「離婚裁判で嘘ばかり」というご相談と弁護士の受け止め・対応すべきこと

弁護士として離婚調停の代理人をしていると、依頼者から、相手は嘘ばかりついている、どうにかならないんですか?と相談を受けることがあります。

「相手が嘘ばかりついている」というご相談を受けるのは、何も離婚事件に限ったものではありませんが、離婚事件は、この種のご相談が多い印象です。

「依頼者」と「弁護士」の受け止め

この「嘘ばかりついている」というご相談、おそらくは、依頼者の方と弁護士とで、受け止めが大きく異なります。

依頼者の方の受け止め

「離婚訴訟、あるいは調停などでも同じですが、「相手が嘘をついている」というとき、「相手の言っていることは違う、嘘をつくのは許せない」「罰は与えられないんですか?」という相談を受けることがあります。こうしたお気持ちになられる方も少なくないのだと思います。

離婚訴訟という大切な場面で嘘をつかれたときに、「許せない」「罰してほしい」、こうした気持ちになること自体は理解できますし、実際の事実と違うことは主張しないでほしい、という気持ちは尊重されるべきものです。

弁護士の受け止め

ただ、これに対する弁護士側の受け止めは、多くの場合、やや違います。

「否認」(違うというだけで)足りる場合もある

「相手が嘘をついている」というご相談の意味内容は、殊、裁判手続という視点で見ると、「事実・真実と異なる主張をしている」という意味合いに捉えられます。

したがって、弁護士としては、その相手方の主張につき、否認をする(その主張事実は、正しくない、違うという意味の主張をする)、という対応をすることが多いです。

というのも、裁判では、自己に有利な事実を主張する者が、その事実を証明する責任を負うのが原則です。その証明がないときは、その事実は存在しないものと扱われます。こちらが否認する限りは、その主張をした者がこれを証拠によって裏付ける責任を負うのです。

相手がある事実を主張しており、その主張につき、依頼者がこれを「嘘だ」と訴えたとき、弁護士としては、第一義的には、「その相手の主張が証拠によって裏付けられているか」に思考が回ります。

そして、その主張が証拠で裏付けられていなければ、そこに当事者の言い分に違いがある限り、裁判では、「その事実はないもの」と扱われますので、この場合、依頼者の不利にはなりません。

そのため、「嘘をつかれた」というケースでも、裁判の進行という意味合いにおいては、単なる否認に留め、積極的な反駁は要しない、というケースが生じるのです。

弁護士側の悩みどころ

ただ、「相手の嘘」に対して、単に「これを否認する」という弁護士の対応は、依頼者の「許せない」「罰せられないのか」という気持ちに直接応えるものではありません。

そのために、相手の主張する事実についてこれを「否認する」という対応だけでは、「依頼者の受け止め」「気持ち」に応えきれている、寄り添えているとは言えないケースがどうしても出てきます。

もちろん、積極的な反駁が可能な証拠が依頼者側の手元にあれば、相手の主張の信用を落とすチャンスですので、相手の嘘に対して積極的な反駁を行うべきです。「相手の嘘」に対して、強く反論を行う場合もでてきます。

ただ、「嘘を嘘だ」というための証拠がなければ、そこに踏み込むのが得策でないことも多く、裁判の進行・整理のため、ここにウェイトを置けないケースも生じえます。これが弁護士の悩みどころの一つです。

嘘に付き合うのではなく、重要な部分にこそ対応を

上記の通り、訴訟の進行上は、これを否認し、たとえば「何らの裏付けもない主張をしている」などと主張すれば足りる場面で、相手の嘘に付き合って、争点を増やしたり、審理を長期化させたりすること自体がデメリットとなることがあります。

それよりも、自分の主張を固める・証拠で裏付けていく方に力点を置く方が、よほど抑制・メリハリが効いた説得力のある書面の作成に資すといえます。

その方が、結果的には、裁判官の心証形成への影響度・説得度が増すはずです。(相手の嘘に逐一付き合うと、それにより、ご自身の主張が散らかってしまいます。ひどいものになると悪口の応酬のような書面となることもあります。)。

弁護士としては、「相手の嘘」に対して、須らく、逐次の反駁を加えたほうが、「依頼者」の気持ちに応えられるのかもしませんが、それでは、現実的に、専門家としての訴訟活動にはなりません。

せっかく専門家に費用を払って訴訟を追行させる意味がほとんど無くなってしまうのではないかと思います。

「嘘」を含む相手の主張全般に対して、その中で「活きているのはどの主張なのか」「相手の武器となっているのはどこの主張なのか」を見極め、「嘘」に付き合うのではなく、相手の主張の内、積極的につぶさなければならない重要な部分に焦点を当てて対応することこそが大切です。

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