事例:分与割合夫64%:妻36% ~夫の固有の財産が原資であることを考慮~

夫婦生活において、夫婦共同の財産が形成された場合、その財産は、原則として2分の1が分与の対象となります。もっとも、夫婦の一方の特有財産が共同財産の形成に寄与・貢献している場合、その事情は、財産分与の清算割合を変更させる事情となりえます。

特有財産の貢献と財産分与

財産分与は、夫婦の共同財産を公平に分け合う、という仕組みです。ここにいう夫婦の共同財産とは、夫婦双方の全体財産の内、個人に帰属すると考えるべき特有財産(夫婦の協力とは無関係に形成された財産)を除外したものを指します。この特有財産は、財産分与の対象とはなりません。

たとえば、全体財産が300万円あり、内100万円は、結婚前から夫が有していた特有財産である、という場合、財産分与の対象となるのは全体財産から200万円(300万円-100万円)となります。

参照:特有財産とは?離婚時の財産分与の対象とならない財産

特有財産が形を変えている場合

上記のように、特有財産が結婚前の状態のままそのまま残っている、と言う場合はもっともシンプルですが、実際のケースにおいては常にこうした処理ができるわけではありません。特有財産が形を変えている場合もあります。

形を変えて全て残存している場合

たとえば、夫が婚姻前から有していた預貯金で、学資保険を全額賄った、といったケースです。この場合、夫が婚姻前から有していた特有財産である預貯金が学資保険に形を変えています。

もっとも、このケースでは、預貯金とという特有財産で、学資保険の保険料が全額支払われているため、預貯金が学資保険に形を変えたもの、との評価が可能であり、、学資保険はなお特有財産として扱われ得ます。

特有財産が形を変え、かつ、範囲が特定できない場合

もっとも、実際の財産変動はさらに複雑で、特有財産が形を変え、かつ、特有財産の残存部分を特定できない、というケースもでてきます。

想定ケース

たとえば、夫が婚姻前から有していた預貯金の一部が、夫婦で購入したA不動産の頭金として使用され、さらに、夫婦共同生活中にA不動産が売却され、その売却代金の一部をもって、B不動産と車が購入され、さらに残部は学資保険の支払いに充てられたところ、車が事故で廃車となった、という場合はどうでしょか。

特有財産の特定ができないと全額が財産分与の対象

こうした場合、残存財産B及び学資保険の価値のうち、夫が当初に支出した預貯金がどの程度・範囲で残っているか、必ずしも特定できないかもしれません(特有財産が寄与していることは明らかであるが、残余財産のどの部分・範囲が特有財産か分からなくなる)。こうしたケースでは、特有財産の範囲は特定・認定できないので、夫婦財産の全額が財産分与の対象となります。

公平性の担保のための分与割合の変更

他方で、当初の夫の頭金が夫婦の共同財産の形成に寄与しているのも事実です。

そこで、財産分与の割合を変更しなければ公平とは言えないのではないか、2分の1ルールを修正しなければならないのではないか、という価値判断が生じえます。

参照:財産分与の清算割合(2分の1ルールとその例外)

平成7年4月27日東京高等裁判所判決

前置きが長くなりましたが、夫婦の一方の特有財産が原資となったことが、財産分与の割合に影響を与えうることを示した一例が、次に述べる平成7年4月27日の東京高裁判決です。

この判決では、夫婦共同の財産は、7020万円とされているものの、夫の特有財産であった金融資産が、夫婦で購入した不動産などの原資となったとされ、分与割合が変更・修正されています。

結論 妻に36パーセントの分与

この判決は、次のように述べて、結論として妻に36パーセントの分与をするのが相当と判示しました。

【平成7年4月27日東京地方裁判所判決】 控訴人=夫 被控訴人=妻
「被控訴人が控訴人の特有財産及び夫婦共有財産の維持管理に当たって貢献を果たしているものの、ゴルフ等の遊興に多額の支出をしていて、夫婦財産の形成及び増加にさほどの貢献をしていないこと、夫婦共有財産形成には控訴人の特有財産が大きく貢献していること、別居後の双方の住居その他の生活状態、特に、別居中の生活費は双方でそれぞれ負担したほか、○○の養育費を被控訴人が負担したこと、財産分与の対象としてはいないが、被控訴人が本件以外にも夫婦共有財産とみなすべき財産を所持している可能性が疑われること等本件の諸事情を考慮すると、財産分与の対象となる金額の約3割6分に相当する2510万円を被控訴人に分与し、その余を控訴人に分与するのが相当である。」

 

理由 原資となった特有財産による資産形成とその他の事情を比較

まず、この判決では、「3割6分」という細かな割合を判示した点が、目を引きます。ただ、「35%」ではなく、「36%」とする厳密な理由はないと思われます。

上記判示の中で、夫である控訴人側の事情として挙げられているのは、「夫婦共有財産形成には控訴人の特有財産が大きく貢献している」という点です。

この判決では、それ以外にも、被控訴人が遊興に多額の支出をしていること、裁判に現れていない資料を有している可能性があること、などが認定されています。

そのため、、「夫婦共有財産形成には控訴人の特有財産が大きく貢献している」との事情がどの程度の影響力をもって斟酌されているのかは必ずしも明らかではありませんが、特有財産が夫婦資産形成の原資となった場合に、2分の1ルールが修正される例の一つとして参考になります。

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