今回は、モラハラなどを理由とする離婚に関し、高額な慰謝料が認定された事例を紹介します。
裁判例:東京地判令和元年9月10日
この事案は、東京地方裁判所令和元年9月10日判決で示された事例です。
精神的苦痛を慰謝するための慰謝料が200万円と高額になっています。
こうした事案から学べることは、どういった言動・発言がモラハラと認定されているのか、それがどの程度の強度なのか、それに対してどのような評価が裁判所から与えられるのか、という点です。
以下、全てではありませんが、認定された事実をご紹介します。
なお、このケースでは、夫が妻との交際開始時には、婚姻継続中であったことや前妻との間に子がいることを秘匿し、婚姻後においても、被告の婚姻歴について正確な説明をしていなかったことが認定されています。
詐称とまでは、認定されていないところですが、これに準ずる評価を受け、慰謝料の増額に寄与したのではないかと思われます
この事実がなかったとすれば慰謝料額は、もう少し減額されることが予想されます
認定事実
全部を拾いきれませんが、この訴訟で認定された事実を示します。
夫の攻撃的な言動
この事案では、夫の攻撃的な態度が次のように認定されています。
夫は、自分が不満に感じる出来事があると、相手に対して徹底的に攻撃的な態度を示し、次のような言葉のメッセー氏を連発して送信した。
- 頭おかしい
- バカ
- きちがい
- 狂ってる
また、夫は妻が言うことを聞かないと、過ぎに次にような突き放すような言葉を発していた
- 好きにしろ
- 勝手にしろ
- 別居する
妻の教え子の発表会でのエピソード
また、この事案では、次のような事実が認定されています。
夫は、妻の教え子の発表会に行き、発表会の終了後,教え子の保護者である著名な女性芸能人に自身を紹介してもらうため観客席で妻を待っていたところ,妻が別の保護者と話していて夫の席に来るのが遅れ,同芸能人が直接夫に挨拶しに来る事態となったことについて,妻に恥をかかされたとして激怒し,次のように罵倒した
- クズ、死ね、離婚して子供もおろせ
- 何様なんだよ このクズ野郎
- マジで死んでくれないかな
- 親の教育が悪すぎる
家計に関する話し合いをめぐるエピソード
さらに、家計に関する話し合いを巡るエピソードとして次のような事実が認定されています。
妻が家計の負担について夫と被告と話し合おうとすると,夫は腹を立て,次のように言い捨てた。
- そっちが勝手にこんな高い良い家に住んで,こっちは△△を手放さないといけないのに,その上さらに援助してっておかしいでしょ,贅沢にもほどがある,そんなんだったら子供なんか作らなきゃいい
- 離婚して犬連れて帰れよ
- もう犬捨ててこいよ。
さらに、インフルエンザに関するエピソード
さらに次のようなエピソードも認定されています。
⑴妻は、夕方,体調が優れずに寝ていたが,妻が,インフルエンザに感染し胎児に影響が及ぶことを心配して,ホテルで外泊したいと言ったことに激怒し,夫は、次のような言葉で妻を責めた
- 僕はインフルじゃない」
- 問題あるとしたら,あんたの日頃の行いだよ。部屋片付けねーとか,ちゃんときれいにしないとかさ
⑵妻が夫に、子どもを堕ろすように求め,なぜ堕ろさなければいけないのかと原告が問うと,次のように言い放った。
- いらない。当たり前じゃん。やっていけないよ。
- あんたみたいなくそ人間と。自分のことしか考えてないんだよ。
⑶原告が「子どものためじゃん」と反論すると,夫は、次のように述べて家を出て行った。
- 子どものためじゃないね。俺は大丈夫っつってんだよ。それが信用できないんだったら,おまえ死ねよ,本当に。ふざけんなよ。
- こっちが大丈夫だっつってんのに,勝手にインフルエンザって決め付けて人を追い出すな。
- いや,本当に離婚届,明日持ってくるから書いてね。俺は書くから。勝手に1人で産めよ。勝手に1人で育てろよ。だったら。
離婚届作成前のエピソード
離婚届作成前のエピソードとして次のような事実も認定されています。
⑴妻は、翌実,被告に対し,被告を大事に思っていないわけではないが,離婚,死ねという言葉がショックであった等と記したメッセージを送信した。夫は、これに対し,15分間の間に、次のような趣旨のメッセージを発した
- はぁ パブロンは予防だとはっきり言いましたけど
- 原告の対応はありえない,
- 人間としておかしい。
⑵妻が返信せずにいると,さらに翌日の午前6時前から9回にわたり,原告に対し,次のようなメッセージを送信した。
- 理不尽
- 常識が欠如しすぎ
- 最低
- 頭が悪すぎる
⑶夫は、離婚届を原告に送付し,その旨をメール(Gmail)で連絡したところ、夫は妻に対して、次のような言葉で罵倒し、批判する文言を繰り返した。
- クズ
- 卑怯者
- 等と罵倒し,批判する文言を繰り返した。
裁判所の評価
この事案ではその他にも、モラハラに該当する事実が広く認定されており、それらに対して、裁判所は次のような評価を与え、慰謝料を200万円としています。
夫は、妻との婚姻後、次第に、妻の人格を否定して夫の価値観を押し付け、夫に従わなければ徹底的に罵倒するような暴言を吐くようになり、その頻度や内容もエスカレートし、社会的に許容されるべき範囲を逸脱するものとなっていた。
これらの一連の暴言がいわゆるモラルハラスメント行為に当たり、原告の人格権を侵害するものであることは明らかというべきである。
夫は、暴言を吐いたことを否認し、自己の発言を正当化する主張をするが、これは、被告が自身の言葉が相手を傷付ける暴力的なものであるとの自覚を全く欠いているためであるに過ぎないものと解される。
評価
この事案は相当強度の人格攻撃にも類するようなモラハラが、日常的かつ執拗的に行われていた事案です。
また、モラハラ慰謝料を巡る訴訟では、常日頃の発言の他、どういったエピソードが夫婦間にあったのかも極めて重要です。
上記事例も、夫婦間のエピソードに基づいてモラハラ認定をしています。
夫の言動や発言は、メールなどのメッセージが決め手となって認定がなされています。
通常、メールやラインでのやりとりでなければ、ここまでの認定がなされることはほとんどありえません。
その意味で、強度の強い日常的かつ執拗的な攻撃的な言動が、証拠をもって相当程度の範囲に渡って証拠で基礎づけられた珍しい事案と評価できます。
なお、モラハラ慰謝料に関しては、次の記事もご参照いただけますと幸いです。