個人事業主(自営業)の事業用財産の財産分与

離婚に際して、しばしば争点が生じることの多い問題が個人事業主(自営業)の方の財産分与を巡る問題です。

個人事業主(自営業)の場合の事業用財産と財産分与

事業運営のためには、運営資金の他、様々な事業用財産が必要となります。たとえば、事業用車両、パソコン、オフィス備品類などがその例です。

こうした、事業用財産は、財産分与の対象となるのでしょうか。

原則的に分与の対象となる

事業が法人化されている場合、その法人・会社の名義の財産は、原則的には財産分与の対象外となります。

これは、当該法人・会社が、個々人とは別の法人格を有する独立した権利主体と扱われるためです。

参照:会社名義の資産・財産は経営者の離婚に際して財産分与の対象となるか

他方で、事業が法人化されていない個人事業主(自営業)の場合には、法人化されている場合とは反対の結論になります。

すなわち、事業用財産が、財産分与の対象となるのが原則となるのです。これは、事業用財産と言えども、法律上は、個個人の財産として扱われることに基づきます。

分与の対象とされる範囲

個人事業主の場合、事業用財産は、原則的には財産分与の対象となる、と説明しましたが、この場合でも、分与の対象となる範囲については別途の検討が必要です。

夫婦共同の財産か特有財産か

まず、事業用財産として利用されていても、その事業用財産が、結婚前から存在した財産である場合、あるいはこれが形を変えて残っている、と言う場合、これはいわゆる特有財産として、財産分与の対象から除外し得ます。

たとえば、夫が自営業者であるところ、結婚前から「車両」を事業用財産として利用していた、と言う場合、この車両は、夫の特有財産として、財産分与の対象から除外されます。

また、夫が、結婚前から有していた車両につき、婚姻後、これを下取りに出し、その金額の範囲内で、別の車両を買った、と言う場合においても、当該車両は夫の特有財産とされ、財産分与の対象から除外される可能性が高いです。

このように、個人事業主の事業用財産として利用されている財産であっても、夫婦どちらかの特有財産とされる部分は、財産分与の対象から除外されます。

参照:特有財産とは?離婚時の財産分与の対象とならない財産

事業用財産と夫婦財産とが区分されている場合

また、事業用財産と個人財産とが明確に区分されている場合、事業用財産の内、一部は財産分与の対象から除外される可能性がある、と説明されることがあります。

個別の事業資産について

サラリーマンや公務員であっても、仕事のために必要不可欠な私物(スーツや仕事用のカバン等)は、財産分与の対象から除外されますが、個人事業主の場合も、仕事のために必要不可欠と言える特定の財産が夫婦財産と明確に区分されている場合に、これを財産分与の対象から除外して考えるのです。

たとえば、個人事業主である弁護士は、各オフィスに仕事のための自分のパソコンなどを有していますが、こうした財産は、財産分与の対象から除外される可能性が高いです。

事業用資金について

また、同様に、事業用資金も、財産分与の対象から外れる可能性があります。

ただ、結論として、流動資産である事業用資金が分与の対象となるかは、結果の妥当性、という観点から個々の事案ごとに判断されます。

財産分与においては、夫婦の公平が担保されているか、という価値判断が重要であり、妥当性が担保されているかが、裁判所の判断に大きく影響するためです。

なお、事象用資金を、分与対象から外すとすれば、後述のように、別途、清算割合の修正がさらに検討対象となるものと思われます。

事業用財産の分与に係る負債・借金との通算

さらに、事業用財産を分与の対象とする場合、負の財産、すなわち事業用の借金の通算の可否が検討の対象となります。

負の財産は、財産分与の対象とされないと説明されることも多いですが、個人事業主の事業用財産が事業用資金も含めて、財産分与の対象とされる場合、負の財産、すなわち事業のための負債は、積極財産との通算される可能性が高いと思われます。

事業用財産の内、プラスになるものだけ分与の対象とし、負債を通算しない、との結論となってしまうと、平等性・公平性を欠く、との批判が生じうるからです。

 

事業用財産の分与と清算割合の修正

最後に、清算割合の修正について説明をします。

財産分与においては、夫婦の取り分は、それぞれ2分の1ずつとされることが多いです。ただ、場合によっては、その取分割合は変更・修正されます。

参照:財産分与の清算割合(2分の1ルールとその例外)

事業用財産が分与の対象となる場合の割合の修正

事業用財産が財産分与の対象とされる場合に、検討対象となりやすいのは、経営者側の取得割合を大きくする方向での、清算割合の修正の可否です。

事業用財産が相当大きく、その維持・形成が、個々人の経営者の才覚・能力による、といった場合、事業用財産につき、事業主自身の寄与・貢献が大きいとの判断から、いわゆる財産分与の2分の1ルールを変更し、現に経営している者有利に清算割合を変更することが考えられます。

事業用財産が分与の対象とならない場合の割合の修正

では、反対に、たとえば、事業用財産と個人の財産が明確に区分されていることを理由に、「事業用財産の大部分が財産分与の対象から除外する」、といった判断が為される場合はどうでしょうか。

この点は、机上のケースにすぎず、そもそも、検討の要の無い部分かもしれません。

ただ、思考の整理として検討をしておくと、「事業用財産の大部分を財産分与の対象から除外する」との判断が為される場合には、事業用財産の範囲・金額が夫婦共同財産に比してごく小さい場合は各別、そうでない限りは、事業用財産以外の夫婦の共同財産の分与につき、分与割合を事業主ではない方の配偶者側有利に変更する、との方向に裁判所の判断が傾きやすいように思われます。

事業を営んでいる事業主側にのみ、財産を多額に残すのは夫婦の公平という見地に照らして、妥当性を欠くきらいがあるからです。

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