事例:電灯の無い部屋に2年近く別居させたことなどの事情にて悪意の遺棄を肯定した裁判例

悪意の遺棄が認定された事例を紹介します。同居・協力・扶助義務違反全て肯定し得る事案です。

相当古い事案ですが、神戸地裁昭和26年2月15日の判決です。下記では、原告が妻、被告が夫となります。

神戸地裁昭和26年2月15日の判決の認定事実

なお、かなり古い裁判例に係る認定ですので、原典においては、表現が古めかしいところがあります。そこで、若干、現代用語に引き直しています。

別居に至る経緯

妻は昭和二二年春の彼岸のころ、実家を訪れ数日後帰宅したが、その後間もなく、夫は、ばい毒の症状を感じるに至った。
すると夫は、妻が里帰り中にたまたま、その姉の夫谷口貞夫の家を訪れたことがある事実をとらえて、妻がその際、谷口貞夫と情交関係を結び、同人からばい毒を受け、それが移ったのだと思い込んで、その事実を確かめることもなかった。
また、夫の母もこれに加わって、ひたすらに妻を責め、その素行を疑い、そのような不貞な女は家におけないとして、これを実家に帰してしまい、しかもそのことを近隣に言いふらしもした。
その後、これを伝え聞いた谷口貞夫は身に覚えのないことであるとして夫方に行き、夫をなじったのに対し、夫ももとより確証が無いことなので、一應陳謝し、また妻の兄弟等からも交渉があつて、約一月の後に妻は実家から夫の家へ立戻ることとなった。
しかし、未だに疑惑の心とけぬ夫は、妻を家に入れず実弟一彦方の二階に別居させた。それは、夫としては、妻と同居すると自分の病気が治らないと信じ、とにかく妻の素行を疑って、その素行について疑わしい行為がなかったならば、再び家に迎えて同居する意思に出たものではあった。
別居の状態
しかし、妻の別居させられた居室というのは、電灯もなく、畳もなく、わずかに上敷を敷いて起居するような状態の部屋であった。
しかも、妻は、このような部屋に別居させられながらも、相変らず、夫等のためその田畑の耕作などの山仕事に専念し、その素行についても夫をして疑わしめるような行動は一切なかった。
それにもかかわらず、夫はその後、約二年近く妻をこの状況のまま放置して同居を許さず、夫婦関係も結ばず、主食類をこそ支給していたものの、前記のような妻の働きにも、またその妻としての地位にもふさわしからぬ窮況にさらして顧みなかった。
妻はこうした生活を続けるうち、ついに昭和二三年中には、病にかかり苦しんだが、その治療費はもとよりまかなえるところでないし、夫は相変らず、復帰に肯じなかった。
そのために、妻も終に夫との婚姻継続に希望を絶ち、昭和二四年一月実家に立帰らざるを得ないこととなったのである。

上記裁判例の評価

悪意の遺棄の概念については次の記事をご参考下さい。

参照:悪意の遺棄とは

この裁判例で、悪意の遺棄を認定するに至った主要な事実は次の各点です。

  • 妻が2年近く別居させられたこと
  • 別居させられた居室には、電燈もなく、畳もなく、妻は、僅に上敷を敷いて起居するような状態であった。
  • 妻は、山仕事に専念し、素行についても疑わしい事情はなかった。
  • 妻は病気にかかり苦しんだが、その治療費を賄える状態にもなかった

この裁判例において、「妻が、山仕事に専念していたことや浮気を疑う疑わしい事情がなかったこと」が認定されているのは、夫の「同居・協力・扶助義務」違反を正当化しうるか、という視点がはいっているのかもしれません。

とはいえ、妻の衣食住が相当悪辣な状況に置かれていたことは間違いなく、今で言えば経済的虐待に当たり得る事案でしょう。

仮に妻が怠惰であったり、浮気を疑わしめる事情があったとしても、2年もの長期にわたって、電灯もない部屋に別居させたのであれば、「悪意の遺棄」が認められる余地があるように思われます。

なお、近時は、本記事にて紹介した裁判例ほどの事情がなくとも、悪意の遺棄は肯定される傾向にあります。たとえば、次の事例を参考としていただけますと幸いです。

参照:事例:一方的な別居を理由に「悪意の遺棄」を認定した裁判例

参照:事例:「専業主婦型」と「共働き型」夫婦に関する「悪意の遺棄」の二つの裁判例

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