協議離婚の無効と追認

協議離婚を成立させるためには、当たり前の話ですが、当事者間に離婚の意思があることが必要です。

当事者間に離婚の意思がなければ、協議離婚は成立しないので、離婚の意思がないまま勝手に離婚届が提出された場合、離婚は無効となります。

この点について、最高裁判所昭和53年3月9日判決は、当事者の意思に基づかない離婚届が受理されたことによる協議離婚は当然に無効である旨判示しています。

離婚意思の内容

では、ここでいう離婚意思とはどのようなものでしょうか。

この問題は、たとえば、離婚をしても事実上の夫婦の関係を維持するが、借金の取り立てから免れるために離婚届けを提出した場合、協議離婚が有効に成立しているといえるか、というような場面で問題になります。

この点について、最高裁判所は、不正受給した生活保護金の返済を免れて、引き続き生活保護を受けるために離婚届けを提出したというケースにおいて、法律上の婚姻関係を解消する意思の合致に基づいて協議離婚を提出した場合には、その離婚を無効とすることはできないとの判断を示しています(最高裁昭和57年3月26日判決)。

この判決の趣旨にしたがえば、事実上、夫婦関係を継続させるとの意思を有している場合でも、法律上の婚姻関係を解消する意思があれば離婚意思として欠けることはなく、有効に離婚が成立するという事になります。

したがって、冒頭の借金の取り立て回避の例でも、法律上の婚姻関係を解消する意思がある以上は、離婚届の提出により、離婚が有効に成立するという事になります。

離婚意思はどのタイミングで必要か

では、離婚の意思に基づいて離婚届を作成したが、作成後、離婚を考え直して離婚の意思がなくなった、それにもかかわらず、離婚届が提出されてしまったという場合、離婚は有効でしょうか、それとも無効でしょうか。

この問題は、離婚届作成時に離婚の意思があれば離婚は成立するのか、それとも離婚届を役所に提出する段階で離婚意思がなければ離婚は成立しないのかといった形で問題になります。

この点に関し、一つの考え方としては、離婚届作成の段階では離婚の意思があった以上、後になって翻意しても、離婚は無効とならないと考えることもできます。

離婚届け作成時点において、互いに離婚するという合意が成立しているともいえるからです。

しかし、最高裁昭和34年8月7日判決は、離婚届作成時に離婚意思があっても、届出受理までの間に当事者のいずれか一方が離婚の意思を失った場合は、その協議離婚は無効となる旨判示しています。

協議離婚が離婚届受理の段階で成立する以上、離婚届受理の段階で離婚意思が必要との考え方に基づいた判断です。これは、離婚の効力発生が離婚届の受理の時点とされていることを重視したものと考えられます。

この判決に従えば、一旦離婚に合意して離婚届を作成しても、後になって考え直した場合には、離婚は無効となります。

予防策は取っておこう

ただ、現実的に、すでに離婚届を作成して渡してしまっている場合、離婚の撤回を相手に伝えても、相手から離婚届を役場に提出されてしまう可能性は残っています。

そこで、離婚届を作成したが、後になって離婚はやはりしたくないとの判断に至った場合、可能であれば、速やかに市区町村役場に離婚不受理届を提出しておくのが望ましいと言えます。

また、後になって離婚無効を主張しようとしても、離婚無効確認調停や離婚無効確認訴訟において、相手方が役所に離婚届を提出する段階では離婚意思がなかったとの事実を証明するのが難しい場合があります。

参照:離婚の有効・無効を争う手続き(離婚無効調停・離婚無効訴訟)

そこで、離婚届けを書いたものの、やはり離婚したくないと思い至った場合には、少なくともメールなど証拠として残る形で、離婚の意思が無くなった旨伝えておくのがよいでしょう。

無効な離婚の追認

上記のとおり、離婚届が提出された段階で、離婚の意思がなかった場合、離婚は無効です。では、その後、離婚を追認することによって、離婚を有効なものとすることはできるでしょうか。最後に、無効な離婚の追認という論点について言及しておきます。

一つの考え方として、離婚届け提出時に離婚意思がなかった以上、離婚を追認しても離婚を有効とすることはできないという考え方があります。

この考え方によれば、正式に離婚をするためには、おそらく、いったん離婚を無効とする手続きを踏んだうえで、さらに離婚届を提出することになると思われます。

もう一つの考え方として、離婚届提出時に離婚意思がなかったとしても、離婚の追認により、現時点で双方の離婚意思は明らかとなっているのであるから、追認があれば、もはや離婚を無効と扱う必要はないという考え方があります。

この点について、最判昭41年12月8日判決は、夫が勝手に離婚届を提出したケースにおいて、妻はその無効な協議離婚を追認することができるとしています。

この最高裁の判決に従えば、離婚意思なく離婚届が提出されても、後になってそれを認めれば、離婚は有効なものとして扱われます。

そのため、離婚無効確認の訴えなどにおいては、離婚意思の有無の他、この追認の有無が相手方から主張され、争点になることがあります。

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