母性優先の原則について

今回は、親権者・監護権者指定の判断基準の一つとなる「母性優先の原則」についてです。

この原則の対象となる年齢や父親側の母性ケアの主張内容、判断要素としてのウェイトにつき説明します。

母性優先の原則とは

母性優先の原則は、乳幼児期の子供の親権者には、母性を有する者が望ましいという考え方であり、家庭裁判所が親権者を決める判断要素の一つです。

日本において、母性を強く有する者は、往々にして「母親」であると判断されることが多く、父親が乳幼児の親権を取得しにくい理由の一つに挙げられることが多くなっています。

なお、類似概念として「母子優先の原則」があります。これは、親権者には「母親」を優先するという考え方です。

母性優先の原則との違いは、母子優先の原則が「母」の立場に着目したものであるのに対して、母性優先の原則は、「子供を受け入れて包み込む愛情を有している」「愛を持ってきめ細やかな配慮ができる」者を優先すべき(※1)という考え方である点に求められます。

※1 母性の定義自体があいまいなため、その他の表現も多々ありえるところです。

母性優先の原則の射程範囲となる乳幼児

母性優先の原則の射程範囲となる乳幼児は、0歳から10歳程度までとの説明がなされることが多いところです。

ただ、母性優先の原則の機能の仕方は、年齢に応じてグラデーションがあり、年齢が小さければ小さいほど、この原則は強く働き、年齢が大きくなるほど、この原則が果たす役割は小さくなる、と考えられています。

実際、10歳を超えてくると、子の意思がより尊重されるようになります。

また5歳~6歳以降、10歳未満の子についても、子の意思がある程度判断に影響を及ぼすようになります。

参考:子の意思の尊重について

子が年齢・発達を重ねることにより母性優勢の原則の働きは相対的にも小さくなるとも言いうるところです。

父親側の母性ケア

判断要素は、「母子」であることではなく「母性」を有していることです。そして、母性は何も母親だけが有しているものではありません。

父親であっても「母性たる愛情」あるいはこれに類する適正を有している方は存在し、また父親の祖母も母性の保有者としての評価を受け得ます。

そのため、親権・監護権争いで「母性」が争点となる場合、母親は自らの母性を主張し、父親側は父親側でケアできる母性あるいは母性類似の愛情とケアを子供に与えることができることを主張していくことになります(※2)。

※2 ただし、父親側の母性ケアに関する主張は、往々にして認定を受けることが難しい場合が多いです。

母性優先の原則のウェイト

親権者・監護権者の指定に際して、母性優先の原則は確かに機能しています。

裁判例や高裁の決定などに際して、母性優先の原則が親権者・監護権者指定の理由として触れられることもあります。

ただ、そのウェイトが常に決定的なものかというとそうではありません。

母性優先の原則が機能しうる乳幼児に対する判断に際しても、実務上は、「現状維持の尊重」(継続性の原則)や監護の実績などが相当程度重要視されています。

参照:現状維持の原則(継続性の尊重)について

「母性優先の原則」と「現状維持の尊重」が対立する事案(平成7年11月17日仙台高裁決定)

母性優先の原則と現状維持の尊重が対立した事案として、平成7年11月17日仙台高裁決定があります。

父親を3歳の子の親権者とする離婚が成立した約3週間後に、母親が親権者の変更を申し立てた事案(平成7年2月申立)です。

原審判断

原審は、次のような理由を述べて、「現状尊重の原理は、母性優先の原理にその道を譲るべきものである」として、親権者の変更を認めました。

  • 漸く3歳に達したばかりの女児にとって母親の存在の重要性は疑いのないもの
  • 母の勤務の状態からしても子と母のスキンシップが常時保たれる形での養育が行われることが期待できる利点がある

抗告審判断

他方で、抗告審(上記高裁決定 平成7年11月)は、「一般的には母親の監護養育になじむ年齢である」とも述べる一方で、次のような理由で原審とは反対の判断をし、親権者の変更を否定しました。

  • 子が父親のもとに引き取られて後、父親及びその両親の養育監護の下でそれなりに安定した生活を送っている
  • これを短期間で覆し、新たな監護環境に移すことがその心身に好ましくない影響を及ぼすことは明らかである

評価

上記は、離婚に際して父親を親権者と指定した事案であり、離婚時の親権者指定や別居時の監護権者指定とは状況が異なりえます。

ただ、父母の合意のもと、父親側が平穏に監護養育を開始し、かつその養育が安定していた場合、「現状の維持の尊重」に相当程度のウェイトが置かれうることを示唆する決定として参考になります。

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