暴力・DVを原因とする離婚請求の場合、離婚の請求のほか、慰謝料請求がなされるのが一般的です。
たとえば、夫の妻に対するDVが行われていた場合、妻から夫に対して、慰謝料請求を行うこととなります。
なお、DVには種々の種類がありますが、この記事は肉体的・精神的な暴力を対象としています。
暴力・DVと慰謝料の相場
暴力・DVのケースで、慰謝料の額はどのように決まるのでしょうか。
慰謝料相場を示すことは難しい
暴力・DVを原因とする慰謝料の相場を示すことは非常に難しいです。
各種法律事務所や離婚専門サイトの解説を見ると、50万円~300万円と解説しているものが多いようです。
本日時点の検索上位10件を整理すると次のようになりました。
- 50万円~300万円とするもの 6サイト
- 数十万円~300万円とするもの 3サイト
- 50万円~400万円とするもの 1サイト
いずれも下限・上限が数百万円開いており、相場を示すことが非常に難しいことを示しています。
慰謝料額を左右する要素
暴力・DVを理由とする慰謝料の額は、次の要素により大きく左右されます。
その内容次第で、上記下限を下回ることもあります。反対に暴力・DVが日常的に行われており、重篤なケガ・後遺障害が発生しているというケースでは、上記上限を上回ることもありえます。
- DV・暴力の程度
- 身体的・肉体的なケガ・後遺障害の有無・程度
- DV・暴力の日常性・継続性
- 未成熟子の有無
- 婚姻歴の長短
- 加害配偶者の謝罪・被害配偶者の宥恕の有無など
慰謝料請求の証拠
暴力・DVを理由とする慰謝料請求をする場合、これを基礎づける証拠の有無が重要です。
決定的な証拠がある場合、加害配偶者が慰謝料を支払う、との結論を受け入れる蓋然性、裁判所にこれを認定してもらえる蓋然性が高まります。
反対に、DV・暴力を証明する証拠が無ければ、反対の結論となることもしばしばです。
慰謝料請求の時期
慰謝料請求は、離婚と同時に行うことも、離婚の後に行うことも可能です。
なお、DVを原因とする離婚手続きについては次の記事をご参照ください。
離婚と同時に慰謝料を請求
離婚時時にまともな話し合いができるケースや、離婚調停・離婚訴訟を行う場合、暴力・DVの被害者は、その離婚手続と同時に加害配偶者に対して慰謝料請求を行うことが可能です。
協議に際して
話し合いで離婚を成立させる場合には、慰謝料の支払義務・支払金額が協議の対象となります。
ただし、DV・暴力を原因とする離婚の場合、当事者間だけで話し合いをすることは勧められません。話し合いをするにしても、第三者を交えるようにしてください。
調停に際して
離婚調停の場合は、慰謝料請求を話し合いの対象とする旨、調停申立書に記載しておくことで、暴力・DVに対する慰謝料の支払義務の有無・支払額を調停の対象とすることが可能です。
訴訟に際して
離婚訴訟においても、訴訟提起の段階で慰謝料請求を組み込むことで、慰謝料の支払い義務の有無・支払額を裁判対象とできます。
ただ、DV慰謝料の支払いが認められるかは証拠の有無に左右されます。
離婚後の請求も
また、暴力・DVから逃れるために一刻も早く離婚を成立させた結果、慰謝料について話し合いをする間もないまま、離婚した、というケースでも、暴力DVの被害配偶者は、加害配偶者に慰謝料を請求することが可能です。
以下、次の2点について留意点を述べます。
- 慰謝料はいらないと言ってしまった場合について
- 慰謝料請求と時効の問題について
慰謝料はいらないと言ってしまった場合
離婚時、DV・暴力から逃れるために慰謝料請求はしない、という約束をしてしまう、というケースがあります。理屈としては慰謝料請求権の放棄などと構成されます。
こうしたケースでは、慰謝料請求が認められるか否かの審理に際して、その約束の有無が争点となります。
この約束がある、と認められてしまうと、その結果として、慰謝料請求が認められないという場合もでてきます。
他方で、この約束が認められても、その約束が脅迫によるなどの場合、慰謝料請求がなお可能というケースもあります。
「慰謝料請求権はいらない」などの約束が争点となる場合、一度弁護士にご相談いただければと思います。
DV離婚と時効の問題
また離婚後の慰謝料請求には期限があります。
通常、離婚の慰謝料は、離婚から3年間と解説されるのが一般的です。離婚自体によって生じた精神的苦痛の慰謝が対象となる場合です(離婚自体慰謝料)。
他方で、暴力・DVに起因して発生したケガや後遺症に対する損害賠償については、別途、行為の時あるいは損害を知った時から5年となりえます(民法724条の2 人の生命・身体を害する不法行為による損害賠償請求の消滅時効)。
離婚自体慰謝料の時効と暴力・DVに起因して発生したケガや後遺症に対する損害賠償との関係は、理論面において必ずしも整理されていないところです。離婚後に慰謝料請求をする場合は、早期に弁護士にご相談されることを勧めます。