一旦は協議離婚をしたものの、その協議の際に相手方が嘘をついていた、あるいは相手方から恐怖心を与えられて離婚協議書に同意をしてしまった、と言う場合、その離婚の効力はどうなるのでしょうか。
離婚の取消
民法は、「詐欺・強迫による協議離婚の取消」という制度を設けています。民法764条が準用する民法747条が該当する条文です。
民法 (婚姻の規定の準用)
第七百六十四条 第七百三十八条、第七百三十九条及び第七百四十七条の規定は、協議上の離婚について準用する。
民法 (詐欺又は強迫による婚姻の取消し)
第七百四十七条 詐欺又は強迫によって婚姻をした者は、その婚姻の取消しを家庭裁判所に請求することができる。
2 前項の規定による取消権は、当事者が、詐欺を発見し、若しくは強迫を免れた後三箇月を経過し、又は追認をしたときは、消滅する。
詐欺による場合
民法が定める離婚取消原因の一つは、「詐欺」です。
端的に言えば、「相手を騙す行為」を言います。離婚原因や離婚の条件に関して、相手に騙された離婚原因が生じた場合に、取消事由が生じます。
ただ、ちょっとした嘘で取り消しを認めると、離婚が容易に覆されてしまいますので、少なくとも、その嘘が協議離婚に至った一因である、といった程度の欺罔行為であることが必要と理解されます(どの程度の欺罔行為であることを要するかについては、種々の見解があるところです。)。
取消の該当例として当たり得るのは、たとえば、真実、不貞相手との交際・結婚を目的としていたのに、「借金で迷惑をかけるから」とありもしない借金を理由に離婚を迫った、などがこれに該当し得ます。
強迫による場合
民法が定めるもう一つの離婚取消原因が「強迫」です。
典型例は、DVや脅しなどによって、相手方を怖がらせ、その状況化において、離婚届に署名をさせた、といったものです。
取消の手続
民法747条は、取り消しの手段として「家庭裁判所」への「請求」と記載しています。取り消しは当然には認められず、家庭裁判所への請求というアクションが必要となります。
家庭裁判所の手続
そのため、離婚取消をしようとする場合には、離婚取消を求める家庭裁判所の「調停」「審判」あるいは「訴訟」を行う必要があります。
なお、調停前置主義が妥当しますので、原則としていきなり「訴訟」を起こすのではなく、当事者は調停から手続をスタートすることになります。
相手方が争う場合
離婚の相手方が、詐欺や強迫を争う場合、裁判では、これを主張する側が、「詐欺」や「強迫」のあったことを立証していくこととなります。
ここで立証のために重要となるのが「証拠」です。
詐欺や強迫を証明するための証拠としては、たとえば、当事者間のメールやライン、録音・動画などが考えられます。
請求期限
離婚取消の請求期限は、当事者が、詐欺を発見し、若しくは強迫を免れた後三箇月を経過したときです。
また、離婚について追認をしたときにも取り消しはできなくなるとされています。
離婚無効との違い
念のため、離婚無効との違いについて。
離婚取消と離婚無効とは、離婚の効力を否定する、という意味では同じですが、想定している場面が全く異なります。
離婚無効は、そもそも夫婦の一方に離婚意思がなかった、といった場合が典型であるのに対して、離婚取消は、詐欺・あるいは強迫によって「離婚意思」が形成されてしまった場面で問題となります。