事例:財産分与割合=夫30%:妻70% ~妻の労働・養育の労を高く評価する一方で、夫の貢献の低さを考慮~

実務では、事実上、離婚時の財産分与に際して、その割合は2分の1である、との原則が働きます。ただ、これは、財産形成に対する夫婦の寄与・協力が通常は、ともに等しい、と考えるのが両性の平等という理念に沿うからです。

この財産形成・寄与に対する貢献の程度に大きな差があれば、この2分の1ルールは変更・修正され得ます。

財産形成・寄与の程度は、夫と妻との比較における相対評価

財産形成・寄与の程度がどの程度かは、夫と妻の財産貢献の程度における相対評価によって定まります。

形式ロジックで申し訳ないのですが、財産形成について、夫の貢献が大、妻の貢献も大といえるときは、2分の1ルールの修正は図りがたいですし、双方の貢献の程度が互いに小、と言える場合も同様です。

2分の1ルールの修正が図られるのは、夫の貢献が妻の貢献に比して、顕著に大きい、とか、妻の貢献が夫の貢献に比して、顕著に大きい、といえる場合です。

そして、たとえば、妻がこうした大小関係を基礎づける主張をする場合、妻側の主張は大きく二つに分かれます。

  • 自分の貢献が多大であると主張すること
  • 相手の貢献が無いとかマイナスであるなどと主張すること

財産分与における寄与・割合の修正の主張は、概して、この二つから成り立ちます。

松山西条支部昭和50年6月30日判決

今回紹介する松山西城支部昭和50年6月30日判決は、上記の主張の組立てが非常に分かりやすいケースです。

結果 妻70%:夫30%

上記判例は、夫婦財産につき3387万3805円と認定した上で、次のような理由を挙げて、妻の取得割合を70%としています。なお、古い裁判例であるため、読みやすいように当ブログで必要な範囲で体裁を修正して記載します。

【松山西条支部昭和50年6月30日判決】 原告=妻 被告=夫

裁判所の評価要素

  • 夫婦の共同の財産は、「主として原告の内職から始まり原告がおよそ一五年以上に亘り黙々と築き上げてきたものであって、その労を多とするものである」
  • 他方で、「被告は女狂いが多く、しかも飲酒の上、原告に暴力を振い、遊興にふけることが往々で、右資産の構築には余りみる努力はなかった」
  • 「被告の暴力に追われた原告は昭和42年当時、16才であった長女、13であった長男を連れて別居し、その後は全く独立した生活を強いられていたところ、二人の子供を大学に進学させる等成人に達するまで殆んど独力で養育し、その経済的努力にも並々ならぬものがあった」
  • 原告が、独立してからも「プロパンガス販売業を続け、現在に至るまでに」一定の不動産を取得するに至っている」一方で、被告が夫婦共同の財産である不動産に愛人とともに生活を共にし、その間に一子を設け、原告とは別にプロパンガス販売業を営んでいること・・・(以後、一部省略。)

裁判所の判断

原告の長期間忍従を強いられながら夫婦財産を構築してきたその尽力の程度、子の養育に捧げてきた費用等諸般の事情を考えるとき」、「その七割方」を「原告に分与させるのが相当である」

理由 妻の努力と夫の貢献の低さを相対的に評価

この裁判例は、財産貢献につき妻の努力が大きかったこと、妻が子供を養育しており、家事・育児という面でも多大な貢献をしていたことを修正要素の一つにしています。

2分の1ルールの修正要素の典型例として、個々人の「能力・才能」などが挙げられることがありますが、「能力・才能」ではなく、個々人の「不断の努力」も、修正要素となりえることを示す例として参考になります。

他方で、夫側の要素としては、夫が女遊び、遊興にふけっていたことなどを認定しており、夫婦財産の形成への貢献・寄与度が低かった旨判示しているものといえます。5割⇒7割という修正は比較的大きな修正ではありますが、妻の努力と比して相対的に見れば、夫の貢献が極めて低い、という評価がなされたものと考えられます。

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