不貞・浮気の証拠として、典型的な者の一つに、探偵や興信所の調査報告書があります。
探偵・興信所の調査報告書
探偵や興信所に調査を依頼した場合、通常、その成果物として、調査報告書が依頼者に交付されます。
この調査報告書には、たとえばマンションへの出入りやホテルへの出入りなどの場面を写真・動画などで抑えたものが記載されていることもあり、その中には、証拠価値が極めて高いといえるものもあります。
ただ、探偵・興信所の調査のための費用は、決して経済的に安いといえるものではありません。
インターネットで調べた結果ではありますが、その相場は次のように説明されていました。
- 20時間の調査⇒40~50万円
- 30時間の調査⇒60~70万円
- 40時間の調査⇒80~90万円
探偵・調査費用の請求の可否
この探偵・調査費用が不貞行為の慰謝料請求などに際して、併せて請求をされることがあります。
不貞をされた側において、「慰謝料を支払え」という請求の他、この「探偵費用を支払え」という請求を起こすケースです。こうした請求は認められるでしょうか…。
まず、裁判での結論は分かれていますが、「全額認める」というケースはほぼありません。
どちらかと言えば、請求自体を認めない、という判断がなされることが多く、「仮に請求を認めても一部のみ」といった結論に留まります。
以下、いくつか裁判例を見ていきます。
請求が否定された例(裁判例を4つ紹介)
まず、否定例を見ていきます。否定例の裁判例から伺われるとおり、不貞行為に関する調査費用は慰謝料額の算定に際して斟酌される余地はあるものの、次の理由から、原則論的には否定、というところからスタートすると考えた方がよさそうです。、
- 不貞行為の有無=性行為の有無という単純な事実であって、その存否及び関係者の確定のために専門的知見に基づく調査、判断が必要とはいえない
- 調査費用は、本件請求に関する証拠収集のための費用であり、いかなる証拠収集方法を選択するかは専ら依頼者の判断によるものである
次に否定例です。
東京地方裁判所令和4年6月1日判決(調査費87万2860円)
証拠(甲2、9)によれば、原告は、被告とAによる不貞行為の調査を訴外株式会社HALに依頼し、調査費として87万2860円を支払ったことが認められる。
しかし、証拠(甲14)及び弁論の全趣旨によれば、原告が上記会社に調査を依頼したのは、原告や他の親族も被告とAの様子が明らかにおかしいと感じるようになったからであると認められ、かかる事情によれば、上記調査費は、被告とAとの間の不貞行為の調査及び損害賠償請求に必要不可欠なものとは認められず、被告による不法行為と相当因果関係のある損害であると認めることはできない。
東京地判令和4年5月17日判決(調査費147万9000円)
東京地方裁判所令和3年12月16日判決(調査費167万9846円)
原告がAの不貞行為の調査費用として167万9846円を支出したことが認められる。
しかし、調査費用は、本件請求に関する証拠収集のための費用であり、いかなる証拠収集方法を選択するかは専ら原告の判断によるものであるから、調査費用それ自体をもって、被告の上記不貞行為と相当因果関係のある損害ということはできず、原告がこのような出費をしたことは、慰謝料算定の一事由として考慮するのが相当である。
東京地方裁判所令和3年10月29日判決(調査費76万9062円)
一部調査費用の請求が肯定された例(東京地方裁判所令和4年6月9日判決)
次に、調査費用の一部支払いを認めた例を紹介します。
この裁判例は、次の要素を理由に、探偵費用の一部の支払いを認めました(383万円の調査費に対して、40万円の限度で肯定) 。
- 一般的な事案における探偵調査利用の必要性よりも特別の必要性があること、
- 他に合理的な証拠収集手段がないこと
- 探偵調査の結果、有意な成果が上がっていること
- 東京地方裁判所令和4年6月9日判決
探偵会社による調査は、主として不貞行為に関する証拠収集を目的とするものであるが、配偶者に不貞に関する疑いが生じた場合であっても、直ちにこれを利用することが一般的であるとは認め難く、通常その費用は不貞行為と相当因果関係がある損害であるとはいえない。
しかしながら、本件では、原告は、現に不貞行為を継続している配偶者から、そのことを秘匿したままで離婚を求められており、適正な解決に資する証拠収集の必要性が特に高い状況にあったと認められる一方、調査依頼の時点では、配偶者の不貞行為に関する有力な証拠・情報を収集できておらず、調査以外にその収集のための合理的な手段方法を欠いていたと認められる(自宅におけるウェブカメラ、自家用車のGPSの設置により有力な証拠等が収集できたとはいえない。)。加えて、原告の配偶者からの離婚の申出は、被告との不貞関係と密接に関連しており、調査の結果、原告の配偶者と被告との不貞行為を裏付ける有力な証拠が得られたことが明らかである。
このような事実関係の下では、原告が支払った探偵調査費用については、相当と認められる金額の限度で被告の不法行為と相当因果関係がある損害として認めるのが相当であり、本件では40万円の限度でその損害に当たると認められる。
探偵の利用は慎重に検討する
上記裁判例の状況に照らすと、探偵の利用については慎重にあるべきです。
およそ軽々には請求できず、仮に認められても、調査費の一部のみ、となる結論が想定されます(ここ最近の一部認容例を探すのにも苦労したほどです。)
探偵費用は、非常に高額であり、場合によっては慰謝料額をはるかに超える金額となることもあります。
探偵を利用した場合、慰謝料の支払を受けることによる経済的利益は無いか、マイナスの結果となることも想定しなければなりません。
金額の問題は置いておいて、とにかく証明・立証したい、という場合は格別、現状においては、金銭的な面においてプラスを確保したい、という場合、探偵の利用については慎重にあるべきといえそうです。