財産分与の基準時とは

離婚時の財産分与に際しては、財産分与の対象を確定するにあたって、「基準時」という概念が重要になります。

財産分与の基準時とは

財産分与の基準時とは、財産分与の対象となる夫婦の共同財産の範囲を確定するための特定の時点を指します。

夫婦の共同財産の内容・金額は、一日一日と変動していくため、ある特定の時点をもって、財産を確定する基準とし、これを財産分与の対象とするのです。

たとえば、3月1日時点で夫婦共同財産が400万円あり、これが9月1日の時点で500万円となったという場合、3月1日を基準時とすれば、400万円が財産分与の対象となる一方で、9月1日を基準時とすれば、500万円が財産分与の対象となります。

一般的には、別居時が基準時とされることが多い

離婚前に別居をしている場合、一般的に基準時とされることが多いのは、別居開始時です。

別居開始時が基準時とされる理由

別居開始時点が基準日とされることが多いのはなぜでしょうか。

財産分与の対象となるのは、夫婦の協力によって維持・形成された財産です。

そして、夫婦関係が悪化し、別居が開始した後は、その後に形成された財産は、夫婦の協力によって得られた財産とは言い難く、通常は、各人が独自に形成した財産との評価があたりえます。

そこで、離婚前に別居が開始している場合に「別居時」がしばしば財産分与の基準時とされるのです。

たとえば、3月1日に別居が開始され、その時点で夫婦共同財産が400万円あり、9月1日の時点で夫婦双方の財産の合計額が500万円となったという場合でも、基準時を別居開始時点と考えれば、財産分与の対象となるのは、400万円ということになります。

「基準時」の設定は夫婦財産確定のための手段にすぎない

注意を要するのは、基準時の設定は、夫婦財産確定のための手段にすぎない、という点です。「目的」は夫婦財産の確定であり、手段が基準時の設定という関係に立ちます。

別居がしばしば基準時とされるのは、別居以後の夫婦共同の財産形成が観念しにくい、という理由によるものにすぎません(別居開始時点が、他の事情と比較して、相対的に財産区分の明確性が高く、かつ夫婦の協力の喪失を観念しやすいからにすぎない)。

そのため、別居開始時点を基準日とする、という手段によって、夫婦の共同の財産を確定するとの目的を達成できない場合には、これを例外的に修正することもあります。

別居開始時を基準日とすることの修正・例外

上記に述べた通り、離婚前に別居が開始されている場合、別居開始時を基準日とすることが多くなっていますが、例外的にその修正を図ることもあります。

ここでは、次の2つにつき説明します。

  • 同居と別居が繰り返されている場合
  • 当初単身赴任にて、途中から夫婦関係が破綻した場合

同居と別居が繰り返されている場合

「離婚直前期の別居開始時点」を基準日としたうえで、例外的に修正を図る場合としては、たとえば、同居と別居が繰り返されている場合

たとえば、夫婦関係が悪化したり、改善したり、にともなって、同居と別居が繰り返されている、というようなケースでは、離婚直前期の別居開始時点を基準日と考えた上で、かつての別居期間中に形成された財産につき、これを財産分与の対象から除外する、という修正が図られることがあります。

当初単身赴任にて、途中から夫婦関係が破綻した場合

また、たとえば、当初は、単身赴任などで別居を開始したにすぎず、夫婦相互に協力し合っていたが、別居期間中、一方当事者の浮気が原因で婚姻関係が破綻した、と言う場合も別途検討が必要です。

この場合、単に、単身赴任による別居開始時点を基準日とするのでは、その後の夫婦関係破綻までに形成された財産を捕捉できません。

そこで、こうした場合には、単身赴任による別居開始時点ではなく、浮気が発覚して婚関係が破綻した時期まで基準日を遅らせる、あるいは、基準日を別居開始時点としたうえで、夫婦関係破綻後に形成された財産を除外する、という処理ができないかを検討していくこととなります。

別居が行われていない場合

また、そもそも、離婚前に別居が開始されていない場合、別居開始時を基準日とすることはできません。

離婚時点や調停申立時点が基準日とされることが多い

離婚前に別居が行われていない場合、夫婦関係の協力によって得られた財産を確定するために基準日としては、「夫婦関係の協力が無くなった日」を特定することが難しいため、「離婚時点」(協議離婚のケース)や「離婚調停の申立時点」(調停離婚のケースなど)などが設定・採用されることが多いです。

家庭内別居の場合

家庭内別居の場合でも、基準日としては離婚時点(協議離婚のケース)や離婚調停の申立時点(調停離婚のケースなど)などが採用されることが多くなっています。

ただし、たとえば裁判離婚等に至ったケースでは、証明のハードルは相当高いものの、夫婦共同財産と各自の財産とが明確に区分でき、かつ、ある時点から、夫婦の協力が何ら観念できなくなった、という時点につき、これを証拠により証明可能であれば、当該時点が基準日とされる可能性があります。

 

基準日概念のポイント

「財産分与に係る基準日」の概念のポイントは、繰り返しになりますが、基準日の設定は、分与の対象となる財産を確定するという目的を達成するための手段である、という点です。

基準日の設定そのものは、財産分与と言う課題を解決するために、「その時点から夫婦の協力は無くなったと言っていいだろう」というある種のフィクションを設定しているにすぎません。

そのフィクションにつき、「別居開始時点」を設定することが他の手段と比較してご合理的であることが多いため、離婚前に別居が行われている事案では、しばしば、別居開始時点が基準日に設定されるのです。

基準日を設定する、あるいは基準日に関する主張を行う際には、ケースによっては、「基準日=別居開始時点」と思考を停止させることなく、夫婦財産の確定という目的達成のために他に考えられる方法はないか、を検討することが重要となります。

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