離婚自体と原因に関する慰謝料

夫婦が離婚をしたとき、ケースによっては、一方当事者が有責であり、慰謝料の支払い義務を負う、というケースがあります。

今回は、この慰謝料についての概念整理です。講学的な話になります。

ケース想定

たとえば、夫婦関係にあるA及びBの婚姻関係が、Aの不貞など、その責めに帰すべき事情により破綻したというケースで、ABが別居を開始し、Aの不貞など有責行為があったときから一定期間が経過した後、BがAに対して離婚請求をしたとします。

このケースで、Bは、Aに対して、不貞などの夫婦関係の破綻の原因となった行為自体を不法行為ととらえて、慰謝料請求をすることもできますし、Bは、「そのためにやむなく離婚に至った」ことを理由にAに請求をすることもできます。

原因慰謝料と自体慰謝料

上記の➀夫婦関係破綻の原因となった行為に対する精神的苦痛に対する賠償金を原因慰謝料といい、➁「有責行為のために離婚にいたったこと自体」による精神的苦痛に対する賠償金を「離婚自体慰謝料」などと呼びます。

概念区分する理由

どうしてこんな風に分けるんだ、と普通は思います。ただ、これには意味があります。

慰謝料請求権には時効(期限)があり、不法行為及び加害者を被害者が知った時から3年経過などすると、これを請求することができなくなってしまいます。

そして、婚姻期間中に夫婦の一方が、他方配偶者に慰謝料を請求することは往々にして困難です。

その結果、離婚前に、➀原因慰謝料につき、時効が完成し(期限を迎えてしまい)、一方配偶者が権利行使をすることができなくなってしまう、というケースが生じます。

しかし、上記の事例で有責配偶者Aが責任を免れるというのは、必ずしも妥当な結論ではありません。

こうした理由もあって、実務上は、➁「離婚せざるを得なかったこと自体」を捕捉し、概念区分しています。

その結果、婚姻期間中の不貞行為を配偶者が知った時から3年が経過したあとも、当該有責行為が原因で離婚にいたった、という場合には、法律上の婚姻関係解消のときから3年間は夫婦の一方(上記ケースではB)からの慰謝料請求が認められる取り扱いとなっています。

最高裁昭和46年7月23日判決

上記に関して、最高裁判決は次のように述べています。

本件慰藉料請求は、上告人と被上告人との間の婚姻関係の破綻を生ずる原因となった上告人の虐待等、被上告人の身体、自由、名誉等を侵害する個別の違法行為を理由とするものではなく、被上告人において、上告人の有責行為により離婚をやむなくされ精神的苦痛を被ったことを理由としてその損害の賠償を求めるものと解されるところ、このような損害は、離婚が成立してはじめて評価されるものである

なお、この事案の原審は、自体慰謝料について、「離婚による精神的損害は離婚という事実が現実となってこそはじめて確実に実感されうるもの」と表現しており、理解し易い・腑に落ちる表現がなされています。

両者の関係

上記の概念区分は、次に、当然のことながら、原因慰謝料と自体慰謝料との関係性に対する議論を生みます。

通説的には、この二つは、概念区分はされるものの、後者が前者を包摂する、と理解されています。

この場合、「後者だけ請求」するケースと「前者後者併せた請求」するケースとでは、認容される金額は変わらないと考えられます。

上記概念区分に伴う緒問題

上記の概念区分は、さらに次のような論点を生みます。

  • 自体慰謝料は、不貞行為の相手方たる第三者に対しても請求できるのか
  • 自体慰謝料の起算点はいつか
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