面会交流の間接強制について

面会交流の間接強制

調停や審判で決められた面会交流条件が履行されない時、強制執行ができるか、という点が問題となることがあります。

 

面会交流の強制執行の方法

強制執行には、執行官が直接的に権利を実現する場合と債務者に精神的なプレッシャーを掛け、権利を実現する場合の二つがあります。

前者を直接強制、後者を間接強制といいます。

面会交流に当てはめると、前者は、執行官が実力行使で子供を引渡し場所まで連れてくる、という執行方法となり、後者は、相手親が子供を引渡し場所まで連れてこない場合に、強制金を課すぞ、とプレッシャーをかけることで、相手親の債務を実現する方法となります。

 

面会交流の執行方法は間接強制による

日本の司法の下では、執行官が実力行使で子供を引渡し場所まで連れてくる、という直接強制は認められておらず、認められているのは、間接強制のみに留まります。

母親が監護親であり、父親が面会交流を求めている親である場合を例とすれば、子どもを連れてこないなら、強制金を課すぞ、と母親にプレッシャーをかけ、母親に子供をつれてくるよう促す方法です。

強制金を課す決定がなされたにもかかわらず、それでも履行されない場合、父親は、間接強制金の支払い求めて母親の財産に強制執行を行うことができます。

 

間接強制の申立の方法

ここで先んじて、強制執行(間接強制)の申立について説明しておきます。

必要な書類等

強制執行は、直接強制であれ、間接強制であれ、債務名義と呼ばれる文書に基づいて行います。

実際に間接強制を課すには、執行力のある債務名義として機能する調停調書や審判調書を有していることが必要です。

申立てに際しては、必要な書類など家裁に提出することで行います(要領・詳細、必要部数等については各家裁に要確認)

申立先 調停,審判又は判決等をした家庭裁判所
裁判所の費用・ 収入印紙2000円
・ 連絡用の郵便切手(申立先の家庭裁判所へ確認してください。)
必要書類申立書、執行力のある債務名義の正本,債務名義の正本送達証明書、その他の資料

※申立てには、「執行力のある債務名義の正本」が添付資料として必要であるところ、この内容については、後述の最高裁の判示を基礎とすることになります。

※その他の資料として、強制金の金額につき、妥当性を判断するため、収入関係資料の提示が求められることがあります。

申立の趣旨

また、間接強制を現に求めるには、申立書を家庭裁判所に提出する必要があります。その申立書には、「申立の趣旨」と呼ばれる請求内容を記載する必要があります。その一例は次のとおりです。

1 債務者は、当事者間の福岡地方裁判所小倉支部令和○○年(家)第○○号子の監護に関する処分(面会交流)申立事件において、令和○○年○月○日に審判された執行力のある審判正本に基づき、債権者に対して、別紙面会交流要領記載の内容にて、面会交流することを許さなければならない。
2 債務者が本決定の告知を受けた日以後、前項の義務を履行しないときは、債務者は、債権者に対して、不履行1回につき金○○万円を支払え

なお、申立書には、さらに「申立の理由」として、調停や審判で定められた面会交流が実現していないこと、強制金の金額が妥当であること等を記載します。

 

強制金の金額

間接強制は、債務不履行につき、強制金を課す決定をすることで、債務者にプレッシャーをかける執行の方法です。

強制金をいくらとしてほしいかは、申立人が申立段階で指定します。ただ、必ずしも申立書記載のとおりとなるわけではありません。面会交流の間接強制に係る強制金の相場観を得るには、次のような裁判例が参考になります。

裁判所は、双方の収入・債務不履行の状況・理由・婚費・養育費の額などを勘案して強制金の額を定めているものと思われます。

甲府家庭裁判所 令和04年04月01日決定
未成年者二人、月2回のケース)
債務の不履行に際して債務者が支払うべき金額について検討するに、上記のとおり、面
会交流の頻度は月2回であること、債務者の年収は800万円程度であることなど本件に現れた一切の事情を考慮して、債務の不履行に際して債務者が支払うべき金額は、不履行1回につき3万円と定めるのが相当である。
京都家庭裁判所 令和03年05月31日決定
子二人、月1回のケース
債権者の
令和2年分の年収(給与)は447万3034円であり、債務者の令和2年分の年収(給与)は442万2338円である。
前記1の事情及び申立ての趣旨等を考慮すると、債務者が・・・の義務の履行を怠った際に支払を命じられる金額としては、子1人についての不履行1回につき4万円とするのが相当である。 
東京高決令和1年11月21日決定 (家庭の法と裁判37号74頁)
※未成年者二人、月1回のケース
相手方が、抗告人に対し、前記婚姻費用分担調停に基づき、月額12万円の婚姻費用を支払うことを約束し、前記離婚調停において、離婚後も未成年者らの養育費として未成年者1人つき月額4万2500円を支払うことが定められていること、本件面会交流調停に基づき抗告人が義務付けられる面会交流実施は月1回であること、その他本件に現れた一切の事情を考慮するならば、各未成年者につき、不履行1回につき5万円の間接強制金の支払を命ずるのが相当である。 

 

間接強制を認めた最高裁判決が示す条件

上記において、面会交流の間接強制をするには、執行力のある債務名義として機能する調停調書や審判調書が必要であると説明しました。

この調停調書や審判調書は一定の条件を満たす内容のものである必要があります。

平成25年3月28日の判決(最高裁判所裁判集民事判例集67巻3号864頁)について

面会交流に関し、間接強制が可能となる条件を示した最高裁判決が、平成25年3月28日の判決(最高裁判所裁判集民事判例集67巻3号864頁)です。

極めて重要な判決ですので、以下、引用します。

監護親に対し、非監護親が子と面会交流をすることを許さなければならないと命ずる審判は、少なくとも、監護親が、引渡場所において非監護親に対して子を引き渡し、非監護親と子との面会交流の間、これを妨害しないなどの給付を内容とするものが一般であり、そのような給付については、性質上、間接強制をすることができないものではない。したがって、監護親に対し非監護親が子と面会交流をすることを許さなければならないと命ずる審判において、面会交流の日時又は頻度、各回の面会交流時間の長さ、子の引渡しの方法等が具体的に定められているなど監護親がすべき給付の特定に欠けるところがないといえる場合は、上記審判に基づき監護親に対し間接強制決定をすることができると解するのが相当である

この最高裁の判決によると、面会交流の①日時又は頻度、➁面会交流時間の長さ、➂子の引渡し方法などが調停調書や審判書にて特定されているとき、面会交流に関して、「間接強制が可能」とされます。

上記間接強制の申立てに必要な書類の一つである執行力のある債務名義の正本としての調停調書や審判調書が、この最高裁の述べる条件を満たしている必要があるのです。

反対に、上記のような各条件の特定が欠けるときは、面会交流につき、間接強制をすることができません。

間接強制を認めた例・否定した例

最高裁は、上記判決日に3つの事例に対して判断をしています。一つが肯定例(前掲判例)、残りの二つが否定例です。

肯定例について

肯定例は、次のような面会交流条項が定められていました。(一部読みやすいように改変および省略)

➀面会交流の日程等について

月1回、毎月第2土曜日の午前10時から午後4時まで

➁面会交流の場所

長女の福祉を考慮して相手方自宅以外の相手方が定めた場所とすること

➂ 面会交流の方法
  • 長女の受渡場所は、抗告人自宅以外の場所とし、当事者間で協議して定めるが、協議が調わないときは、JR甲駅東口改札付近とすること
  • 抗告人は、面会交流開始時に、受渡場所において長女を相手方に引き渡し、相手方は、面会交流終了時に、受渡場所において長女を抗告人に引き渡すこと
  • 抗告人は、長女を引き渡す場面のほかは、相手方と長女の面会交流には立ち会わないこと
  • 長女の病気などやむを得ない事情により上記〈1〉の日程で面会交流を実施できない場合は、相手方と抗告人は、長女の福祉を考慮して代替日を決めること

否定例について

否定された事例においては、最高裁は次のような理由付けの下、特定不十分として間接強制を否定しています。

否定例➀
面会交流の頻度について「2箇月に1回程度」とし、各回の面会交流時間の長さも、「半日程度(原則として午前11時から午後5時まで)」としつつも、「最初は1時間程度から始めることとし、長男の様子を見ながら徐々に時間を延ばすこととする。」とするなど、それらを必ずしも特定していない
否定例➁
本件条項は、1箇月に2回、土曜日又は日曜日に面会交流をするものとし、また、1回につき6時間面会交流をするとして、面会交流の頻度や各回の面会交流時間の長さは定められているといえるものの、長男及び二男の引渡しの方法については何ら定められてはいない。

 

肯定例の文言を基礎に裁判例が集積

面会交流における間接強制を目指す場合には、上記最高裁が判示した条件を満たす文言を策定する(審判の場合には裁判所に策定してもらう)ことが必要となります。

なお、実務では、上記最高裁の判示のあと、間接強制可能な条件を策定する際、最高裁の肯定事例における面会交流条項の文言が多用されるようになりました。

最高裁が肯定した事例における文言を全てなぞる必要はありませんが、弁護士との相談に際しても、これを基礎として打ち合わせがなされることが多いはずです。

 

執行段階での争点

上記に述べてきたことは、「間接強制の入り口」「申立段階」に関するものです。

➀最高裁が述べた条件を満たす調停調書や審判調書を経て、➁これを債務名義として強制執行の申立をしたとしても、➂相手方から、間接強制を認める決定に対して異議を唱える手続(執行抗告)が採られる可能性があります。

この場合、さらに、次のような争点が形成され得ます。

・債務不履行のおそれがあるか否か

・債務者の意思だけで実現できるものか

・過酷執行に当たらないか

・裁判所が決定した強制金の金額の妥当性

間接強制の申立てができたとしても、上記のような各論点が形成され、執行が実現できない、というケースも生じうるため注意が必要です。

>北九州の弁護士ならひびき法律事務所へ

北九州の弁護士ならひびき法律事務所へ

CTR IMG