夫婦が別居している場合において、婚姻費用をめぐりトラブルとなることは少なくありません。
概して、収入の多い方の配偶者が、収入の少ない方の配偶者に、双方が同等の生活を送るために必要な生活費を支払う必要があります。
この婚姻費用の分担をめぐり、婚姻費用を受け取る側がマンションに住んでいるとき、そのマンションに居住するために要した費用の扱いをどうするか、が争点となることがあります。
具体的には、支払うべき婚姻費用から、権利者が住むマンションの管理費などを控除することができるかという問題です。
マンションに居住する場合に必要な費用
マンションに居住するために、たとえば次のような費用が必要となります。
- マンション管理費
- マンションの修繕積立金
- 駐車場・駐輪場の月極費用
その他、マンションのローンが未完済の場合には、そのローンの処遇が問題となりますが、この点は複雑な問題となるため、今回は割愛します。
マンションの居住にかかる諸費用を婚姻費用の額から控除できるか
たとえば、妻が夫名義のマンションに居住している場合に妻が、夫に婚姻費用の分担を請求したとします。
このケースにおいて、夫が、毎月管理費・駐車場・駐輪場の月極費用、修繕積立金を負担していたとした場合、夫は、通常支払うべき婚姻費用から、これらの費用を控除することができるでしょうか。
マンション管理費について
夫がマンション管理費を控除ができないとすれば、夫は、通常支払うべき婚姻費用に加え、妻が居住のマンション管理費の負担を負うことになります。
マンション管理費が、マンションの価値を維持するために必要な費用だとしても、その維持のために用いられる費用は、通常は、同マンションに生活する者に帰属すると考えられます。
上記の例でいえば、妻が、管理費で賄われるマンション管理の利益を享受しているとの評価が当たりそうです。
そのため、当該マンション管理費の性質が、建物・設備の日常の管理に用いられているものである場合には、同管理費は、そこに住む者が負担すべき費用といえ、夫は、通常支払うべき婚姻費用から、負担している管理費を控除することができるとの結論を得やすいといえます。
駐車場・駐輪場の費用
妻が利用しているマンションの駐車場・駐輪場の費用についても、同様の理屈が当てはまります。
むしろ、これらの費用は、管理費以上に、居住者の利益の対価としての性質が強いそうです。
上記例で言ってしまえば、よりダイレクトに、マンションで生活している妻の生活のための費用としての性質を帯びます。
したがって、通常支払うべき婚姻費用から駐車場費用・駐輪場の費用を控除するとの夫の主張が通る蓋然性が高いと言えそうです。
なお、マンション内で管理組合からインターネット費用や水道代などを徴収される場合には、これも、居住者の生活のための費用としての性格が強く、控除の対象となりえます。
修繕積立金
マンションの修繕積立金はどうでしょうか。
修繕積立金は、管理費と同じく、管理組合に支払うべき費用です。その支出の仕方によっては、マンションの管理にあてうる費用でもあります。
資産形成としての性格を帯びる
ただ、通常、修繕積立金は、将来の大規模修繕などに備えた費用であり、資産形成・資産価値維持のために積み立てられているという性格が強いと言えます。
この性質を強調すると、これは、夫が自己所有の不動産につき、その価値の維持・形成のために、費用を投下しているだけとも考えられ、婚姻費用からこの費用を差し引くことはできない、との結論になりそうです。
夫婦の清算の対象となる財産への資本投下としての性格もある
しかし、他方で、将来の離婚に際して、このマンションは、財産分与の対象となります。
そうだとすると、修繕積立金の支払いは、夫が自分の財産形成のために費用を支出しているというのではなく「夫婦双方が清算する不動産」に費用を投下しているものとの性格もありそうです。
二面性を考慮
上記のように、夫名義の資産への投下という面・夫婦の清算対象となる財産への資本投下という二面性を考慮すると、婚姻費用から、支払っている修繕積立金分を控除せよ、との夫の主張は、すべて通るとは考えにくい一方で、一部はこれを認めたほうが据わりがよい結論となります。
この理由からは、支出した修繕積立金は、その一部につき、通常算定される婚姻費用の金額から控除を認めるとの考え方が導かれます。
まとめ
上記をあえて一般化すれば、婚姻費用の支払義務者が、権利者居住のマンションの諸経費を支払っている場合、おおむね次のように整理することができます。
- 一般的な管理費
通常算定される婚姻費用から控除される可能性が高い。 - 駐車場・駐輪場費用
通常算定される婚姻費用から控除される可能性が高い。 - 修繕積立金
全額控除は難しいが、一部、通常算定される婚姻費用から控除されうる。
なお、具体的なケースにおいては、管理費の性質や修繕積立金の性質、その他の費用の性質も検討と対象となりえるため、最終的にはケースごとの判断になります。個別にご相談いただけますと幸いです。