事例:財産分与割合=夫40%:妻60% ~共働き夫婦における妻の家事・育児を評価~

財産分与における清算割合については、原則的には2分の1ルールが妥当します。

夫婦の協力で形成された財産は、共同の財産であって、それぞれ等分で分け合うのが、公平・平等という考え方に基づきます。もっとも、例外的に、このルールが修正されることがあります。今回、紹介するケースもその一例です。

家庭生活における夫婦の協力

財産分与に際しては、現に生活費を得るという「就労」のみならず、「家事・育児」も家庭生活維持のための夫婦の協力と評価されます。

就労と家事・育児

「家庭」を維持する上で、経済的に必要となるのは、生活費です。

その生活費の確保として、最も代表的な手段となるのは、「就労」です。

他方で、家庭を維持するためには、「家事」(炊事・洗濯・掃除その他)を行うことが必要となるほか、子供がいる場合には「育児」も必要となります。

「育児」には上記家事以外にも、教育・子供の習い事・子供の遊び相手になることの他、保育園・幼稚園への通園への送り迎え、事務対応などが含まれます。

原則として2分の1

たとえば、夫婦がその合意のもとで、上記の内、夫の主として就労を行い、妻が主として家事・育児を行う、という家庭を作った場合、財産分与の割合は、原則的には2分の1ずつ、と判断されます。

この場合、抽象論を含みますが、夫が就労に専念できるのは、妻の家事・育児への寄与があるからであり、他方で妻が、生活費を得るために働くことなく、家事・育児に専念できるのは、夫が終了によって生活費を得て、これを家計に繰り入れていることによるものと考えることが可能です。

この家庭において形成された夫婦の財産は、夫婦の双方の協力の下で得られた財産と言え、原則的には、これを等分するのが公平の理念に資するといえます。

そこで、夫が就労し、妻が専業主婦という形態の家庭でも、その貢献度を等しく見て、財産分与の割合は2分の1ずつとされるのです。

参照:財産分与の清算割合(2分の1ルールとその例外)

協力・貢献の程度が異なる場合

上記の通り、財産分与に際して、夫婦の貢献度が等しい、との評価が妥当し得る家庭であれば、分与割合を2分の1ずつ、とするのが公平の理念に沿いますが、実際には、夫婦の貢献度が等しくない、差がある、といったケースもでてきます。

たとえば、共働きの家庭で、夫も妻も、週5日間、一日平均8時間働き、その収入の程度もほとんど同じである、という家庭において、夫は、家事・育児をまったくしないが、妻は、朝早く起きて、炊事・洗濯を行い、仕事が終わった後、子供の宿題をみたり、学校へのプリント・連絡の整理をし、さらに食事をつくっている、合間合間には掃除も行っている、子供をお風呂に入れるのも妻である、といったケースではどうでしょうか。

このケースでは、家庭生活の維持という面で、妻の貢献度が夫よりも大きくなります(妻の就労+妻の家事・育児)。仮に妻の収入が夫の収入よりも大きいとなれば、なおさらです。

こうしたケースでは、その貢献度を等しく見ることができないために、財産分与の清算割合を妻有利にしたほうがいいのではないか、という判断がなされうるのです。

東京家庭裁判所平成6年5月31日審判

東京家庭裁判所平成6年5月31日審判は、夫婦双方が画家・作家として活動していた、というケースで、清算的財産分与の清算割合につき、一方が6割・一方が4割と判断しています。

結論:妻6割:夫4割

この審判は次のように述べています。

【東京家庭裁判所平成6年5月31日審判】 申立人=妻 相手方=夫

清算的財産分与の清算割合は、本来、夫婦は基本的理念として対等な関係であり、財産分与は婚姻生活中の夫婦の協力によって形成された実質上の共有財産の清算と解するのが相当であるから、原則的に平等であると解すべきである。
しかし、前記認定の申立人と相手方の婚姻生活の実態によれば、申立人と相手方は芸術家としてそれぞれの活動に従事するとともに、申立人は家庭内別居の約9年間を除き約18年間専ら家事労働に従事してきたこと、及び、当事者双方の共同生活について費用の負担割合、収入等を総合考慮すると、前記の割合を修正し、申立人の寄与割合を6、相手方のそれを4とする。

 

理由 妻の家事・育児を評価

この審判では、夫と妻が共働きであったことを認定しつつ、妻が、家事労働に従事していたことや双方の収入などから、妻の取得割合を、6割と判断しました。

なお、妻の申告所得は、認定されているだけで、少なくとも年400万円を超えており、多いときでは1000万円を超えています。その一方で、夫の申告所得額として認定されているのは、およそ100万円強~250万円程度です。

所得自体、妻の方がほぼ倍以上に至る為、夫婦共同財産の清算につき妻の貢献度が高い、との判断がなされる基礎事情があったと言えますが、そこに「家事労働」の要素が加算されて認定されている点が参考になります。

なお、夫婦の収入に格差があること、妻が家事労働に従事していたことが認定されていることからすると、この事案では、6対4ではなく、もっと大きな差をつけてもいいのではないか、と思われるかもしれません。

ただ、この事案で、裁判所は、当該夫婦の財産管理などの特殊性から、婚姻後に妻が妻名義で有していた預貯金(大)、夫が夫名義で有していた預貯金(小)につき、それぞれ共同財産ではなく、各自の固有の財産と評価され、財産分与の対象から除外する、との判断をしています。

「夫婦共同財産に含めない大きな財産を妻が固有で取得している」と判断した兼ね合いにおいて、共同財産につき、分与割合を6対4にするにとどめ、全体的な均衡・公平を図ろうとしたものと考えられます。

参考:婚姻後の就労収入が原資であるのに、その財産が分与の対象外となるケース

>北九州の弁護士ならひびき法律事務所へ

北九州の弁護士ならひびき法律事務所へ

CTR IMG