今回は、夫婦が離婚をするために必要な別居期間についてです。
当事者双方が合意によって離婚できる場合は、特段別居期間の長短は問われません。
この記事では、離婚協議や調停で夫婦の一方が婚姻関係の解消に同意しない、という場合に訴訟で強制的に離婚を成立させるためにどの程度の別居期間を要するか、という点がテーマです。
必要な別居期間
夫婦が離婚するために必要な別居期間は、どんな専門家に聞いても正確に答えることはできません。
「離婚に必要な別居期間」と検索してみて、弁護士などが運営している複数のサイトを見ると気が付かれるかと思いますが、書いてあることもバラバラだったりします。
少ないですが、離婚に必要な別居期間について15個のサイトを見た結果は次のとおり。
- 5年~10年とするもの 4件
- 3年~5年とするもの 9件
- 5年程度・5年以上とするもの 2件
※有責配偶者のケースはここでは除外して調査しています。
別居が離婚原因になる理由と考え方
上記のように、弁護士などが運営している、いわば専門家の目から見ても、離婚に必要な別居期間には幅があります。
実際どのサイトで書いてあることが正しいんだ、と考えることには意味はありませんし、上記に挙げた以上の数のサイトを見て回ることにも意味は無いです。
大事なのは、別居が離婚原因になる理由と考え方です。
別居は夫婦関係の破綻を示す一要素
民法では、法定離婚原因として、「別居」は記載されていません。
別居を理由に離婚が成立しうるのは、これが長期間続いたことをもって、夫婦関係が破綻しており「婚姻を継続しがたい重大な事由」(法定の理由)があるとの評価を受ける場合です。
「別居」はあくまで夫婦関係の破綻を表す一要素です。
諸般の事情が考慮される
そして、夫婦関係が破綻しているか否かは、その他もろもろの事情を勘案して決せられます。代表的な要素としては次のような事情です。
- 未成熟子の有無
- 子どもの年齢
- 婚姻期間・同居期間の長短
- 別居に至った経緯・理由
- 別居の態様
ケース例
上記の内、たとえば子供がいない、という夫婦で婚姻期間・同居期間も短く、別居に至った経緯に関し、離婚を請求する側に汲むべき事情(たとえば、夫婦間でいきなり婚姻関係を解消すべきとは言えないまでも、一定程度のモラハラがあった。別居期間中もメールなどでモラハラが散見される)などの事情があれば、別居期間は3年より短くなるというケースもあり得ます。
反対に、たとえば、未成熟の子どもがおり、婚姻期間・同居期間も比較的長い、というケースで、離婚を請求された側に非難されるべき点が無いあるいはほとんどない場合では、別居期間が3年では離婚できない、ということもありえます。
その他、たとえば、夫が離婚を請求しており、離婚成立によって妻と妻の下に居る子供が経済的に困窮することが予想されるようなケースでも、必要な別居期間は長くなるように思われます。本来の思考過程とは離れますが、「夫婦関係が破綻しているか」だけではなく、離婚した場合に不都合な「結果」が生じないか、も実際は裁判所の判断対象になっています。
離婚そのものを争っているのか、条件の争いなのか
また、「離婚に必要な別居期間」を解説しているサイトの中で、言及されていることが少ないように思うのが、「なぜ協議離婚が成立しないのか」という視点です。
より具体的に言えば、慰謝料や財産分与など金銭的な条件に関わりなく離婚そのものを当事者が争っているのか、条件さえ整えば離婚が成立しそうだが、その条件が整わないのか、という視点です。
これは感覚的なところを含みますので、断定的には言えませんが、訴訟に先立つ調停での話し合いの内容が、「金銭的な条件さえ整えば離婚が成立しそうだが条件が整わなかった」という場合には、裁判所としては、夫婦関係は破綻しているとの判断を行いやすく、離婚に必要な別居期間は一定程度短くても足りるように思います。
ここでも、結果の妥当性が裁判所の判断のなかで重要な位置づけとなりえます。
ただただ、別居期間が過ぎるのを待つべきか。
離婚を請求したい側は、上記に挙げたようなサイトで説明される別居期間の経過をただただを待つべきでしょうか。
離婚に向けた行動を起こすべきタイミング
上記のとおり、別居を理由に訴訟で離婚をするためのには一定の期間が必要です。ただ、これは別居時から判決時(正確には口頭弁論終結時)までの期間です
離婚手続に要する期間
離婚手続は協議・調停・訴訟の三段階で進みます。
別居を開始して、弁護士にすぐに事件を依頼して、という場合でも、弁護士が離婚協議を行う過程で一定期間が経過します。
また、調停手続は、何度か審理をしているだけで、半年程度は経過をします。
離婚訴訟も、1年以上を要するケースが往々にして見られます。控訴審にまで手続が進めばさらに期間は経過します。
上記のような手続の過程で、最初は離婚自体を拒否していたけれども、途中から条件を巡る協議に移り変わっていく、というケースも少なくありません。
手続きに要する期間を考慮に入れて方針を立てる
こうした手続に必要な期間を勘案すると、別居開始後、離婚に向けた行動を起こすまで、そこまで長期の期間を持たなくてもよいのではないか、と思われるケースも往々にしてあるのです。
「別居」以外の「婚姻関係破綻」を基礎づけうる要素が複数重なったような場合はなおさらです。
もちろん、上記のとおり、必要な別居期間はケースバイケースですので、一概には言えませんが、別居を理由に離婚を請求するという方針の場合でも、手続を進めていく過程で必要となる期間、その他婚姻関係の破綻を基礎づけうる事情の有無も考慮にいれて、どのタイミングで行動を起こすのか、を検討することが重要です。
互いの気持ちが変わることも
また、上記で説明してきた別居期間は「裁判」で強制的に夫婦関係を解消させるために必要となる期間です。
実際には、離婚することに迷っていた夫婦においても、別居開始後、その気持ちが変わることも往々にしてあり、いざ別居が始まってみると短期間で離婚に至るケースもあります。
当初、離婚の合意ができなくとも、途中で、互いに合意ができれば、その時点で夫婦関係の解消が可能です。
次の図は、厚生労働省の令和4年に発表した「離婚に関する統計の概況」のうち、「令和2年度の詳細分析」と題するレポートから抜粋した図です。
この図からは、別居から1年未満の期間で離婚成立に至っているケースが全体の82.8%を占めています。
また、次の事情から、別居開始後、調停手続が採られたケースにおいても、1年以内に半数以上の夫婦が離婚に至っていることが推定されます。
- この図の最下段「裁判離婚」は、調停手続も含む数字と説明されている。
- 訴訟による離婚(和解や判決)に行きつくには通例1年以上を要するので、調停を超えて訴訟まで至ったケースは大部分が「1年から5年未満の枠」(34.1)あるいはそれ以上の期間の枠に含まれると考えられる。
- ➀➁より、「裁判離婚」の段の記載の1年未満で離婚を成立させた56.8%の夫婦は、大部分が調停手続によって夫婦関係を解消したものと考えられる
上記のように、別居開始後、1年以内で離婚を成立させている夫婦が大多数であることからすると、離婚を請求したい側は、別居開始後、期間の経過を待つというよりは、比較的早い時期に積極的なアプローチを開始するほうが、離婚という目的達成の近道といえそうです。