婚姻費用の支払い義務者が権利者の生活費の一部を負担している、というケースがあります。
たとえば、夫を義務者とするケースで、夫の名義のクレジットカードで妻が居住する家屋の光熱費や電話代、インターネット利用料などを支払っているといったケースです。
権利者の生活に直結する費用支出は婚姻費用の分担額から控除される
夫を義務者とするケースで、妻の生活費の支払いがなされている場合、その一部は、婚姻費用算定に際して控除の対象となりえます。
生活費には、多種多様な費用が含まれますが、その費用支出が、権利者の生活に直結する費用支出といえるか否かが一つの判断の目安となります。
一般に、控除の対象となると考えられている費用
一般に、控除の対象となると考えらている費用は次の通りです。
権利者居住家屋の光熱費
権利者が居住する家屋の電気料金や水道料金・ガス料金は、義務者の婚姻費用の算定に際して控除の対象となりえます。
通信費用(携帯電話代・インターネット費用)
権利者のために義務者が負担している携帯電話の通信料やインターネット費用も控除の対象となりえます。
通信費とは毛色が違いますが、たとえば、ネットフリックスやアマゾンプライムなど、義務者の居住する家屋で費消されるサブスクリプションサービスも控除の対象となりえます。
権利者が使用する車両費
上記のほか、権利者が使用する義務者名義の自動車のガソリン代は控除の対象となります。
また、自動車保険料(自賠責・任意保険の保険料)も、権利者の生活に必要な費用として、控除の対象になりえるところです。
その他の費用などについて
家賃やマンションの管理費、学費、学習塾をめぐる費用などについては、次の各記事をご参考いただけますと幸いです。
- 参考:婚姻費用と義務者の家賃をめぐる問題
- 参考:婚姻費用から「マンション管理費/修繕積立金/駐車場代等」を控除できるか
- 参考:婚姻費用と私立学校などの学費・授業料の負担について
- 参考:婚姻費用と学習塾費用・習い事代について
控除の対象となりにくい費用
他方で、権利者居住家屋に要する費用であっても、控除の対象となりにくいものがあります。
たとえば、夫名義の家屋に妻が居住している場合における「火災保険料」や当該不動産の「固定資産税」については、義務者の資産の維持のための費用としての側面があり、義務者が支払うべき婚姻費用から控除の対象とはされにくい費用です。
婚姻費用の調停・審判に際して整理することも検討
婚姻費用の調停・審判に際して、権利者(たとえば夫)が義務者(たとえば妻)の生活費の一部を負担しているという場合、上記のような生活費の控除が必ずと言っていいほど争点となります。
実際の調停・審判手続では、この調査・資料の提出・審理に相当程度の審理時間が割かれるほか、光熱費や通信料などの費用が一定せず、控除すべき金額をめぐる争点も生じ得ます。
夫か妻の居住する家屋の光熱費を負担しているというだけでなく、これに加えて、妻のクレジットカードから、夫の通信料が支払われているなどのケースであれば、さらに紛争が錯綜します。
事前に整理することが必ずしも難しいものもありますが、婚姻費用の調停・審判に際しては、各自の生活費のうち、どちらの負担とすべきか明確なものについては、整理を進めておくのも一つの選択肢です。