複数の未成年者がいる夫婦間においては、親権者あるいは監護権者を指定するに際して、兄弟不分離の原則がクローズアップされることがあります。
兄弟不分離の原則とは
兄弟不分離の原則とは、複数の未成年者がいる場合の親権者・監護権者の指定に際しては、その未成年者らの親権者・監護権者は、父母のどちらかに統一すべきである、という考え方を指します。
未成年者が複数いる場合に、家庭裁判所で親権者や監護権者を指定するとき、子の引渡しが問題となるケースでクローズアップされます。
根拠・背景
兄弟不分離の原則の考え方の根拠・背景となるのは、次のような点です。
- それまでともに、生活していた兄弟を引き離してしまうことが、未成年者らに大きな精神的負担・ショックを与える可能性が高い。
- 兄弟ともに精神的な交流を図ることが心身の健全な発達に寄与すると考えられる。
性別は関係がない
なお、ここでいう「兄弟」は、同一の父母の子を指します
兄と弟ではなく、姉妹であっても、あるいは兄と妹であっても、姉と弟であっても、この原則は機能します。未成年者らが男児であるか女児であるかは関わりありません。
その意味で言うと「きょうだい不分離の原則」と書く方が理解の上では適切と思われます。
兄弟不分離の原則と離婚協議
離婚協議に際して、父母双方の合意があれば、一方の未成年者を父に、一方の未成年者を母に、と分離して指定することは可能です。
また、様々な事情・背景から、兄弟を分離して親権者などを定めるケースも当然に存在します。
裁判所の判断基準として機能する
兄弟不分離の原則は、裁判所が未成年者らの親権者・監護権者を定める場合の判断要素となります。
原則が作用する場面の例
父親を希望 | 母親を希望 | |
未成年者A (15歳) | △ | 〇 |
未成年者B (6歳) | 〇 | △ |
たとえば、上記のように、未成年者らが希望している親が異なるケースにおいて、一方の未成年者(B)は父親を親権者と希望しているものの、もう一方の親権者Aが希望する母親に親権者を統一すべき、といった方向で兄弟不分離の原則が作用し得ます。
絶対的な考え方ではない
もっとも、親権者や監護権者をしている場合、裁判所は、他の要素も考慮に入れて、判断をします。
父母に関する事情 | 監護に対する意欲・能力・子に対する愛情の程度 |
父母の健康状態 | |
経済的、精神的家庭環境 | |
居住、教育環境、祖父母などの支援の状況 | |
監護実績・従前の監護状況 | |
未成年の子に関する事情 | 子どもの年齢、性別、心身の発育状況 |
兄弟姉妹の関係 | |
従来の環境への適応状況 | |
子の意思(特に8歳~10歳程度以降、年齢を重ねるごとに子の意思が重視される |
兄弟不分離の原則は、絶対的なものではなく、親権者・監護権者を判断する上での一要素にすぎないことに注意が必要です。
参照:親権・監護権者の指定
参考事例
参考事例の一つとなるのは、令和4年12月14日の千葉家庭裁判所の判決です。
この事案は、長男を父親が、次男を母親が別々に監護していたケースです。
父親の主張
父親は、概要次のような主張をしています。
- 子の人格形成の面から兄弟を別々に監護することなく、同じ親権者が引き取るのが望ましい。
- 同居中、長男と二男の関係はとても良好で、二男は父親、長男との生活を希望している。
- 二男の生活の基盤はD市の自宅にあるため、二男が自宅(母親宅)に戻ってくることが二男の福祉に合致する。
この点に関し、裁判所も、「長男と二男の兄弟仲は非常に良好で、二男は同居中に両親の不仲を目の当たりにしていたこともあり、長男を自分を守ってくれる存在として信頼していたことがうかがわれ、その精神的な結びつきは強いといえる。」と認定しています。
判決(兄弟分離もやむを得ない)
もっとも、上記のケースで裁判所は、次のような事情を挙げて「長男及び二男の親権者をいずれも原告か被告の一方とすることは相当ではなく、長男の親権者を被告、二男の親権者を原告とすることはやむを得ない。」として、兄弟を分離して親権者を指定しました。
- 現在の長男の生活及び二男の生活にそれぞれ問題はなく、長男は被告との生活を希望し、二男は原告との生活を希望している。
- 二男は、現在、被告の暴力を怖がっている様子が見受けられる。
ここでは、従前の監護状況・子供の意思を尊重した判断がなされており、兄弟不分離の原則の考え方とは異なった判断がなされています。