夫婦の婚姻費用の分担に際して、夫(ここでは支払義務者と仮定します)に借金・負債があることは、婚姻費用の額に影響をあたえるでしょうか。
借金があることは、婚姻費用の分担額に原則として影響しない
婚姻費用を支払うべき義務のある者に借金があることは、原則として、婚姻費用の金額に影響をあたえないと考えられています。
実際の調停・審判においても、これを主張しても「はいそうですか」という程度に排斥されることも珍しくありません。
一般的な債務の支払よりも、夫婦の扶養義務の履行のほうが優先されるべきとの価値判断から、義務者に借金があることは婚姻費用の分担額に原則として影響ないのです。
このほか、たとえば、両親への仕送りが必要であることなども、婚姻費用の支払いに先んじて行うべきものとまでは考えられておらず、婚姻費用の分担額を決定するに際して影響をあたえないと考えられています。
影響する場合もある
他方で、借金返済の事実が例外的に考慮される場合もあります(平成8年12月20日東京高等裁判所決定など)
事業資金返済の必要性などの事情がある場合
たとえば、次のような事情がある場合はどうでしょうか。
- 夫が返済を継続しておかなければ事業が立ちいかなる
- 事業資金の返済に加え、通常算定される婚費の額を月収から控除すると、夫の生活が破綻するおそれがある。
- その一方で、妻は別居前に形成された多額の預貯金を相当程度管理している
- 妻にも自己の生活をしているだけの余裕のある収入がある
こうした事情がある場合、夫が支払う婚姻費用の額算定に際して、事業資金の返済の必要性を全く考慮しないのは不公平との誹りをうけるかもしれません。
参考:婚姻費用の支払拒絶の可否:預貯金を権利者が持ち出して管理している場合
返すべき負債が夫婦生活のための借金ともいえる場合
また、夫が返済を求められている借金が、夫婦生活維持のための借金であった場合、その借金は、夫婦でともに作った借金とも言え、これを考慮する必要性が高そうです。
たとえば、別居前に世帯の公共料金を支払うために借り入れが生じた場合、権利者が使用する車両の購入費用として自動車ローンが組まれていたような場合です。
こうしたケースでは、夫の借金の返済は、実質的には、世帯として、あるいは、妻においても負担すべきと考慮される費用への支払いに充てられたものとも評価することが可能です。
こうしたケースでは、例外的に、夫が借金の返済をしている事実を、婚姻費用分担額の考慮要素として、費用の減額を求める余地がでてきます。
※なお、住宅ローンについては、別途、「居住の利益」が夫と妻どちらに帰属するかなどを検討する必要があります。この点については次の記事でまとめています。