モラハラ慰謝料は、弁護士がしばしば相談を受ける事柄の一つです。
モラハラの認定が受けられれば、慰謝料請求が認められることもありますが、そもそも、その証明が相当難しいのが現状です。
証明の対象
モラハラを慰謝料請求の理由とする場合、証明の対象は、「モラハラがあった」という主張そのものではありません。
「モラハラ」か否かは、裁判官が「事実」をもとに、そう評価するか否かの問題であり、直接の証明対象は、配偶者の「言動」「エピソード」です。
たとえば、「使えない妻だ」「役立たずの夫だ」、こうした発言があったかなかったか、また、こうした発言・言動がどの程度継続的に行われているのかなどが証明の対象となります。
モラハラ該当性・違法性の評価
裁判では、証明された事実をもとに、次にそれがモラハラにあたるのか、違法性があるのか、の評価を与えられます。
たとえば、双方口汚くの罵り合っているようなときに、一方の当事者の言動だけを切り取って「モラハラだ」「違法だ」という評価をうけることはありません。
また、一回きりの発言をもって、慰謝料が認められるほどの違法性が認定されるケースも、ほとんど無いように思われます。
認定を受けるのは相当難しい
モラハラによる慰謝料の主張はそもそも、認定を得ることが相当難しい部類の事案です。
否定例は次のように分類されます。
- そもそも証拠が十分にないというケース
- モラハラの評価を受けないケース
そもそも客観的な証拠がないというケース
こうしたケースでは、相手が認めていない限り、そもそもモラハラの評価の対象となる言動があったとの認定を受けることが難しいです。たとえば次のような裁判例があり、当事者の言い分や、当事者の言い分を基にしてつくられる証拠だけでその認定をうけることは難しいといえます。
後者の事例では、DVにつき、警察に相談をしたときに作成される生活安全相談処理結果表記載の内容も、当事者の認識が一方的に記載されたものであるとの理由で、モラハラ・DVの認定材料としては排斥されています。
東京地方裁判所令和3年11月29日判決
東京地方裁判所令和3年11月29日判決は、客観証拠の無い事案に関して、次のように述べています。
東京地方裁判所令和2年11月19日判決
東京地方裁判所令和2年11月19日判決は次の内容の判断を示してます。陳述書に対する評価付け、警察相談記録への評価付けをしている点が参考となります。
原告は本件と直接の利害関係を有する当事者である上、その陳述書は反対尋問を経ていないから、その証明力の評価は慎重にされるべきである。
当該陳述書には被告による暴言や暴力の内容がある程度具体的に記載されていることは認められるものの、被告はこれらを否認しており、本件において、当時の会話録音や動画、画像等、被告による暴言や暴力を裏付ける的確な証拠は何ら存在しない。
そうすると、上記陳述書の記載のみをもって、婚姻期間中に被告の原告に対する暴言、暴力等の日常的なモラルハラスメント行為があったと認めることは困難である。
なお、証拠によれば、原告がB警察署に対して生活安全相談をした際の生活安全相談処理結果表(以下「相談処理結果表」という。)の「相談の要旨」欄には、「私は元夫と平成20年1月に結婚し、暴力はその1年後くらいから始まりました。」「暴力の頻度は2ヶ月に1回程度」などと記載されていることが認められるものの、これは原告の認識が一方的に記載されたものにすぎないから、上記認定、判断を左右しない。
モラハラ・違法性の認定がなされないケース
また、一時的に攻撃的な言動があったとしても、夫婦げんかの範囲内、あるいは一時的なものにすぎないなどとして違法性の認定がなされない場合もあります。
東京地方裁判所平成30年12月27日判決
たとえば、東京地方裁判所平成30年12月27日判決は、暴言・暴力につき、夫婦げんかの域を超えたものと言えるか否かを一つの判断目安にしています。
東京地方裁判所令和3年7月16日判決
この判決の事案は、離婚請求を受けた被告が、原告のモラハラが婚姻関係破綻の理由だと主張した事案のため、慰謝料請求とは文脈が違いますが、次のように述べており、参考になります。
モラハラによる慰謝料請求と証拠について
上記に見てきたように、モラハラを理由とする慰謝料請求は、証拠・評価ともに相当程度のハードルがあり、慰謝料認定をうけることが難しい部類です。
慰謝料請求が認められるためには、たとえば次のような証拠があるか、準備できるかが重要な検討ポイントです。一時的な言動の証拠だけでは不十分な場合もあり、ある程度の継続性をもってモラハラ言動がなされたことを証明できるかもポイントです。
- モラハラ言動が記載されたメール・ライン
- 言動の録音内容
- 相手方がモラハラを過去に認めた念書など
個々の具体的なケースで、モラハラ慰謝料が認定されうるだけの証拠といえるか、仮に認められるとして慰謝料はどの程度になるのか、などについては、よくよく弁護士にご相談いただけますと幸いです。