今回は、離婚時の清算的な財産分与に関し、夫の能力・特有財産が、莫大な資産の貢献に寄与したという事案を紹介します。
結果として、裁判例では、夫95%、妻5%という割合の判断がなされています。
ビジネス上の才覚や特有財産の寄与は2分の1ルールの修正要素となり得る
離婚時の清算的な財産分与については、いわゆる2分の1ルールに基づいて判断されることが多いです。
ただ、これは、財産形成に対する夫婦の寄与が、一般的には50%ずつ、と考えるのが合理的である、という価値判断に基づきます。
他方で、一方当事者の財産や才覚・能力が財産形成に大きく寄与している場合には、この割合は修正され得ます。
今回紹介するのは、夫が、A社、I社を初めとする多くの会社の代表者であって、社団法人、財団法人等の多くの理事等を占める、成功した経営者、財界人であったという事例です。
夫婦共同財産は約220億円と認定されているところ、結果としてその約5%に該当する範囲で、妻の取り分が認められました。
東京地方裁判所平成15年9月26日判決
ご紹介する事案は、東京地方裁判所平成15年9月26日判決のケースです。
結論:清算割合につき夫95%、妻5%と判断
裁判所は、この財産の形成について、次にように述べ、妻の取得割合を5%(夫側は95%)としました。
【東京地方裁判所平成15年9月26日判決】 被告=妻 原告=夫
「被告は、A社、I社を初めとする多くの会社の代表者であって、社団法人、財団法人等の多くの理事等を占める、成功した経営者、財界人である原告の、公私に渡る交際を昭和58年頃から平成9年頃までの約15年に亘り妻として支え、また、精神的に原告を支えたことからすると、間接的には、共有財産の形成や特有財産の維持に寄与したことは否定できない。」
「なお、この点に関し、原告は、被告が原告の交際を助けた点については、直接利益に繋がるものではなく、経営者、財界人としての社会的責務を果たしたボランティア的なものに過ぎず、原告の財産形成に対しての寄与はまったくなく、むしろ経済的には損失である旨主張する。」
「しかし、その社会的責務は、成功者である経営者、財界人としての原告の地位に当然伴うものであること、それを果たさないことは、成功者である経営者、財界人としての原告の地位を脆弱とする危険性も否定できないこと、原告が、被告が社会的責務を果たすことを要請し、具体的な指示もしていることからすると、その社会的責務を共に果たした被告は、間接的には、原告の財産維持、形成に寄与していると解される。」
「しかし、他方、前記認定のとおり共有財産の原資はほとんどが原告の特有財産であったこと、その運用、管理に携わったのも原告であること、被告が、具体的に、共有財産の取得に寄与したり、A社の経営に直接的、具体的に寄与し、特有財産の維持に協力した場面を認めるに足りる証拠はないことからすると、被告が原告の共有財産の形成や特有財産の維持に寄与した割合は必ずしも高いと言い難い。」
「そうすると、原被告の婚姻が破綻したのは、主として原告の責任によるものであること、被告の経歴からして、職業に携わることは期待できず、今後の扶養的な要素も加味すべきことを考慮にいれると、財産分与額は、共有物財産の価格合計約220億円の5%である10億円を相当と認める。」
理由:莫大な資産形成に対する妻の貢献は間接的
上記の判旨中、裁判所は、共有財産の原資のほとんどが夫の特有財産であったと判断しているほか、その運用・管理に携わったのも原告であると認定しています。
さらに、裁判所は妻が、共有財産の取得に寄与したり、会社の経営に直接的・具体的に寄与したと認めるに足りる証拠はない、としています。
これらの認定から、裁判所は、夫が莫大な資産を形成は、主として、夫の特有財産及び会社の経営・管理によるものと判断していることは明らかです。「才覚」や「能力」という表現は出てきませんが、夫を成功した経営者、財界人である、と評価していることからも、夫にビジネス上の才覚ともいえる能力があったものとの評価が基底にあったとも考えられます。
他方で、このケースにおいて、裁判所は、妻の寄与については、「精神的に夫を支えた」「財界人たる夫の妻として、夫の社交を助けた」などの点に触れ、間接的に、原告の財産維持・形成に寄与した、と評価をしています。
この評価に関して、「夫の指示があった」「妻の社会的責務は経営者たる夫の地位に当然伴う」などと述べている点は、純然たる労務提供とは言い難い妻の貢献につき、曲がりなりにも労務提供的な性質評価をあたえて記述に説得力を持たせる、というためのものかもしれません。
この寄与につき、「5%」という割合を介して、金額にして10億円との分与がなされている部分をどう評価するかは、人それぞれ意見が分かれるところですが、「物質的な支援・純然たる労務提供がなく、精神的・間接的な支援であっても、妻の資産形成に対する貢献を認める」という点は、裁判所の考え方を把握する上で、参考になります。