生命保険の解約返戻金と財産分与~現実の分与と名義変更~

夫婦の一方が生命保険に加入していた場合、その「生命保険の価値」が財産分与の対象となることがあります。

掛捨て型生命保険と貯蓄型生命保険

生命保険には、大きく掛捨て型と貯蓄型(積立型)の生命保険の2種類があります。

掛捨て型生命保険は分与対象外

このうち、掛捨て型は、解約しても、返戻金が無いのが通常であり、この場合、財産分与の対象とはなりません。

貯蓄型生命保険が分与対象

他方で、貯蓄型生命保険は、これを解約した場合に一定額が返戻されるのが通常です。

夫婦生活中に、この積立型生命保険の保険料を夫婦が支払ってきた場合、当該生命保険は、財産分与の対象となり得ます。

 

生命保険の評価額は解約返戻金で評価

生命保険が財産分与の対象となる場合、その価値は、次の通り、解約返金額によって把握するのが一般的です。

  • 夫婦が離婚に先立って別居しているとき
    ⇒別居開始時の解約返戻金額
  • 夫婦が別居をせず、離婚に至った場合
    ⇒離婚時点における解約返戻金額

生命保険と特有財産

生命保険の財産分与を巡って問題となることが多いのが、特有財産です。特有財産とは、夫婦の協力・貢献とは無関係に形成された財産であり、財産分与の対象から除外します。

参考:特有財産とは?離婚時の財産分与の対象とならない財産

結婚前から保険料が支払われていた場合

たとえば、妻が、婚姻前から貯蓄型の生命保険に加入しており、婚姻後も当該保険契約を継続し、その保険料を夫婦の収入から支払ってきた、というケースを想定します。

婚姻後の支払部分

このケースでは、婚姻後の支払い部分は、夫婦が協力して行ってきたものといえますので、その部分は、財産分与の対象と評価されます。

婚姻前に支払われた部分

他方で、婚姻前に妻が支払ってきた部分は、夫婦の婚姻生活とは無関係の部分ですので、特有財産として、財産分与の対象から除外して考えます。

たとえば、結婚前に妻が2年間保険に加入し、結婚後8年間保険料を支払い続けたという場合、当初の2年部分は妻の特有財産と評価し、残8年部分は、財産分与の対象として考えることとなります。

財産分与の対象となる範囲の算定評価

この場合、夫婦の共同の財産と評価される解約返戻金の範囲は、別居時又は離婚時点における解約返戻金額の10分の8と判断されることが多いです(支払期間にて按分して算定評価する)。

ただし、婚姻時に仮に解約をしていたとすれば、いくら返戻されたのか、が資料などから明らかになるケースでは、「解約返戻金の額」から婚姻時の解約返戻金の額を差し引きして、分与対象額を特定することもあります。

夫婦の親が支出していた場合

また、ケースによっては、夫婦の一方の親が自分の子の生命保険料を支払っている、というケースもあるようです。

この場合、夫婦の一方の親が、円満な夫婦生活を支援する目的で、夫婦双方に贈与する意思で保険料を支払っていたというような事情がある場合は例外ですが、こうしたケースでは、通常は、その保険料の支払いは親の自らの子に対する好意等によるものであり、夫婦生活によって、保険の価値が積み上がっていた、との評価を受けることはあまりないのではないかと思われます。

この場合、婚姻期間中に保険料が支払われている、とはいえ、保険料の支払いは、親の自らの子に対する贈与と評価され、当該保険の解約返戻金は、財産分与の対象から除外されます。

証明責任

生命保険の解約返戻金の分与をめぐっては、上記の通り、「その解約返戻金の一部に特有財産性が認められるか」がしばしば問題となります。

裁判所で、どの範囲が特有財産か、が争いとなる場合には、「その生命保険に特有財産となる部分が含まれる」と主張する側が証明の責任を負います。

たとえば、妻が、「婚姻開始後、2年間は、自らの独身時代の貯金(特有財産)を原資として、生命保険料を支払っていたので、その部分は特有財産である」と妻が主張する場合、当該2年間の支払いの原資が妻の独身時代の貯金であったことを妻が証明する必要があります。

裁判などの手続において、特有財産性が認められるのは、この証明がなされた限度であり、その証明がなされない部分・範囲については、妻の特有財産性は否定され、夫婦の共同財産として財産分与の対象とされます。

 

分与の方法

上記のとおり、生命保険のうち、財産分与の対象となる範囲を見てきましたが、次に、分与の方法について説明をします。保険を財産分与の対象とする場合、分与の方法は大きく次の二つです。

  • 保険を解約し、解約返戻金を分与する方法
  • 保険契約の名義を変更する方法

保険を解約し、解約返戻金を分与する方法

保険を解約し、解約返戻金を分与する方法は、シンプルです。現に得られた解約返戻金を分け合う、という方法になります。保険に特有財産が含まれている場合には、その部分を控除した残額を夫婦が分け合うこととなります。

たとえば、夫婦の預貯金が300万円、解約返戻金が200万円、そのうち、50万円の限度で、妻の特有財産性が認められる、というケースを想定します。

この場合、夫婦共同の財産と評価される部分は450万円ですから(預貯金300万円+返戻金200万円-特有財産50万円)、いわゆる2分の1ルールに従えば、夫の取り分は「225万円(分与額)」となり、妻の取り分は「225万円(分与額)+50万円(特有財産)」ということになります。

保険契約の名義を変更する方法

もう一つの分与方法として、保険契約の名義を変更する、という方法があります。

夫婦の預貯金が300万円、夫名義の生命保険(妻が被保険者、受取人が夫)の解約返戻金が200万円、そのうち、50万円の限度で、夫の特有財産性が認められる、というケースにて、この保険を妻名義へと変更するという場合について説明をします。

名義の変更は夫婦の合意と保険会社への手続きで可能

通常の保険契約においては、上記ケースにおいて、契約者である夫と妻の合意があれば、契約者名義・受取人を変更することが可能です。

上記のケースでは、夫婦の合意の下で、保険会社で手続きを行うことにより、夫が、その名義を妻に変更することができます。また、受取人についても、夫から子に変更する、という手続が可能です。

要は、保険会社の手続を介して、保険契約そのものを、妻に帰属させるのです。

財産分与としての履行と残余財産の清算

離婚に際して、上記のような保険契約の名義を変更する場合、夫婦は、この名義変更手続の実施をもって、財産分与の一部を履行したものと扱うこととなります(判決や審判などではこうした処理はなされず、夫婦の合意の下で、これを財産分与として行うこととなります。)

では、この場合の、残余財産の清算はどうなるでしょうか。

上記のケースで、この夫婦の共同財産とされる部分は、全体で450万円です。

いわゆる2分の1ルールに従えば、妻の取り分は225万円となります。

また、夫は、本来であれば、225万円(分与額)+50万円(特有財産)の合計275万円を取得し得たはずです。

したがって、夫は、夫婦預貯金の中から275万円を受領することとなります。他方で、妻は、200万円の価値と評価される生命保険を受け取る一方で、預貯金については、残余の預貯金25万円のみを取得することとなります。

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