暴力・DVの証拠~証明対象を二つに分類して考える~

離婚をするにしても、慰謝料請求をするにしても、暴力・DVを原因とする場合には、これらの証拠が重要です。

証拠の重要性

暴力・DVの証拠は、話し合いに際しても、調停、裁判においても重要な意味を有します。

暴力・DVは、これを証明する証拠がない場合、往々にして、加害者とされる側はその事実を争います。そして、裁判においても、加害者がこれを争う以上、証拠無しにその認定をうけることはできません。

他方で、証拠がある場合、それが決定的なものであれば相手はこれを争うことなく、離婚や慰謝料の支払いに応じる、というケースも生じ得ますし、少なくとも話し合いや調停でも、DVが存在した、との前提で有利に交渉を進めることが可能となります。

また、裁判では、証拠は、裁判官から暴力・DVの認定をえるための材料となります。

証拠のある無しによって、離婚手続の進み方、結論はまるで異なることになるのです。

暴力・DVを証明する証拠~証明対象を分類して考える~

「暴力・DVを証明する証拠」という場合でも、証拠のもつ意味や証拠価値は様々です。

証明対象を2つに分類して考える

暴力・DVを証明する証拠を理解するうえで、もっとも重要な視点は、その証拠で何が証明できるのか、という「証明対象」の視点です。

証拠は、証明対象に応じては、次の二つに分類して整理をして理解すべきです。正確には①と②を結びつけるという位置づけの証拠もありますが、簡易には次の2つに分類するのが分かりやすくおすすめです。

  1. 「DV・暴力があったこと」を証明する証拠
  2. 「ケガが発生したこと」を証明する証拠

こういう風に証拠を分類したうえで、実務的な傾向を述べると、通常、後者②については証拠があるというケースが比較的多いですが、そのケガの原因となった①「DV・暴力があったこと」を証明する証拠については、これが無いというケースが多いように思われます。

主観証拠と客観証拠

また、証拠の分類方法として、主観証拠と客観証拠とに分類して思考を整理することも有用です。

主観証拠について

主観証拠は、人の記憶や認識を証拠化したもので、陳述書などがその代表例です。

主観証拠は上記①「DV・暴力があったことを証明する証拠」②「ケガが発生したこと」を証明する証拠として機能しえます。

ただ、DV被害者本人の供述はそこまで証拠価値は高くありません。

第三者の目撃情報などは証拠価値が高いといえますが、DV・暴力は密室・家庭内で行われることも多く、通常入手しにくい証拠と言えます。

実務的には、主観証拠は、次に述べる客観証拠が一定程度ある場合に、これを補強する材料としての価値を有することが多いです。

客観証拠

客観証拠は、多義的ではありますが、ここでは本人の供述・説明に左右されない証拠と理解してください。

客観証拠も、①「DV・暴力があったこと」を証明する証拠と「ケガが発生したこと」を証明する証拠とにわけて思考を整理すべきです(両者が重なり合うケースもありますが、思考の整理の上ではやはり分類して考えることを勧めます。)。

ケガが発生したことを証明する証拠の例
  • ケガの部位が映った写真
  • 診断書、カルテ(ただし後述)
  • 病院・調剤薬局の明細書
暴力があったことを証明する証拠の例
  • DV加害者がこれを認めている内容の話をしている電話録音
  • DV加害者が、暴力をふるったことについて謝罪をしている内容
  • 家庭内で壊された家具や割られたガラス、携帯電話類の写真

なお、暴力・DVは、これが単発であるか、継続的なものであるかが重要な意味を持ちます。

上記証拠も、一時のものだけではなく、日常的・継続的にDV・暴力がなされたことがうかがわれる証拠の有無が重要となります。

診断書やカルテの位置づけ

DVの証拠としてしばしば提出されるのが診断書や病院のカルテです。

なかには、「配偶者暴力が行われた」旨の記載のあるカルテ・診断書なども証拠として提出されることがあります。

ただ、医師は、本人の話を聞いてカルテ・診断書を作成しますので、仮に診断書類に「配偶者暴力が行われた」旨の記載があったとしても、これだけでは「暴力があったこと」を証明する証拠としては弱い部分があります。

配偶者暴力があったとの記載部分は、本人の医師に対する説明等によりコントロールが効く部分である、との評価を裁判所から受けうるからです。

診断書は、診断の結果たる「ケガや後遺障害が発生したこと」を証明する証拠としての価値は比較的高いと言えますが、他方で、その「原因」が配偶者の「暴力であったこと」までの事実を証明する証拠としては弱点がある、と理解しておく方が無難なように思われます。

警察への通報歴や相談歴

さらに、警察への通報歴や相談歴も証拠となります。

ただ、この通報歴や相談歴も、被害者本人が通報し、あるいは本人が相談することで作成されうる証拠です。

そのため、他の証拠と相まって、DV・暴力があったことの認定を助ける働きをすることがあるにしても、これだけでその認定を受けうるほどの証拠価値はないように思われます。

証拠の総合評価

暴力・DVは、密室で行われるものでもあるため、その証拠を得ることは非常に難しいことが多いです。日常的に行われていたことを証明しようとなるとなおさらといえます。

DV・暴力を原因に離婚請求・慰謝料請求をしていく場合には、たとえば、次の①~③の証拠などを基礎に、カルテや診断書の記載、警察への相談歴、被害者本人の説明などでこれを補強し、DVの認定を得ていくことを目指すことになります。

①ケガなどを証明する写真

②DV加害者が「加害を認めている」あるいは「DVがあったことを前提としている」会話などの録音

③ラインのトーク履歴など

なお、これらの証拠は、「このうちのどれかがあればいい」とか「全部なければならない」といったものではなく、すべての証拠を有機的に結び付けた総合判断となります。

証拠の評価・証拠価値に判断には高い専門性が必要ですので、暴力・DVを原因とする離婚などを検討している場合には、ぜひ弁護士に相談されるようにしてください。

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