をいう。)とする。
夫婦のいずれに属するか明らかでない財産は、その共有に属するものと推定する。

特有財産の認定が得られた場合の処理

ある財産が特有財産とされた場合、その財産は財産分与の対象から除外されます。具体例を見ていきましょう。

預貯金が特有財産とされる例

たとえば、離婚時の夫婦の財産が総額1200万円であり、妻が婚姻前に有していた500万円が特有財産としてそのまま残存している、というケースを念頭に置きます。

この場合、夫名義・妻名義の財産は、合計1700万円ですが、妻が結婚前から有していた500万円は財産分与の対象とならず、1200万円のみが分与の対象となります。

したがって、夫の取り分は、いわゆる2分の1ルールに基づいた場合、600万円ということになります。妻の取り分は、残余の1100万円(600万円+500万円)となります。

不動産の頭金が特有財産であった場合

次に、不動産の頭金が特有財産から支払われていた場合を念頭に置きます(この場合の計算方法にはいくつか議論がありますが、ここでは単純化して説明します。)

夫婦が、1000万円の不動産を購入した、その際、妻が頭金として200万円を結婚前の特有財産から捻出していたとします。不動産の離婚時の価値は500万円です。

この場合、不動産の価値は、離婚時に500万円まで下落しています。この場合においては、妻が頭金で支払った200万円が不動産の残存価値として化体しているのは「100万円」との評価が当たり得ます。

  • 不動産価値
    1000万円⇒500万円のみ残存
  • 頭金
    200万円⇒100万円のみ不動産の残存価値内に残っていると評価

そこで、このケースでは、不動産価値の500万円から100万円を特有財産とし、夫の取り分を200万円、妻の取り分を300万円とする分与の方法が妥当し得ます。

特有財産を巡る問題は弁護士にご相談ください

特有財産を巡る問題を解決するには、精緻な検討・証拠の精査が必要となります。

財産分与に際し、特有財産性が問題となる場合には、是非一度、弁護士にご相談ください。

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