現状維持の原則(継続性の尊重)について

親権者・監護権者の指定や親権者の変更が争われるとき、家庭裁判所は種々の事情を考慮要素として、どちらを親権者・監護権者にするのが子供の利益実現のためにふさわしいか、を判断します。

この判断要素に関して、重要な要素の一つとなるのが、現状維持の原則、継続性の尊重という原理です。

現状維持の原則(継続性尊重の原理)とは

現状維持の原則の原則とは、現状の子供の養育が安定している場合、その養育状況を変更せず、現状を維持すべきという考え方を指します。

継続性尊重の原理などと表現されることもあります。

子供の監護状況を変更することは、子の心理状況を不安定とし、心身に好ましくない影響を及ぼしかねないため、「現状」が尊重されるのです。

現状維持の原則の下では、その監護状況を積極的に変更すべき特段の事情が無い限り、現在の監護者がそのまま親権者・監護権者として引き続き、子供を養育していくべき、という判断過程が導かれます。

親権者・監護権者判断に際してのウェイトは重い

一般に、家庭裁判所は、現状維持の原則(継続性尊重の原理)に対して、比較的重たいウェイトを与えている、と評価されます。

上記現状維持の原則の下で、監護権者を変更すべき攻撃材料が無い場合、現に監護をしていないものが親権を取得したり、監護権を取得したりするのは相当難しい、というのが実務的な感覚ではないでしょうか。

特に、母親が別居前から、家庭で中心的に子を養育する役割をはたしており、父親が主として仕事をして生活費を稼ぐ、というケースにおいては、子と母親への親密性、監護の実績の程度、母性優先の原則(子が乳幼児の場合)なども母親側に有利な事情となり、これを覆すのは相当難しくなります。

現状維持の原則に対する攻撃材料

現状維持の原則が働く場合、これを覆す攻撃材料としてはどのようなものがあるでしょうか。

現状がふさわしくない・変更すべきという積極的な事情の有無が重要

現状維持の原則が妥当する場合、現在の監護者ではないものが親権・監護権を取得するには、現在の監護状況が子の福祉にとって適切ではないことを基礎づける事情、監護状況を変更した方が子の福祉にとって利益であることを基礎づける事情の有無が重要となります。

たとえば、母親がこれを監護している場合において、母親が子に対して、養育を放棄しているような事情です。

加えて、子が現在の監護者に対してどのような感情を有しているか(否定的なのか、そうではないのか)も重要です。このウェイトは、子の年齢が高くなるほどに重たくなります。

その他、父が乳幼児を監護しているような場合には、母性優先の原則が機能しえます。さらに、兄弟・姉妹の分離がある場合は、これを不分離とすべきではない、というのも一事情です。

少し言葉が強いかもしれませんが、現状維持の原則が働く場合、上記のような各事情を勘案して、現状を変更すべきといえるだけの事情があるといえるかが、判断の分かれ目となりえます。

現状維持の原則と子の連れ去り

上記とは別に、現状維持の原則との関係では、子の連れ去り・奪取行為の違法性が親権者・監護権者の指定等の考慮材料となります。

現状維持の原則は、もともと、これをあまりに前面に押し出すと、「連れ去った者が親権者となる」「連れ去り者勝ち」という結果・社会を招来しかねない、という懸念のある考え方です。

ひとまずは連れ去ってしまって、子の監護を開始して、継続的な監護の実績を作れば良い、という考え方が蔓延ってしまう懸念が生じます。

こうした社会は、およそ健全とは言えません。

家庭裁判所も、子の奪取・連れ去りの「違法性」が認定しえる限りは、これに一定の重みづけをして、審理をしているように思われます。

子の連れ去りの違法性のみをもって、親権者や監護権者を指定すべきではありませんが、子の連れ去りの違法性は、現状維持の原則の働きを攻撃する重要な材料となります。

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