財産分与の対象となる退職金の範囲

財産分与に際して、将来貰えるであろう退職金の清算が問題となることがあります。

「退職金そのものがない」会社・勤務先にて夫婦が勤務しているというケースや、アルバイト形態により労働を提供しており、「勤務先をやめても退職金が無い」というケースでは、分与の対象となる財産がないこととなりますので、そもそも退職金の分与は問題となりません。

他方で、退職金制度がある会社で働いている方、自治体の公務員の方等の離婚に際しては、しばしば、退職金の財産分与を巡る問題が生じます。

退職金は財産分与の対象となりえる。

退職金は財産分与の対象となるのでしょうか。まだ現実に受領していないし、会社での勤務を継続したまますぐに受領するのが難しい財産である点で、他の財産との違いがあるため、かつては議論がなされたこともありました。

退職金の性格と財産分与

労働者に対する退職金には、賃金の後払い的性格・功労報酬的性格があるとされます。

そして、財産分与の実務においては、夫婦の一方が、会社や勤務先に就労して労働力を提供できるのは、夫婦の協力によるものだ、という考え方が支配的です。

そのために、かつては裁判などで争われたことがあるものの、現在では、一般論として、退職金は、財産分与の対象になり得る、と考えられています。

東京地方裁判所平成11年9月3日判決

上記の点につき、東京地方裁判所平成11年9月3日判決は、次のように述べ、退職金が、清算的財産分与の対象でなる旨判示しています。

【東京地方裁判所平成11年9月3日判決】
「いわゆる退職金には賃金の後払いとしての性格があることは否定できず、夫が取得する退職金には妻が夫婦としての共同生活を営んでいた際の貢献が反映されているとみるべきであって、退職金自体が清算的財産分与の対象となることは明かというべきである」。

退職金と特有財産

上記にて、一般論として、退職金は財産分与の対象となり得る、と説明しましたが、実際の分与に際しては、退職金の内、どの部分が財産分与の対象となるのか、についてはさらに検討が必要です。

特有財産と退職金

夫婦の名義の財産の内、財産分与の対象とならない財産として「特有財産」というものがあります。

財産分与は、夫婦が共同で形成してきた財産を清算する仕組みであり、夫婦の協力とは無関係に形成された財産は、特有財産として、分与の対象となりません。特有財産の典型例としては、たとえば、「結婚前からの預貯金」があります。

そして、退職金については、この「特有財産」と言える部分の有無がしばしば問題となります。

参照:特有財産とは?離婚時の財産分与の対象とならない財産

退職金の内、財産分与の対象となる部分とそうでない部分

退職金の内、財産分与の対象となるのも、夫婦が共同で形成してきた、といいうる範囲に限られます。そのため、たとえば、次のような期間に該当する期間に応当する部分の退職金は、特有財産として財産分与の対象から除外されます。

  • 結婚前の期間
  • 夫婦関係が破綻して別居した後、離婚迄の期間

結婚前の期間について

夫が結婚前から就労をしており、結婚後も同一の会社で継続して就労をした、というケースを考えてみます。

このケースでは、結婚後、夫は、家事や育児に対する協力を得て、労働を提供したと言えるため、結婚後の期間に形成された退職金は、財産分与の対象となり得ます。

他方で、結婚前の期間、独身時代に働いていた期間に形成された退職金は、夫婦の協力とは無関係ですので、結婚前の預貯金と同様、特有財産として、財産分与の対象から除外して考えることになります。

夫婦関係が悪化して別居した後、離婚迄の期間

また、夫婦関係が破綻して、別居した後の期間についても同様のことが言えます。

夫婦関係が破綻し、別居をしたことによって、互いが協力しあう、という関係が失われた後、夫が就労をして形成した退職金は、夫婦の協力がない状況下において、夫が形成した財産です。

そのため、夫婦関係が破綻し、別居をした後に形成された退職金は、財産分与の対象から除外して考えます。

ポイントは、夫婦の協力が観念される期間の退職金か否か

財産分与の対象となる退職金の範囲を考えるうえで、ポイントとなるのは、退職金の形成につき、「夫婦の協力があったと観念されない期間」の有無です。

上記に挙げた「結婚前の期間」「夫婦関係が破綻して別居した後、離婚迄の期間」は、その典型例ですが、たとえば、数度にわたる別居と同居を繰り返していた、というケースでは、その別居期間中の協力の有無・程度によっては、離婚直前期の別居以外の期間も退職金の算定から除外すべきだ、という主張が成り立ちえます。

また、たとえば、夫婦関係が悪化していなくとも、夫が日本で就労すると同時に、家事・育児全般をこなしている一方で、妻が海外で留学をし、勉強をしていた、その間の生活費は夫が妻に送金していた、というようなケースでも、その留学期間中に形成された退職金は、財産分与の対象外である、との主張が成り立ちえます。

こうした主張を裁判所が受け入れるか否かは、ケースごとの判断となりますので、断定的には言えないものの、財産分与の対象となる退職金の範囲を検討する際には、「夫婦の協力が観念される期間に形成された部分はどこか」という視点で検討することが重要です。

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