離婚理由”生活費を渡さない”の意味合いは?悪意の遺棄になる場合とならない場合

夫婦の「離婚理由」の一つに、「生活費を渡さない」というものがあります。

令和4年度の司法統計によると、女性側が家庭裁判所に[離婚調停]を申し立てた案件の理由として、「生活費を渡さない」は、性格の不一致に次いで、離婚理由2位となっています

(よく、ウェブ上で「離婚理由ランキング」などとして紹介されるのは、この離婚調停における離婚原因の統計データに依拠しているものが多いです。)。

参照 令和4年司法統計年報 ※なお、リンク先の第19表が離婚原因に関する統計です。

今回はこの「生活費を渡さない」ことが、法律上どのように評価されるか、につき説明します。

離婚理由としての「生活費を渡さない」の意味合い

上記のとおり、女性側が家庭裁判所に離婚調停を申し立てた理由として、上位に「生活費を渡さない」というものがありますが、その意味合いは、必ずしも画一的なものではありません。

実は、離婚調停の申立書は、与えられた選択肢の中から、離婚の原因をいくつか選ぶ書式となっており、その中に「生活費を渡さない」というものがあります。

そして、調停の申立書には、「生活費を渡さない」の意味につき、細かな定義や説明は記載されていません。

参照:離婚調停申立書の記載例

そのため、離婚調停の申立書で「生活費を渡さない」という離婚理由が2位になっているとしても、人によって、その意味合いが大きく異なっている可能性があります。

たとえば、「生活費を渡さない」が選択される場合としては、別居中、夫が妻に何らお金も渡さず、妻が経済的に困窮している、というケースがあります。

他方で、これも一つの例ですが、同居中の夫婦間において、夫から衣食住は提供されているが、「収支につき、お金の管理を夫が行っている」という事実をもって、調停申立書の書式において、「生活費を渡さない」が選択されることもあります。

この二つの例では、「生活費を渡さない」のもつ法律上の意味合いも大きく変わりえます。

「生活費を渡さない」と悪意の遺棄

別居中、夫が妻に何らお金も渡さず、妻が経済的に困窮している、というケースでは、これが一定期間続けば、夫に「生活費の分担義務違反」を内容とする「悪意の遺棄」が認められる蓋然性が高いです。

生活費をくれない場合、慰謝料の発生原因・有責配偶者との評価が生じうる

「悪意の遺棄」というのは、民法が定める法定の離婚原因の一つであり、夫婦の一方が、夫婦関係を破綻させるような意思あるいは認容をもって、正当な理由なく、同居義務や生活費の分担義務に違反する場合を指します。

別居中、収入のある夫が妻に生活費をくれないために、妻が経済的に困窮している、というケースでは、上記の通り、「悪意の遺棄」が認められる可能性が高く、仮にこれが認められる場合には、離婚に際して、妻は夫に対して、裁判離婚の請求や慰謝料の請求などをすることが可能となります。

反対に、このケースにおいて、夫が離婚をしたいと考えて、妻への離婚請求をしたとしても、その離婚請求は「有責配偶者からの離婚請求」と位置付けられ、容易には認められません。

参照:悪意の遺棄とは

参照:法定離婚原因とは

参照:事例:「専業主婦型」と「共働き型」夫婦に関する「悪意の遺棄」の二つの裁判例

生活費をくれない場合、「支払え」との請求も可能

なお、上記のような、別居中、収入のある夫が、妻に何らお金も渡さず、妻が経済的に困窮している、というケースでは、妻は、夫に対して婚姻費用分担請求という請求を行うことができます。

これは、夫婦が同一レベルの生活を営むことができるよう、夫に生活費を支払え、と求めていく請求です。

上記ケースで、当事者間での話し合いでの解決が困難な場合、妻は、生活費をくれない夫に対して、家庭裁判所を介した手続により、生活費の分担を求めていくことも可能です。

参照:婚姻費用について

衣食住の提供はあるが、夫が金銭を管理しているケース

では、夫と妻は同居しており、夫から妻に対して、衣食住の提供はなされているが、夫が金銭を管理している、というケースはどうでしょうか。

悪意の遺棄にならない可能性あり

この場合、「金銭」という形で妻が生活費を受け取ることができていないにせよ、これを主要な理由に「悪意」あるいは「遺棄」が認められることは、あまり多くは無いのではないかと思われます。

この点、妻に全く自由なお金が無い、あるいはほぼ無いため、妻の経済行動動が著しく制限されているというような事情が認められれば、悪意の遺棄が生じる余地があるかもしれません。

ただ、他方で、夫が「衣食住を提供している」というケースでは、夫において、一定の義務を果たしているとの評価を受けうるところであり、夫側に「悪意」や「遺棄」が認定されるのは、限定的なケースにとどまると考えられます。

「婚姻を継続し難い重大な事由」が生じた場合

ただ、上記のケースで、仮に「悪意の遺棄」が認められないとしても、生活費の管理を理由に夫婦仲が悪化し、破綻に至ったという場合、妻としては、「離婚をしたい」と考えるようになるかもしれません。

こうした場合に話し合いで離婚が成立させられれば良いのですが、夫が離婚に合意しない、という場合、妻が離婚をする方法はないのでしょうか。

このケースでは、「悪意の遺棄」が認められないにせよ、妻は、「婚姻を継続し難い重大な事由」が生じたことを理由に夫に対して、離婚裁判を起こすことが可能です。

家庭裁判所において、「婚姻を継続し難い重大な事由」が生じているとの判断が受けられれば、妻は、夫との話し合いで離婚ができなくとも、裁判を通じて、強制的に離婚を成立させることができます。

参照:婚姻を継続しがたい重大な事由

なお、この場合に、妻が夫に対して、慰謝料請求までできるかはケースバイケースです。

たとえば、夫が妻にお金を渡さないことにつき、正当な理由がなく、妻への精神的・人格的な非難・攻撃としての側面を有すると評価されるような場合、夫の金銭管理は妻へのモラハラ等に該当し、妻の夫に対する慰謝料請求が認められる可能性が生じます。

>北九州の弁護士ならひびき法律事務所へ

北九州の弁護士ならひびき法律事務所へ

CTR IMG