暴力・DVは、離婚原因の一つになります。
DVという用語は多義的ですが、精神的DVにかかる離婚手続については、「モラハラ・精神的虐待を理由とする離婚の手続」という形で整理し、ここでは、生命身体に対する肉体的・身体的な暴力を対象とします。
離婚手続
暴力・DVを理由とする場合、その難しさは別として、手続自体は他のケースの場合と変わらず、次の3つとなります。
- 離婚協議
- 離婚調停
- 離婚裁判
暴力・DVを原因とする離婚協議
暴力・DVを原因とする離婚の場合も、その手続は、建前としては、協議から開始します。
ただ、この場合に、夫婦だけで話し合うのはリスクも高く、おすすめはできません。
実際、一度の話し合いが行われていなくとも、次にのべる調停の手続をとることができますので、離婚をするために話し合いを行うことにこだわる必要はありません。
現に暴力・DVが発生している場合には、仮に話し合いをするにしても、加害配偶者に居場所が分からないように「別居」をする(※)、第三者を交えて、あるいは第三者に代理してもらって話し合いをするなどのリスク回避措置をとることが重要です。
※DV防止法に基づく保護命令により、接近禁止命令を得ている、夫が加害者、妻が被害者という事案でシェルターに入所している、というケースも少なくありません。
暴力・DVを離婚原因とする調停
話し合いが行えない場合、離婚を行うための次の手続としては、調停があります。
離婚調停は、家庭裁判所の調停委員関与の下、家庭裁判所内で話し合いを行う手続です。
DV事案における家庭裁判所の配慮
加害者たる配偶者に住所が知られていないという場合には、被害者は住所を秘匿して離婚調停を申し立てることも可能です。
調停の申立に際しては、「事情説明書」など話し合いの状況などを記載する書面を提出することがあります。
そこにDVなどの事実を記載しておくことで、家庭裁判所は調停期日に当事者が鉢合わせとならないよう、あるいは、一方当事者が家庭裁判所内で相手配偶者に会いに行くことの無いよう次のような配慮をしてもらえます。
- 施設内の待機場所を通常の離婚調停の場合と変える
- 当事者が廊下などを歩き回らくてすむよう、調停委員が各自の待機室に話を聞きにくる
- 家庭裁判所の出入りの時間をずらす
どの程度の対応・配慮となるかはケースバイケースです。私は見たことはありませんが、小さな家庭裁判所において、加害の程度が大きいような場合、期日自体を別日・別枠にしてしまう、というケースもあるようです。
慰謝料・親権・面会交流に関わる
DVの有無は慰謝料・親権・面会交流にかかる調停委員の心証に影響を及ぼします。
まず、DV事案においては、慰謝料の支払い義務や額をめぐって当事者の見解が分かれることが少なくありません。
この場合において、慰謝料請求を認める方向に調停委員あるいは調停委員会の心証を引き寄せるには、調停であっても証拠が重要となります。
その他、親権争いや面会交流をめぐっても、DVの有無が問題となります。
この場合も、証拠の有無が調停委員などの心証を決定づける重要な要素となります。
反対に、暴力・DVを否定していく側は、提出された証拠の意味や評価を争うこととなります。
調停の結果
調停の結果、双方の意見がまとまれば離婚成立、まとまらなければ、不成立にて終結します(別途、取り下げによる終結という場合もあります。)。
離婚をしたい側は、すぐに訴訟を行うか、しばらく期間の経過を待つか、などの判断をしていくことになります。
暴力・DVを理由とする裁判
調停でも離婚が成立しなかった場合、裁判を行うか否かが次の選択肢として検討されます。
暴力・DVと婚姻を継続しがたい重大な事由
離婚裁判は、法定の原因がある場合に、相手方の合意が無く、裁判所がその判断により強制的に離婚を成立させる手続きです。
DV・暴力を理由とする場合、請求をする側は、法定離婚原因の一つである「婚姻を継続し難い重大な事由」があるとして訴訟を追行していくことになります。
なお、軽微かつ一回限りの暴力(たとえば、周りに危険なもの・階段などがない家の寝室などで、つい手がでてしまい、相手の肩を軽く押してしまったなど)のケースでは「婚姻関係を継続しがたい重大な事由」があるとまでの評価を受けるケースはほとんどなく、通常、離婚成立には、併せてほかの事由が必要になります。
証拠が重要
訴訟は裁判手続きであり、証拠によって事実が認定されますので、暴力・DVを加害者が否定している場合、離婚を成立させるにはこれを根拠づける客観証拠が必要となります。
たとえば、次のような証拠が典型例です。
- けがの状況を写した写真
- 相手がケガさせたことを謝罪するLINE・メール・録音
- 病院の診断書・カルテ
離婚の成立を主張する側は証拠に基づき、暴力・DVがあったことの立証を目指し、これを否定する側は、証拠の評価や解釈等を争っていくこととなります。
まったく客観証拠がなく、加害者とされる配偶者がこれを争っており、真偽不明という場合、裁判官は、民事訴訟法のルールにのっとり、暴力・DVの事実はないものとして扱います。
暴力・DVと慰謝料請求について
離婚訴訟を提訴する場合において、暴力・DVを主たる原因とする場合には、訴えを起こした側は併せて慰謝料請求も行うのが通例です。
ただ、やはり証拠主義ですので、この慰謝料請求が認容されるためには、当該事実を証明する証拠が重要となります。どの程度の証拠があるかは、認定事実を左右し、その結果慰謝料の額にも影響が及ぶこととなります。
なお、日常的なDVが主張されるケースにおいては、同時にモラハラ・精神的な虐待が併せて主張されるケースが多いです。
肉体面・身体面に対するもののみならず、精神的暴力が同時的に主張されます。
参考:モラハラ:北九州の弁護士