面会交流の権利性(子供に会う権利)について

多分に講学的な議論ではありますが、別居中の親や、離婚して親権の無い親に、「子に会う権利」があるのか、という点についてです。

面会交流に関する民法の規定

民法の規定には、「親は子に面会し、または交流する権利を有する」との規定はありません。

旧民法766条

平成24年の改正前旧民法は、離婚に際する子の監護に関する事項につき、次のように定めていました。

旧民法766条
【第1項】
父母が協議上の離婚をするときは、子の監護をすべき者その他監護について必要な事項は、その協議で定める。協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所が、これを定める。
【第2項】
子の利益のため必要があると認めるときは、家庭裁判所は、子の監護をすべき者を変更し、その他監護について相当な処分を命ずることができる。

改正民法766条

上記旧民法は、現在、次のように変わっています。

改正民法766条
【第1項】
父母が協議上の離婚をするときは、子の監護をすべき者、父又は母と子との面会及びその他の交流、子の監護に要する費用の分担その他の子の監護について必要な事項は、その協議で定める。この場合においては、子の利益を最も優先して考慮しなければならない。
【第2項】
前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所が、同項の事項を定める。
【第3項】
家庭裁判所は、必要があると認めるときは、前二項の規定による定めを変更し、その他子の監護について相当な処分を命ずることができる。

改正後の民法には、旧民法にはなかった「子との面会」という文言が追加されています。

とはいえ、その規定ぶりは、「面会その他の交流に関して協議で定める」、とするのみで、「会わせなければならない」とまでの表現とはなっていません。

学説において

法律に直接の規定がなくても、解釈において、権利義務関係が肯定される、という例は少なくなく、親の子どもに会う権利についても様々な見解が提唱されています。

主な見解は次の3つです。

  1. 見解1 親は、子供に会う権利を有する
  2. 見解2 親は、子供に会う権利を有しない
  3. 見解3 子供との面会に関して、裁判所に適正に判断してもらう権利を有する

見解1 親は子供に会う権利を有する

面会交流を支える最もシンプルな見解は、「親は子供に会う権利を有する」という見解です。

その理屈付けとしては、「身分関係から当然に認められる」とか「固有の自然権」である、などが挙げられます。

憲法が定める幸福追求権の一つと考える見解もあります。

「親権」の中にこれが含まれている、という見解もありえますが、この見解だと、別居中の非監護親の面会は基礎づけられても、離婚後の非親権者の面会を基礎づけることができないとの不都合があります。

見解2 親は子供に会う権利を有しない

親は子供に会う権利を有しないという見解もあります。

これは、「会ってはならない」という過激なものではなく、親の請求権としては認めない、というものです。相手親の同意や裁判所の定めた条件・態様で会うことは否定していません。

この見解は、面会交流を「子の親に対する権利」と把握する考え方と親和的です。

なお、子供の権利条約は、第9条第3項において,「締約国は、児童の最善の利益に反する場合を除くほか、父母の一方又は双方から分離されている児童が、定期的に父母のいずれとも人的な関係及び直接の接触を維持する権利を尊重する。」 と定めており、面会交流を子供の側からの権利として構成しています。

見解3 親は、子供との面会に関して、裁判所に適正に判断してもらう権利を有する

この見解は、親が子に会う権利を実体的に認めるものではなく、子供との面会に関して裁判所に適正に判断してもらう権利として構成します。

別居中の場合も、離婚後の場合も、親は、家庭裁判所に対して、面会交流に関し、適正な判断をしてもらう手続的な権利を有することになります。

現在、家庭裁判所は、特別な不都合がない限りは、親子の定期的な交流は、子の福祉に沿うという考え方を取り入れているとされています。

この考え方の下では、面会交流の可否や条件を決める判断に際して、「面会交流を権利として認める」立場との比較において、結論に差がでるケースはそこまで多くないかもしれません。

ただ、他方で、「面会させないことによって権利が侵害された」という請求をする場合や「面会交流を可能ならしめる立法をせよ」、という運動論を展開する場合には、大きな差が生じると考えられます。

最高裁の考え方

最高裁は、面会交流の権利性に関して、見解3「子供との面会に関して、裁判所に適正に判断してもらう権利」と同種・同類の見解である、と理解されています。

この点に関し、平成12年5月1日最高裁判決に係る調査官解説は次のように述べており、参考になります(引用元:最高一小決平成12年5月1日最高裁判所民事判例集54巻5号1607頁)

「面接交渉の内容は監護者の監護教育内容と調和する方法と形式において決定されるべきものであり、面接交渉権といわれているものは、面接交渉を求める請求権というよりも、子の監護のために適正な措置を求める権利であるというのが相当である」
「面接交渉を求める親の心情が情理に沿うものである一面は否定できないとしても、面接交渉の可否や方法については、親の要望よりも子の福祉を第一に考えるのが相当であると考えられ、また、それが実務の主流でもある。
そうすると、前述のとおり、面接交渉の内容は監護者の監護教育内容と調和する方法と形式において決定されるべきものであり、面接交渉権といわれているものは、面接交渉を求める請求権ではなく、子の監護のために適正な措置を求める権利であるというのが相当である。」

調停や審判手続における実務に際しては、「親は子供にあう権利があるんだ」とあたかも実体法上の権利があるかのような言い分・主張が散見されますが、この権利性を押しても、あまり調停員に響きません。

むしろ、上記最高裁が言う「適正な措置」が当該事例においては何なのかを具体化し、根拠づけていくほうが、調停委員に主張を理解してもらう上では重要になります。

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