夫婦が離婚する場合に、しばしば争点となりやすいのが、夫婦が子供の名義で貯めていた預貯金です。
財産分与は、夫婦の共同財産を離婚時に清算する仕組みですが、子供名義の預貯金が夫婦の共同財産といえるか、が争点となるのです。
財産分与の対象となるかは名義ではなく実質で判断する。
銀行や郵便局に預けている預貯金の口座の名義が子供の名義の場合、一見、その預貯金は子供に帰属し、「財産分与の対象にはならない」とも考えられます。
しかし、実際の社会的な慣習として、夫婦が、自分たちの財産を子供の名義で管理しておく、ということはしばしば行われています。
そのため、預貯金が「子供名義である」というだけでは、必ずしも、夫婦の「共同財産ではない」とは言えません。
預貯金が子供名義であったとしても、財産分与の対象となるか否かは、その原資や金額・積み立ての目的などに照らして、実質的に「夫婦共同の財産」であると言えるか、によって判断していくこととなります。
子供名義で預貯金のケース別取り扱い
未成年の子供名義で預貯金がなされる金銭としては、たとえば次のようなものがあります。
- お小遣、お年玉
- 各種祝い金
- 児童手当
- 子供の将来の教育費・学費
- アルバイト代
お小遣い・お年玉
お小遣い・お年玉は、親や親族などがすでに子供に与えた金銭です。
したがって、これらのお金を子供名義の口座に積み立てていたとすれば、その預貯金は、基本的には、子供の財産そのものと扱われす。
そのため、夫婦の共同財産からは除外して考えられ、財産分与の対象から外れます。
なお、反対に、子供が貰ったお小遣いやお年玉を、形式的に「親の名義の口座」に積み立てて貯金していたとしても、その実質は子供の財産であると判断され、やはり財産分与の対象から外れることが多くなります。
各種祝い金
結婚祝い金や入学祝い金などはどうでしょうか。これは、その祝い金贈与の趣旨によって判断していくことになります。
出産祝い金や入学祝い金が、「子供」に贈与されたものであると評価される場合には、お年玉と同様、財産分与の対象からは外れます。
他方で、これらの出産祝金や入学祝が、夫婦の経済生活を支援する、夫婦の共同生活を支援するいう趣旨で未成年の子の両親に贈与されたものである場合には、財産分与の対象となりえます。
出産祝い金
個人的な主観も含みますが、出産祝い金は、一般には、子供に贈与されたものではなく、未成年の子の親に贈与された金銭であると評価されることが多いです。
入学祝い金
他方で、入学祝い金は、ケースごとにその趣旨にて判断せざるを得ないように思われます。
「勉強頑張ったね」あるいは「入学後、学業頑張ってね」といった理由で、親族が子供に金銭を贈与したのであれば、それは子供の財産と評価されます。他方で、「いろいろと物入りだろうから」と親に贈与されたのであれば、それは、夫婦財産と評価されます。
その贈与の趣旨は、子供の年齢・金額などから判断していくことになりますが、一般的な慣習としては、前者の趣旨にて判断されることが多いのではないかと思われます。
児童手当
児童手当は、子供を養育する親に支給される公的給付です。
児童手当は、子供に支給されたものではなく、親が子供を養育するための費用として支給されているため、これを子供名義で管理していたとしても、特別の事情が無い限りは、夫婦共同の財産と評価されます。
なお、こうした金銭の積み立てについて、たとえば、「子供が成人をしたら、子供に渡そうね」との夫婦間での話し合いがあったとしても、子が成人する前の離婚に際しては、やはり財産分与の対象とされることが多いです。
子供の将来の教育費・学費
子供が将来大学などに進学する場合に備え、教育費や学費を、子供名義の口座で積み立てている、という夫婦は少なくありません。
ただ、これも、子供名義で積み立てているとはいえ、離婚前の時点では、通常、親の管理に属する親の預貯金としての実質を有しており、子供に帰属してえる、子供が自由に使える財産では有りません。
そのため、子供が将来大学などに進学する場合に備えて蓄えていた、教育費や学費は、一般的には財産分与の対象と判断される傾向にあります。
アルバイト代
未成年の子供名義で預貯金がなされる金銭としては、さらに、子供のアルバイト代などが考えられます。
これは、子供が自分の就労によって得た金銭ですので、子どもが、「親の家計を支える」という目的で家計にアルバイト代を繰り入れていた、等の特別な事情が無い限り、このお金は、夫婦の共同財産ではなく、子供固有の財産として扱われます。
したがって、基本的に財産分与の対象とはなりません。
内訳・区分が問題となることが多い
上記のように、子供名義の預貯金が財産分与の対象となるかは、実質的に夫婦の共同財産と言えるか、によって判断していくこととなります。
内訳・区分が分からなくなるケースがある
ただ、実際のケースでは、口座内預金が子供の財産か、夫婦の共同財産かが分からなくなる場合がしばしばあります。
たとえば、「子供が受け取ったお年玉と、夫婦の給料などを原資とした教育費用などを同一の口座に積み立てていた」というケースでは、離婚に際して、口座内の貯金の内訳が確定できるのか、子供の財産となる部分とそうでない部分とをそれぞれ区分できるのか等が問題となることがあるのです。
こうしたケースでは、過去の取引履歴を探って、金銭の動きを詳らかにし、夫婦が管理していた預貯金の内、子の固有財産の範囲を特定の上、財産分与の対象を確定していくこととなります。
子どもの財産の範囲を証明する必要が生じる
もっとも、銀行の取引履歴・明細などを遡って調査しても、子供の財産となる部分を把握・特定しきれない、というケースはでてきます。
たとえば、お年玉のほか、各種貯金が一つの口座で行われ、さらに、そこから、頻繁に出金がされている、というようなケースでは、その把握・特定は相当困難です。
では、子供の固有財産の範囲が証拠上、厳密に特定できない、という場合、財産分与の審判や離婚裁判では、どのような取り扱いがなされるのでしょうか。
実務・裁判所の判断枠組み
子ども固有の財産の有無や範囲について、離婚時に夫婦が合意できれば別ですが、子供の固有財産の範囲が証拠上、厳密に特定できない、という場合、財産分与の審判や離婚裁判では、次のように扱われる傾向にあります。
夫婦が、子供名義の口座を利用して(借用して)、夫婦財産を管理している口座内の預貯金については、「子の固有財産がある、含まれている」と主張する者が、証拠をもってこれを証明しない限りは、財産分与の対象とする。
ある審判例では「子名義の預貯金等は、子が所有する財産と認められない部分については、夫婦共有財産に含まれると解するのが相当」と判断しています。
この審判例の判断も、夫婦が管理していた子名義の預貯金については、子の固有財産であると主張する側が、子の固有の財産の範囲を証拠で立証する必要があるとの考え方にたつものと思われます。
子の財産の範囲が証明できない場合
上記の判断枠組みに従えば、夫婦が、子の名義を利用して、各種貯金を行っている、というケースにおいて、たとえば、子の親権を取得する見込みの妻が、「その貯金には子のお年玉が含まれており、これを財産分与から除外すべきだ」と主張する場合、妻において、口座への入金の時期・金額などから、「その口座に子供のお年玉が含まれていること」を証明していくことが必要となります。
先ほどのケースで、上記判断枠組みに従えば、妻が、その証明に成功しない限りは、当該預貯金は、夫婦の財産として、財産分与の対象になると判断されることになります。